「とにかく着替えて3人とも」

殴られて赤くなった頬を惜しげもなく晒しながら、コムイが言った。


最初はかなり猛反対・猛反発した神田とラビ(特に神田)。
しかし任務の為とあらば、という理由から渋々その衣装を手に持った。
その表情は今まで見てきた苦痛の表情を遙かに上回るほどのものだ。
侵してはいけない領域に足を踏み込むとは、ああいう事なのかもしれないとは静かに学んだ。





不思議の街のアリス








「……意外と似合ってるさ?ユウちゃん」
「っ!!テメェそれ以上口を開くと六幻の錆にするぞ!」
「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて。ちゃんはまだかい?」

「も、もう少しー」

やっぱりと言うか、渡されたトランクの中に入っていたのは神田やラビと同様ゴスロリ服だった。
どうして自分までこんな格好をしなくてはならないかと問うたらば、コムイは拳を作って力説を始めた。

「何を言っているんだいくん!ヘッドドレス、フリルワンピース、エプロンスカート、ニーハイソックス、所々に覗く可愛らしく主張するレース!それを女性が着ずして誰が着るのか!否、女性だからこそロリータファッションというものは愛嬌が湧くものなんだ!甘い雰囲気の中にも刺激的な…」
「もういいよ、コムイさん。分かったから着るよ」

これ以上駄々をこねてもコムイの暑苦しい談議が続くだけだろう。
は諦めてトランクの中の物を着る事にした。
別段ロリータファッションが嫌な訳でもない。
ただ、スカートを穿く事に若干抵抗があるだけで。


「こんなもんかな…?」

ビスチェが少し窮屈だが、胸が大きくなった物だと納得しておこう。
はようやく用意された衝立の裏から出てきた。
おずおずと顔を出すと、神田、ラビ、コムイ、リーバーの視線が突き刺さるのが分かる。


「あ、あんまり見ないでよ…っ」

元々注視されるのは好きではない。
ふい、と視線を反らした事での髪が宙を舞う。
思わずその様子に、男性陣は感嘆の溜め息を漏らした。


ちょー可愛いさぁ…」
「な、」
「うんうん!僕の目に狂いはなかったよ…!」
「う、」
…に、似合ってるぞ…!」
「っ、」

うっとりとラビが見惚れながら言い、コムイは大きく頷きながら何故か感涙。
リーバーは逆にテレながらを褒め、神田に至ってはしばらく呆然とを眺めた後、目が合った瞬間に思いっきり顔を反らされた。
彼にはお気に召さなかったのだろうか。


「(…っ、くそっ)」

調子が狂う、という意味での舌打ちは、他の者達の賞賛の声に紛れて幸いにも誰の耳に入る事はなかった。


「こんなの着た事ないからなんか違和感…」
「違和感どころかこっちはいい恥さらしだ!」
「まぁまぁユウ、これもの為だろ?潔く諦めようぜ」
「(何で私のため?)」

どうしてそこの引き合いに自分の名前が出たのか謎なを置いて、コムイは2人を説得するように苦笑しながら告げる。


「本当は現地に着いてから着替えても良かったんだけどね。今の内から慣れておく方がいいだろうし、女の子としてのマナーも身に付けて貰いたかったからね」
「ケッ、こんな事してられるか」
「ほらほら。そういう口調も直さないと駄目だよ神田くん」
「っ……どうしろってんだよ」
「そこはほら、実際の女性に聞くべきだよ」

要するにを見て女の子としての仕草や口調を学べと言いたいらしい。
両隣のラビと神田から一気に視線を浴びて、は首を竦める。
正直、自分を見ても勉強にならないのでは?と思う。


「こ、コムイさん…無理があるような気が…」
「何言ってるの。ちゃんを一人で向かわせる方が無理があるよ。それに2人とも、良く似合ってるよ?」

悪気があって言った訳ではないのだろうが、2人はぴくりと引き攣った笑みを返した。
とは言うものの、神田はちっとも笑えていないが。


「あ、勿論ちゃんが一番可愛いけどね」

更には美味しいとこ取り。
さすが室長、抜け目はないと言ったところだろうか。
しばらく任務の説明をされた後、はヘブラスカのところへ、2人は直ぐに任務の準備をするよう言われて一度解散となった。









【シンクロ率は71%】
「詳細は?」
【ブレスレットが51%】
「51…」
【そして…首元…のイノセンスが20%…だ】

51%と20%それは確かな手ごたえがある数字だった。
何より首元のイノセンスがようやく20%に到達したという事は大きい。


「もしかしたら…第二開放まで使えるかも…」
【試す…か…?】
「うん」

ヘブラスカの助言もありはまずイノセンスを発動させる。
手に創造書を持つと、それを両手で開いて宙に任せる。
ふわりと浮いた創造書はバラバラとページを捲ってゆき、ある場所で止まった。
直後、の中に情報が流れ込んでくる。


「項目:022 古の業火に灼かれし鎌―――目覚めよ、アヴィス‐業火の鎌‐」


紡ぎ出すように発動呪文スペルを唱えると、創造書はカッと光を放って同時に炎を吹き出した。
ゴォという凄まじい灼熱の炎を纏いながら出現したのは、まさしく深淵・地獄の意味を持つアヴィスの名に相応しい得物もの
は熱いとは感じる事無くそれを手にする。
ジュ、という音を立てて本から引き抜かれると、炎は一層激しく燃え上がった。


「うわ!ちゃんそれどうしたの!?」

先に用事を済ませてから立ち会うと言っていたコムイが遅れて登場した。
そしてが持つ燃え盛る鎌を見て驚きの声を上げた。
は一度その鎌をブンと振り回して自分に馴染む事を確認すると、発動を解いて鎌を消す。
コムイは肌で感じていた熱が去ったのを感じてから近付いた。


「新しい私の武器…第二開放ができるようになった私の、初めての武器、みたいです」

みたい、と言ったのは何だか信じられないからという事らしい。
呆然としたまま「項目も分かるようになりました…」と告げると、コムイは頷いてからの頭をそっと撫でる。


「アヴィスで、業火の鎌…か。ちゃんの第二開放には属性がつくみたいだね」
「そうですね。さっきのは炎…まだ、あるのかな?」
「それはきっと任務の過程で分かる事だろう。さ、そろそろ時間だ。下で2人が待ちくたびれてる」
「それは急がないとマズイですね」

喧嘩をするような2人ではないが、如何せん、あんな格好をさせられているのだ。
いつ堪忍袋の緒が切れてもおかしくはない。
は傍らにまとめて置いた荷物を手にするとコムイとヘブラスカに向き直る。


「いってきます!」
「いってらっしゃい、くん」
【神の加護があらんことを…】

2人に見送られると、は笑って部屋を出て行った。
残されたコムイとヘブラスは、何となくの影を追うようにじっとそちらを見つめている。


【送り出すという事は…辛いな…コムイ…】
「そう、だね」

また会う時に、あの元気な姿で笑って欲しいものだ。
それはいつも心に思う、切実な願いだった。



  



ヒロインようやく武器の第二解放が出来るようになりましたー!
これでこの先の任務でもまたこの武器が役に立ってくれるという事で。
では、さくさく任務に出かけてもらいましょう!!

2009/02/21