「あの」

遠くで汽車の汽笛が聞こえる。
そんな中、それを目指して高速で移動するものがあった。


「ちょっとひとつ分からないことがあるんですけど…」
「それより今は汽車だ!!」

家々を伝いながら移動する最中、駅から出てきた汽車が見えた。
アレンが資料を片手に疑問を投げかけるが、神田が怒鳴りつけ渋々資料から顔を上げる。
鉄橋の上にそれぞれ着地すると、先導するファインダーが「お急ぎください、汽車がまいりました」と急かした。


「でええっ!?これに乗るんですか!」
「そうよ、急いだ方がいいかもね」
「えっ!?ちょ、!?」

ふわりとアレンの視界に入ってきたのは純白の羽根。
天使かと見紛うほどの美しい羽根にアレンが顔を上げると、そこには羽を纏ったが優雅にそれを羽ばたかせアレンを追い越していく。
驚きに声を上げるが、そんな猶予を与えてもらう間もなくアレンは神田やファインダーに続いて汽車の上に降り立った。


「飛び乗り乗車…」
「いつものことでございます」

同行するファインダーが、冷静に返してくれた。





土翁と空夜のアリア








「困りますお客様!こちらは上級車両でございまして、一般のお客様は二等車両の方に…」

乗務員の男が慌てたような声を上げている。
それも当然だ。
突然汽車の上から人が乗車してくれば誰だって驚くものである。
更に言えばここは一等車両でもある場所なので尚更のようだ。


「黒の教団です。一室用意してください」

有無を言わさぬようなファインダーの一言に、男はハッと神田の団服に刻まれている
ローズクロスを見て慌てて頭を下げた。
「か、かしこまりました!」と言うや否や、走って廊下の向こうへ消える。
恐らく部屋の確認にでも行ったのだろう。


「何です今の?」
「あなた方の胸にあるローズクロスはヴァチカンの名においてあらゆる場所の入場が認められているのでございます」

「つまり、何処でも無料で建物に入ったり乗り物に乗れちゃうという素晴らしい特典な訳だよ」

まだ下りてきていなかったが上の穴から顔を覗かせて言った。
アレンが上を見上げると、「ちょっと退いてて」と手を仰ぐ。
数歩その場所からずれると、がくるん、とまるで鉄棒でもするかのように半回転して下りてきた。
軽やかな着地は流石と言ったところだ。


「エクソシストの特権なの」
「便利なんですね」
「まぁ、危険を伴う目印マーカーでもあるけどね」
「え…?」

「ところで」

ぽつりとが言葉を残したが、アレンが疑問を投げかける前にファインダーの言葉が入った。
、アレン、神田はそれぞれファインダーに目を向ける。


「私は今回マテールまでお供するファインダーのトマ。ヨロシクお願いいたします」

トマがようやく紹介をすると、とアレンは「よろしく」と一言告げる。
しかし神田は相変わらずのようで、さっさと背を向けると戻って来た乗務員に案内されるままに歩き出した。









「トマさんはいいんですか?」
「私は外で待機するのが役目ですので」

神田、と続いて個室に入るが、足を止めたトマにアレンは声を掛ける。
トマは一瞬驚いたものの、エクソシストの為に外で待機している旨を伝えると
礼を述べて再び入り口脇に姿勢正しく立ちなおす。
それを見届けたアレンは「そうですか…じゃあお願いします」とだけ残して扉を閉めた。


「アレンどっちに座る?」

と神田が、向き合うように座っている中で、一足遅く中に入ったアレンにが尋ねる。
神田の方を見ると、座ったら殺すとでも言いたそうに睨み付けていて、アレンは答えるまでも無くの隣に座った。


「ところで、さっきのアレ、何なんですか?」
「ん?アレ?」

外の景色を見ていたがアレンに振り返る。
アレ、と問い返すと、「さっきの羽です」と身振り手振りで説明した。


「ああ、羽ね。羽はほら、この子」
「え」

は肩に止まっていたリデルを指差す。
リデルは行儀良くの肩に鎮座しており、反応するかのように羽を広げてみせた。


「言ったでしょ?特殊な能力があるって。廊下だと狭くて出来ないからって」
「あ…あぁ!」
「羽広げると結構大きいからさ、あの時は見せてあげられなかったけど、あれがこの子の能力なの」

の持つゴーレムであるリデルには特殊な能力がある。
それはに羽根を与える事で空を飛べるようにする事。
アレンが関心したように肩のリデルを見つめる。


「てっきりのイノセンスかと思いましたよ…」
「さすがの神も、人間ひとに空を駆る羽は与えてはくれないでしょ」

そう言ったを、神田はちらりと見やった。
何処か苦痛に似たの表情を見た後、再び窓の外に目をやる。


「便利ですね」
「ティムはそういう機能ないの?」
「さぁ…僕もティムがどんなものなのか師匠からちゃんと教わってませんから」

ティム、とアレンが呼ぶと、部屋を飛び回っていたティムはふわりとこちらへ下りてくる。
がしかし、ティムが降り立ったのは、の頭の上だった。


「もーティム!に迷惑だろっ!?」
「平気だよ。久し振りだねーティム」

が指でちょんちょんとティムをつつくと、ティムはわさわさと羽を動かした。
どうやら喜んでいるようだ。
アレンが不思議そうな顔でとティムを見ていると、がふ、と笑う。


「アレンアレン。私これでも師匠の弟子だよ?昔はティムと修羅場潜ってきたんだから」
「あ、そっか」

思えばティムは最初からクロスと行動を共にしていた。
となれば、姉弟子であるも当然ティムの存在は知っているはず。
アレンは納得すると、「あ」と呟いた後ごそごそと懐を探り資料を取り出した。


「忘れる所だった。さっきの質問なんですけど」

ぺらっと資料を捲り、目を通しながらアレンは疑問を口にする。


「何でこの奇怪伝説とイノセンスが関係あるんですか?」

顔を上げれば前の席には神田がおり、当然視線が神田に向けられる。
神田はめんどくさそうに顔を歪めた後、「チッ」とあからさまに舌打ちした。


「イノセンスってのはだな…」
「(今「チッ」って舌打ちした)」
「(不器用だなぁ神田ってば。アレン可哀想)」

舌打ちはしたものの、ちゃんと説明はしてくれるらしい。
アレンは聞く相手を間違えたかなと思いながらも、説明を始めてくれた神田に目を向けた。
そんな2人のやり取りを、はリデルとティムを撫でながら苦笑して見ている。
神田が一頻りノアの大洪水からの流れを説明し終えると、
アレンがまたしてもチャレンジャーに神田に質問を投げかけた。


「じゃあこの「マテールの亡霊」はイノセンスが原因かもしれないってこと?」
「ああ」
「“奇怪の場所にイノセンスがある”って、昔から言われててね、だから教団はそういう場所にファインダーを送って調査して、可能性が高いと判断したら私達エクソシストを回すのよ」

折角のアレンと神田が仲良くなれるチャンスかもしれないと、は仲介役になるべくして神田の言葉を引き継いだ。
が神田に目をやると、神田は黙って資料を広げている。
どうやら先程までの険悪な雰囲気はなくなったようだ。
ほっとしても手元の資料を覗き込む。

イノセンスとは奇怪なもの。
そこに在るだけでも影響を及ぼす程のエネルギーがあり、「適合者」が持てば対アクマ武器とも成りえるもの。
それは不思議な結晶と呼ぶに相応しい。

それぞれが資料に目を通す中、アレン、神田、があるページで目を留めた。
すると外にいるはずのトマが、まるで部屋の中の空気を読み取ったかのように「そうでございます」と言葉を発する。


「トマも今回の調査の一員でしたのでこの目で見ております。マテールの亡霊の正体は…」



  



と言うわけでリデルの能力発揮。
今度はヒロインのイノセンスの紹介が出来るよう頑張ります。

2008/11/07