「どこにいるんだーーい?マテールの亡霊ちゃあーーん」

薄暗い石垣で囲まれた通路を、それは彷徨い歩いていた。
ピエロの恰好をした可笑しなそれは、レベル2へと進化したアクマの姿。
アクマが求め歩くのはこの地にあると聞くイノセンス――マテールの亡霊。
初期レベルのアクマと違い自我を持つレベル2は、今の状況を楽しむかのように高笑いを零す。


「ララ、逃げろ…」
「ううん、平気よ。グゾルと一緒にいる。私を受けいれてくれたのはグゾルだけだもん」

ファインダーが守りを固めるその奥で、帽子と布に身を隠した男が、この場に似つかわしくない少女に言う。
ララと呼ばれた少女は、男
――グゾルに向かって首を振ると、一緒にいるとグゾルのフードを握った。


「見ぃつけた!」

絶望の歌が始まる。





土翁と空夜のアリア








三日月が寒々しく荒野を照らす中、猛スピードで移動する影が4つあった。
神田、アレン、そしてトマが地を駆け、はリデルによって与えられた羽で宙を駆る。


「マテールの亡霊がただの人形だなんて…」
「(五百年経った現在いまでも踊り続ける、快楽人形…)」
「イノセンスを使って造られたのならありえない話じゃない」

冷静な神田の一言のあと、一団を強烈な冷気が襲う。
足を止め都市を見下ろすと、張り詰めたかのようにキンとした空気が伝わってくる。


「ちっ、トマの無線が通じなかったんで急いでみたが…殺られたな」
「…………」
「おいお前」

空から遠くまでを見渡していたもアレンと神田の側に降り立った。
神田からアレンに声を掛けるなんてと思ったが、次に出てきた言葉は優しい激励の言葉でもなんでもないものだった。


「始まる前に言っとく。お前が敵に殺されそうになっても、任務遂行の邪魔だと判断したら俺はお前を見殺しにするぜ!」

冷たい物言いではあるが、アレンの表情は分かっていたかのように変わる事はなかった。
だけが、「まただよ…」と悪態をついている。


「戦争に犠牲は当然だからな。変な仲間意識持つなよ」
「ちょっ、神田っ」

いい加減これ以上チームワークを乱さないで欲しい。
は言いすぎだと神田の腕を掴んだが、の静止よりも早く、アレンが口を開いた。


な言い方」

ぼそっと呟いただけだったのだろうが、には聞こえていた。
神田の代わりにでも謝っておこうと思った直後、目の前の都市で突如爆発が生じる。
爆風がこちらまで襲ってきて、の髪を舞い上げた。


「探す手間が省けたな」
「あ、ちょ、アレン!」

ヘッ、と神田が笑うと同時に、横に居たアレンが崖を下り都市へ行ってしまった。
が慌てて後を追おうとすると、神田がの腕を掴む。


「神田っ!」
「忠告したにも関わらず突っ込んだのはアイツだ。助ける義理はない」
「でもっ」

アレンは仮にもこれが初任務になる。
姉弟子としても、同僚としても放って置くわけにはいかない。
神田に抗議を申し立てるが、確かに神田の言う事にも一理ある。


「お前こそ、あんまり俺の側を離れるなよ。何の為にモヤシを入れてまで3人で此処まで来たと思ってんだ」
「っ」

コムイの言葉がの脳裏を過ぎる。
神田が提案した、アレンとのコンビが有無も言わさず却下された理由。
それは初任務のアレンと、問題を抱えるの2人では危険だと判断した為。
は何も言えなくなり、意気消沈して神田の隣で大人しくなる。


「行くぞ」

アレンではなくマテールの亡霊を救いに、神田は都市へと飛び降りる。
も黙って羽を広げると、神田の後を追いかけた。









「ヒマ潰しにお前の頭で遊んでやる」
「やめろ!」

アクマがファインダーの頭を踏み潰すと同時に、アレンがアクマのボディに解放したイノセンスを叩き込む。
アレンの左目が反応し、アクマだと断定する。


「何、お前?」

アクマとアレンの視線が交錯し、アレンはたじろぐ。
今まで見てきたアクマと、種類が違う。


「何よ?」

振り上げられた足がアレンの体にヒットし、壁を突き抜けて飛ばされる。
破壊力は通常のアクマよりも格段に上がっているようだ。


「あの馬鹿」
「………」

ようやく都市に降り立った神田は、早速やられているアレンを見て吐く。
同じように神田の隣に着地したは、もうもうと煙を上げて崩れる壁を見て、表情を顰めた。
1人では助けに行く事もできないもどかしさが辛い。


「今までの白い奴らとは違ったな。黒い奴だった」

アクマは楽しそうに笑う。
上から様子を窺っていた神田は、じっとアクマを見やる。


「レベル2…か」
「初期レベルの時より強くなって自我を持ってるから厄介だし、
レベル2は能力を持つからアレンだけじゃ大変だよ…神田……」

の心配を他所に、神田は人形の方を見ていた。
結果装置タリズマンの結界で守られているようだが、長くは持ちそうに無い。
どうしようかと神田とアレンを見比べているの横で、神田は背中に挿した六幻を引き抜く。


「いくぞ、六幻!」

―抜刀!―
神田の指先が黒い六幻の刀身をなぞり上げると、触れた所から色が変わる。
イノセンスの発動が完了すると、どこからとも無く銃声に似たような音が響く。


「聞こえる?私の胸の音…興奮しちゃってるみたい!エクソシストエクソシストエクソシスト」

アクマは壊れたように興奮し始めた。
が顔を顰めると、様子を窺う為に屈んでいた神田がゆっくり立ち上がる。


「アイツは放っておけ。人形の保護が最優先だ」
「…うん」

言うや否や神田は建物伝いに走り出した。
も再び羽を広げて、アレンを見やってから腕につけられたブレスレットを握り締める。


創造書イノセンス、発動!」

の言葉と共に、ブレスレットが光を放ち瞬く間に本を具現化した。
また、の首元から同じように薄っすらと発光する十字架イノセンスが覗く。

ギャアアアアアアア
アクマが悲鳴を上げ、アレンとレベル2が声の方向に顔を向ける。
すると闇夜に神田とのシルエットが重なって見えた。



  



ヒロインのイノセンスがようやく出せました。
と言う訳でイノセンスは「創造書(クリエイト)」です。
また途中神田とヒロインの意味深な会話の解明は後程。

2008/11/07