第一関門を突破した神田、ラビ、の3人はいそいそと城門から離れて早速街中に身を躍らせた。
意外にも街は活気付いていて、辺りは人でごった返している。
それも見事に女性だけしか見当たらないのだけれど。


「こうも女の人しかいないと落ち着かないわ…」
「若干、そうでもないのもいるけどな」
「え…?」

隣の神田が呟き、あ、とは後ろを歩いているはずのラビを見やる。
ところが真後ろにいたはずのラビはいつの間にか路上でその足を止めていて、品物の物色ならぬ、女性の物色をしていた。


「こら!」
「いててっ!ちょ、何するんさ
「はいはい。“今は”女の子なんですからね、気を引き締めてもらわないと困るわよ」

ラビの腕を引き寄せて、また何処かへ行かないよう掴んでおく。
もう片方で神田の腕を引いてはそそくさと街の中を突き進んだ。
衛兵の審査を受けているとは言え、何時どこでボロが出てくるか分かったものではない。
また余り一般人に囲まれていると言うのも何だか落ち着かなかった。

(いつ何処で、何が狙っているか分からない)
―――すぐそこにある闇から、手が伸びで来るかもしれない)


「早く宿を見つけましょ」

落ち着ける場所が、今は早く欲しかった。





不思議の街のアリス








「え!?部屋を2つ取れないの!?」
「最近ここへ流れ込む難民の女性が増えてねぇ…今空きがあるのは大部屋だけだよ。きっと何処の宿もそんなもんだと思うけどねぇ…」
「…うーん」

宿を巡り歩いて数時間。
最初に見つけたこじんまりとした宿は既に空きがなく、次に寄った場所も空き部屋はほとんどないと言われた。
ようやく見つけた3つ目の宿で個室を3つ頼んだのだが、長期滞在でない限り個室を借りる事は不可能だという。
宿泊のみであれば大部屋でいいじゃないかと、宿の女将は言った。


「だいたい女の子3人なんだし、別に構いやしないだろうに」
「ま、まぁ…そうなんですけど」

最悪神田とラビ、そしてという事で部屋を2つ取ろうと思ったのだが、女将も食い下がる事はなく大部屋を勧めた。
どうしようか悩んだが、ラビはいつの間にか隣から離れており、更に神田は部屋の片隅の椅子に座って極力顔を上げないようにしている。
相談する事もできないまま、は数分悩み、結局その大部屋を3人で使う事に決めた。









「何でここまできて部屋も一緒なんだよ、
「こらこら、今はユウ姉さんの妹のだって言ってるでしょ」
「…俺は別の宿を探してくるぜ」
「無駄だって。もう陽も暮れたんだよ?我が儘言わないでよ」
「そうさー。てかユウ、」

部屋に入って第一声が神田の不機嫌な言葉だった。
ファミリーネームで呼んだ神田を軽くいなして、は荷物を床に下ろす。
解決しない様子を見越した神田は部屋を立ち去ろうとしたが、ドアの前に立ちはだかったラビがにやりと笑って口を開く。
一歩神田に歩み寄ると、耳元で何かを囁いた。


『ユウが出て行ったらこの部屋にオレとだけになるんだぜ?』
『っ』
『それでもいいんさ?』
『……』
『オレは別にそれでも全然、構わねぇけどな』

ぽん、と神田の肩を叩くと、ラビは離れてにっこりと笑った。
威圧的な目でラビを睨んだ神田だったが、ラビは飄々とした笑顔のままに歩み寄る。


「ユウちゃんてば怖いさー。慰めてっ」
「ちょ、ラビっ!」

まるで挑発するかのようにラビはに抱きついた。
よろけたは踏鞴を踏んで自分よりも大きなラビを支える。
嘘泣きをするラビに、状況が理解できないは神田にヘルプの意味を込めて目線を送った。
神田はむっつりと口を閉じたままの視線から目を反らすと、に抱きつくラビの襟首を掴んで引き離す。


「何するんさ!」
「それはこっちの台詞だバカ兎」
「ちぇ〜…もうちょっとでのお尻とかさわ」
「叩き出すぞこの野郎…っ!」

今にもひと悶着起こりそうであったが、は何とかなるだろうと2人をそのままに3つ並んだベッドの真ん中に荷物を置いて寝転がる。
何かを言い合う2人の声をBGMに、は何となく衛兵が言っていた言葉を思い出していた。


『もしこの街に男など入れてみろ…――命はないぞ』


見事に女しかいない街。
男子禁制と言ってはいるが、子孫繁栄や力仕事の面から考えても男は何処かにいるだろうと思っていたが、結局街中では一度も目にする事はなかった。
まさか本当にこの街に男はいないのだろうか。
そもそも、命を奪われるほどの事とはいったいどういう事なのだろうか。


―――って言うか五月蝿い!」

未だに口論をやめない2人に向かって、は怒鳴りつけた。









「ご飯食べに行くけど2人はどうする?」

ベッドで横になっていたが部屋の窓から外を見下ろしていたラビとベッドに腰掛けて六幻の手入れをしていた神田に声を掛ける。


「オレは行こうかなー。ユウは?」
「俺はいい」
「神田、食べないの?」
「俺は部屋で食べる。そう伝えておいてくれ」
「あ、そう。分かった」

はベッドから起き上がって部屋の出入り口に立つ。
ラビが小走りでやってくると、神田に向かって「行ってくるさー」と声を掛けた。


「神田、くれぐれも男だってバレないでね」
「…っち、分かってる」
「着替えてもいいけど…せめて髪の毛だけは結ばないように」
「あぁ」

今すぐその服を脱ぎ去りたいだろうに、神田はちゃんと我慢して服をきっちりと着込んでいた。
頭に乗せていたヘッドドレスはサイドテーブルに置いてしまったが、それでも服は何も脱いでいない。
もしかしたら脱ぎ方が分からないだけかもしれないが、それでも凄い事だ。
着替えたいのなら着替えるように言っておいたが、恐らく髪さえ結ばなければギリギリで女の子に見えるに違いない。
あの長い髪が神田の男である体格を少しだけ隠してくれるからなのだが。


「それじゃ、行きましょうか、
「おお!女の子だねラビ」

部屋を出たラビはに笑いかけて歩き出した。
今のはちゃんと女の子だったんじゃなかろうか、とは感心する。
マジマジと見ればやっぱり男の子なんだとは分かるが、多分普通にしていれば少し体格が良いだけの女の子に見えなくもないだろう。


「(たぶん…)」

きっぱりと言えないのは、自分が彼等の素性を知っているからなのだろうか。



  



無理あるだろ!ってお言葉は聞こえないです(どーん)
いやだってー・・ほら、元が綺麗な人たちだからなんとかなるでしょ。
ちょっとラビが変態臭くなっていくのは何ででしょうか(苦笑)

2009/02/22