「まったくもって変なところね」

さっきから出てくるのは溜め息とぼやきだけ。
そうでもしていないとおかしくなってしまいそうだからだ。
はときどき後ろを振り返りながら一本道である廊下を進む。
廊下と称したのは恐らく部屋の中だから。
それにまるで誰かが住んでいるかのような跡が見られる。

例えば、壁に点々と備えてあるロウソクだとか。
何の前触れもなく置いてある本棚だとか。
時には日用品のようなものもある。


「もしかして地中に家でも持っている人がいるとか」

そんな事をぶつぶつと呟いていると、廊下の先にいくつかに別れている分岐した道が見えてきた。
何となしにそこを目指して歩いていると、その一本の道から白い影が出てくる。
足を止めて良く目を凝らすとそれは人だったのだが、その人物に思わずは驚いて「あ!」と声を上げてしまった。
けれどその人物はこちらに気がつくこともなく小走りで何かを覗き込みながら走っていく。


「え……あ、アレン…?」

の目に映ったのは、紛れもなくこの間教団入りした弟弟子、アレンの姿だった。





不思議の街のアリス








「っ、ちょっと待ってアレン!」

は走り出した。
その時は事の状況を余り深く考えていなかったのだろう。
どうしてアレンがここにいるのだろう、とか。
どうしてアレンはあんなに焦っているのだろう、とか。
どうしてアレンがあんな格好をしているのだろう、とか。

そう、アレンの普段と違う所。
教団の団服を着ていない普段着の姿で、赤と黒のチェック柄のベストに白いシャツ。
白い縦縞の入った黒いスラックスにブーツ。
ただ違うのはアレンの頭に生えている耳だ。
そこにはあるはずのない、白い兎の耳が生えていた。


「アレンっ!待ってってば!!」
「時間がないんですっ!急がないと!」

の数歩先を走りながら焦っている様子でアレンが答えた。
その頭どうしたの?どうしてここにいるの?と尋ねるよりも、まずはアレンを引き止めなければ始まらない。
は何とか追いつこうとしたが、いつの間に場所を移動していたのか薄暗い森の中を走っていて、そこでアレンを見失ってしまった。
ハァハァと肩で息を整えながら立ち止まる。


「っは…ここ、何処…?」

360度見渡してみたが何の特徴も目印もない森がずーっと広がっている。
空を見上げてみても鬱蒼と生い茂る草木に覆われて空は見えない。
ただどうして明るいのか、自分が居る場所だけははっきりと良く見えた。


「アレン…」

さっきのは確実にアレンだった。
ただ頭に白い兎耳を生やしているところ以外は何ら変わりない。
手に持っていたのは時計のようだったが、大きな懐中時計を覗き込んで「時間がない」と言っていた。
その姿はまるで。


「追いかけてきた白兎……――― まさかね」

ここに来るきっかけを作った兎を連想したが、あの兎がアレンであるはずがない。
確かに白髪である所とか、目の色とか、そして何よりも大きく主張していた兎耳と時計がそれを連想させるのだが、アレンではない…と思われる。


「っていうか…どうしようー…」

は呆然と立ち尽くした。
いったい自分は今どっちから走ってきたかさえも分からない。
戻るに戻れず、進むにも辺りは人の気配もない森な上、道がない。
八方塞状態になりは「うーん」と悩む。


「迷子かな?お嬢さん」

へ?と後ろを振り返る。
けれどそこには誰もいなかった。
はもう一度前を見てみるが人の姿は確認できず、ぐるぐるとその場で回ってみたがやっぱり人が居る様子はない。


「え…今のって」
「こっちだよ、ちゃん」

聞こえてきた方向をバッと見やる。
傍らの木の上を見上げると、そこにはなんとコムイがいた。
はコムイがいた事にも驚いたが、それより何よりコムイの格好に唖然と口を呆けたように開けてしまう。


「こ、コムイ室長…?」
「室長だなんて水臭いなぁちゃん。コムイでいいよ」

木の上にいたのは間違えるはずもないコムイ。
がしかし、その姿は奇抜を通り越してどうした、と問いたいほどのものだった。


「(ピンク…)」

コムイは全身がピンクと黒でコーディネイトされたスーツを着ていた。
先ほどの部屋と同じピンクと黒の服。
は目がチカチカとした。
上から下まで、つまりシルクハットの帽子から足元に至るまでがその色だけで構成されているのだ。
ただちょっとデザインに着目してみれば、帽子とジャケットとネクタイがピンクで、シャツとスラックスが真っ黒という所だろうか。

そのコムイはいつもと変わらぬ様子で木の上にまるで椅子にでも腰掛けているように座り、片手にステッキを持ち、クッとメガネを押し上げている。


「迷子になっちゃったのかな?ちゃん」
「え…えぇ…ところでコムイさん」
「さてさてここで問題です」
「はい?」

が話し掛けようとした直後、コムイがにっこりと微笑んでステッキを掴む。
それをゆっくりと持ち上げてとある方向へとステッキを差し向けた。


「白兎は何処へ行ったでしょうか」
「アレンの事!知ってるんですか!?」
「あっちかな?」

の言葉などまるで聞いていないかのような態度でコムイは言葉を切って今度は反対側をステッキで指す。


「それとも、あっちかな?」
「コムイさん…?」
「どっちへ行きたいのかな?迷子のアリス?」

はついに訝しんだ。
そこでようやく冷静になる。

そもそもどうしてここにコムイがいるのだろうか。
アレンならまだしも、コムイがここにいるのは明らかにおかしい。
更に気になるのがこの態度だ。
の知っているアレンとコムイは自分を無視する事は殆どない。
それにこんな態度も取らない。
は口を閉ざして疑いの眼差しでコムイを見上げる。
そのままゆっくりと後ろへ下がり始めた。


「あなた、誰?」

震える唇で紡ぎ出したその言葉に、コムイは薄っすらと目を細めた。



  



お嬢さんと言ったのがハトアリのブラッドに重なっただなんて言えない←
(でも声優が一緒だからつい…邪な考えが!)
そんな事はどうでも良くて。
まず最初に登場しました白兎アレン。
ウサギ耳と言えばラビ、と思うかもしれませんが、兎は何も1匹ではないですからね。
それからコムイさんはチェシャ猫のポジションに。
ミステリアスな部分を持つからこそ、ここで登場で御座います!

2009/03/04