「Bセットおまちどーん。お次は何かしらー?」

黒の教団随一の腕前を誇る料理長ジェリー。
お姉言葉ではあるが、れっきとした男である。
そんなジェリーを覗き込むようにして、は声を掛けた。





土翁と空夜のアリア








「お早うジェリーさん」
「あらん、お早う!今日は早いのね。昨日はよく眠れた?」
「うん、結構寝たよ。ちなみに今日はアレンに起こしてもらったから」
「アレン…?」

の寝坊はどうやら教団内でも周知の事のようだ。
アレンがそんな事を考えていると、不意に自分の名前が持ち上がった。
「アレン」という聞き覚えのない名前にジェリーが首をかしげる。
そこでようやくがアレンの腕を引っ張った。


「新しく入ったエクソシスト。私の弟弟子」
「んまーーこれはまたカワイイ子が入ったわねーー!」
「どうもはじめまして…」

アレンは若干驚きながらもジェリーをみやる。
未だに腕を組んでいるは満足そうに笑った。


「いいでしょ、カワイイでしょ!」
「ちょ、…」

これは喜んでいいのだろうか。それとも悲しむべきなのか。
恐らくは“弟弟子”としてカワイイと言っているのだろうが、男としては微妙な所だ。


「仲良しさんなのね、妬けちゃうわ。ところで2人とも何食べる?何でも作っちゃうわよアタシ!!」
「あ、私はホットサンドで」
「了解」

寄生型と聞いていたのでもっと食べるのかと思いきや、そうではないらしい。
どうやらは本当に食欲の代わりに睡眠欲に出るようだ。
アレンがそのように納得していると、ジェリーがアレンを見て「どうするの?」と聞いてきた。


「それじゃあ…グラタンとポテトとドライカレーとマーボー豆腐とビーフシチューとミートパイとカルパッチョとナシゴレンとチキンにポテトサラダとスコーンとクッパにトムヤンクンとライス、あとデザートにマンゴープリンとみたらし団子20本で」
「アレン…随分いっぱい食べるんだね…」
「そうですか?あ、あと全部量多めで」

キッチンに戻ったジェリーが「あんたそんなに食べんの!?」と呆れた様子でアレンの注文したものを反復している。
も驚いてアレンを見ていたが、そんな空気を打ち破るように怒号が聞こえてきた。
アレンは声のした方を振り返り、は「またか」と呟く。


「もういっぺん言ってみやがれ、ああっ!!?」
「おい、やめろバズ!」
「うるせーな」

激高する男を冷静な一言で一蹴する。
食事を終えた彼は、箸を揃えて置き、肘をついた。
こんな時でも流麗だな、なんては思ってしまう。


「メシ食ってる時に後ろでメソメソ死んだ奴らの追悼されちゃ味がマズくなんだよ」
「テメェ…それが殉職した同志に言うセリフか!!俺達探索部隊ファインダーはお前らエクソシストの下で命懸けでサポートしてやってるのに…それを…それを…っ」

「メシがマズくなるだとーーーーー!!」

男が胸元で握り締めていた手を振り上げる。
巨体から放たれた拳は男を煽っていた人物――神田を目掛けて凄まじい勢いで振り下ろされたが、
神田はそれを紙一重で交わすと代わりに男の首元を掴み上げる。


「うぐっ」
「「サポートしてやってる」だ?」

挑発的に神田は笑う。
それを傍らで見ていたは、「ああ、神田のこういう所は好きになれない」と視線を反らした。
周りにいたファインダー達も、神田の言わんとしている事が予測できたのか、何も言えずに黙してしまう。


「違げーだろ。サポートしかできねェんだろ。お前らはイノセンスに選ばれなかったハズレ者だ。
死ぬのがイヤなら出てけよ。お前ひとり分の命くらい、いくらでも代わりはいる」

男が苦しみの後、白目を向いてしまった。
更に神田が力を入れようとしたとき、は止めようと一歩を踏み出す。
がしかし、その真横をツカツカと誰かが歩いて行った。


「アレン…」
「ストップ」

が呟くと同時に、アレンは神田の腕を掴む。


「関係ないとこ悪いですけど、そういう言い方はないと思いますよ」
「…………放せよモヤシ」
「(モヤ…っ!?)アレンです」

“モヤシ”という単語にアレンが敏感に反応する。
じとっと神田を見やるが、神田は余裕の笑みをたたえていた。


「はっ、1ヶ月で殉職くたばらなかったら覚えてやるよ。ここじゃパタパタ死んでく奴が多いからな。こいつらみたいに」

神田が未だに片手に掴んでいる男を見下すが、それを阻止するかのようにアレンが掴む手に力を入れた。
すると神田の手から男がずるりと滑り落ちて床に倒れそうになったが、いつの間にか側に来ていた
が支えて助ける。
気絶してしまっているが呼吸が乱れている様子もない。
はホッとして未だに睨み合っている神田とアレンを見上げた。


「早死にするぜお前…キライなタイプだ」
「そりゃどうも」

2人の間で激しいオーラのぶつかり合いを見ていると、遠くの方で「あ、いたいた!」という聞きなれた声がした。
が見やると、そこにはコムイの仕事の分も入っているのであろう本を沢山抱えたリーバーと、
同じく荷物を持ったリナリーが見える。


「神田!アレン!!」

自分の名前も入っていたことには再び顔を上げてリーバーを見る。
いがみ合っていたアレンと神田も、ちらりとそちらを振り返った。


「10分でメシ食って司令室に来てくれ。任務だ」

その言葉を残してリーバーとリナリーは食堂を去っていく。
アレンと神田も一度睨み合ったが、お互いに別方向へと自然に流れた。
食堂を出て行こうとする神田に、は声を掛ける。


「神田、」
「……」
「私、私は‥‥出来ればファインダーの方が良かったよ」

神田はちらりとを顧みる。
ファインダーの1人に男を受け渡すと、ゆっくりと立ち上がる。
その横顔は、窺い知る事は出来なかった。


「第一線で戦うのがエクソシスト。それは抗う事の出来ない、神から与えられた宿命さだめ
「‥‥何が言いたい」

再び食堂内の時間が動き出したように活気付いた。
そんな中で、神田との周りだけが違う空気を纏う。


「出来れば、 壊 す かいほうする側じゃなければ良かったのになって、思っただけだよ」

その小さな呟きのような言葉は、ざわめきに紛れて今にも消えてしまいそうなものだった。
神田は今度こそへ振り返ったが、そこにの姿はない。


「‥‥‥」

なんと声を掛けてやれば良かったのだろう。
神田は拳を握り締めたあと、再び踵を返して食堂を後にした。



  



ようやく2章始まりまして、「土翁と空夜のアリア」で御座います。
このお話は大好きなので、精一杯力を入れて頑張らせて頂きますね!
なんか漫画を見ながら書いているので私としては物語が繋がっているのですが、
読んでいる側でおかしいなと思ったところは拍手かメールなどで指摘してやって下さい。よろしくお願いします。

2008/11/07