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「ぶっ…くっくっく…っ」 「おい、テメェ…」 「い、いや…き、気にしなくていいよ…っふふ」 「ー…堪えるか笑うかどっちかにしようぜ…?」 揺れる列車のとある車両。 向かい合うようにして設置された椅子の上に、見目麗しき乙女が3人。 否、正確には女装した男性が2名と正真正銘の女性が1人だが。 は先程からちらちらと目の前に座る神田と、隣に座るラビの様子を窺っていた。 足首ほどまである長いジャンパースカート。 その下にはゴテゴテとしたレースアップブーツ。 白いエプロンドレスに、頭の上にはヘッドドレス。 「(駄目だ…似合いすぎ…っ!)」 またしても笑いを堪えただったが、今度こそ目の前の神田がむくりと立ち上がった。 その手には六幻が握られている。 「覚悟は出来てんだろうな…あ゛ァ?」 「ユウ!とりあえずそれはしまえって!」 未だ笑いを堪えるように打ち震えているに斬りかかろうとした神田を、ラビは体を張って止めていた。 |
| 不思議の街のアリス |
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「それにしてもさすがコムイさんだ!センスはイイみたいで良かったね!」 ようやく2人と向き合っても噴出すことがなくなったは、マジマジと神田とラビを見つめる。 神田は白と黒を基調としたモノクロテイストな洋服を着ており、ブーツは黒、ジャンパースカートも黒、エプロンドレスと中に着たシャツ、そしてヘッドドレスが白の至ってシンプルなデザイン。 ついでとばかりに普段は結ばれている髪の毛が下ろされ、何処からどう見ても少しきつ目の美女にしか見えない。 一方ラビは髪の色を考慮してか水色のジャンパースカート。 ブーツは茶色で、後は神田と同じく白で統一されている。 当然ラビの頭にはいつものバンダナはなく、その代わりにヘッドドレスが鎮座していた。 ちょっと明るい雰囲気のお転婆な女の子に…みえなくもない。 「(元々が男の子だからね。ちょっと体の幅が広い事さえ除けばなんとか…)」 2人を交互に観察してからは頷く。 それから顔色を窺いつつ、これからの事を話し合う事にした。 「今回は場所が場所だけに普段のまんま、って感じでは乗り込めないから、なるべく2人はバラバラに行動しない方がいいわね」 「そうさなー。つーか口調も変えねぇとバレる…よな?」 「うん。声の低さは…ま、まぁ何とかギリギリ誤魔化せるにしても、その口調とかは絶対やめてね。特にユウちゃん」 「なっ!誰が“ユウちゃん”だ!!」 「神田の事に決ってるでしょ?とりあえずお互いを呼び合う時は名前で!私の事もちゃんとって呼んでね」 「なぁオレは?オレはラビのままでいいんさ?」 は隣から顔を覗かせるラビをじっと見る。 ラビ。別段女の子でも通用しない名前でもないような気もするが…。 「気になるなら変える?」 「何に?」 「………とか」 「?」 その名前を久々に口にした。 思わず言ってから、言わなければ良かったと後悔する。 ただの名前なのに、何て重さを持っているのだろうか。 「か…ん、じゃあ今からオレ…じゃなかった、アタシはなんさな!」 「…そうだね、じゃあ、今から――で」 (あぁ。その名前は何だか呪縛のようで) 「そういえば、って誰かの名前かなんかか?」 (私を闇へと引き寄せる、鎖のようだ) ◇ 首都、ルクセンブルク。 小さな国の小さな街。 降り立った駅には穏やかな空気が流れている。 はスタ、とホームに降り立つと、んー…と大きく腕を伸ばした。 「お出迎えはないんだっけ。そういえば」 「全滅したからな」 「全滅じゃなくて消息が分からないだけでまだ死んだって決った訳じゃ…」 「お2人さん…降りて早々話が暗いさ」 確かに人の往来での会話にしては少し不謹慎だった。 は口を閉ざして行き場を失った溜め息を盛大に吐き出す。 綺麗な街だが、少し薄暗い気がした。 ・ ・ ・ 「中に入るにはあそこで審査を受けるみたいだな」 ラビが建物の影から向こう側を窺いながら言った。 ルクセンブルクの街中に入るには、正面玄関とも言われる大きな門を潜らなければならないようだ。 しかも入国審査のオマケつき。 先程から様子を窺っているが、おかしな事につき返されている人間が複数人いた。 「なるほど、だから男子禁制…ね」 つき返されて出てくる人間は皆男ばかりだった。 行商人などの商売目的の来訪も許されないらしい。 これは確かに女装をしてきて正解だったかもしれない。 「良い?2人とも。私がサポートするから不自然な行動は取らない事。特にユウはなるべく喋らない事」 「っち」 「その舌打ちも駄目だからね!ラビもなるべく喋らない方がいいだろうけど…でもラビは何とかできそうだね」 意外にももうその服装に馴染んできている。 未だイライラしている神田と違って、順応力の高さは見習うべき物があるだろう。 とりあえずは神田の腕を引っ張り、門前へと歩き出した。 「そこの3人、止まりなさい」 衛兵までもが女性なのか。 は鎧を着込んだ女性を見やる。 引き止められたのは当然の事なのだろうが、やはり服の上に教団のコートを着ていたのはまずかっただろうか。 「何か…?」 「お前、まずはフードを取れ」 衛兵2人に挟まれ、は2人からまずは注意を逸らす為に被っていたフードを脱いだ。 陽の下に露になるの顔をマジマジと見た衛兵達は、次に隣の神田とラビに目を移した。 「そこの2人は随分と背が高いな」 「え…えぇ…。成長期なもので」 苦しい…。は顔が引き攣らないよう笑みを作り上げる。 その間も隣で衛兵のお姉さんに見惚れているラビの足を踏んづけて、は「ほほほ、」と普段はやらないような変な笑い声まで出してみせた。 「そこの者、名は?」 「………」 「どうした。名も名乗れぬか」 空気が一気にひやりと冷たいものになる。 は掴んでいた神田の腕を更に引き寄せて衛兵から少し引き離すと、「姉は無口なもので…」と苦笑した。 「姉妹か」 「ええ名はユウと申します。こっちの方は姉の友達でと」 神田とは日本出身なので髪の色から顔の作りも若干似ている。 流石にラビとは姉妹に出来なかったので、姉である神田の友達という設定にする事にした。 早くこの拷問のような時間が過ぎればいいのに…との頬はぴくりと引き攣る。 「まぁ良い。とりあえず3人とも上に着ている物を脱げ」 「(やっぱり駄目か…)」 体格ばかりは隠せないので教団のコートを着せたのだが、やはり疑わしさは抜けないらしい。 は渋々2人にも指示をしてコートを脱がせた。 「………」 「………」 衛兵との視線がぶつかる。 何かを言われるのだろうかと眉を落としただったが、衛兵は難しい顔をした後「よし」と体を脇にやって道を開けた。 「行ってよい」 「あ、有難う御座います!」 「ただし――」 通り過ぎようとしたの腕を衛兵が掴んだ。 神田とラビが睨むように衛兵を見たが、衛兵はと視線を向き合わせている。 「もしこの街に男など入れてみろ…――命はないぞ」 何を言い出すのだと言いたげなを一瞥した衛兵は、掴んだ腕を離すと「行け」と言って別の来訪者の方へ行ってしまった。 は胸騒ぎを覚えながらも「行くぞ」と手を引いた神田に引っ張られながらルクセンブルク内に足を踏み入れる。 ここは男子禁制の街、ルクセンブルク。 ここに侵入した男性には、罪よりも重い罰を。 ← † → ちょっと無理がある気もしなくはないですが、まぁそこは目を瞑っていただいて。 どうしても女装させたかったんだ!神田は絶対似あうだろうなぁ〜! 誰かちょっくら女装した神田さんを描いてくれませんかね? 喜んで飾らせていただきますが(笑) まだまだ謎が多い街、ルクセンブルク。 2009/02/22 |