「………」
「………」
「………」
「……あの…?」

は固まっていた。
吃驚しているのではない。
何かを悟って回想しているような、そんな様子である。
アレンは意を決してに声を掛けた。
するとはクッと唇を噛み締める。
と同時に、薄っすらと頬が赤くなった。


…?」
「あの…馬鹿師匠っっ」

は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
アレンはしゃがみ込む一瞬に見えた、の驚きと羞恥が混じった表情を見て
「何かしてしまっただろうか」とを覗き込む。


「あの…ハジメテって、何の…」
「いいの!知らなくていいの!」

アレンの問いかけをは顔を赤くしたまま忘れるように促した。
いったい師匠は何をしたんだ、とアレンまでも頭を抱えたくなったが、
はブツブツ文句を言いながらも立ち直り、居住まいを正してアレンをもう一度見た。


「まぁ、何はともあれ宜しくねアレン。今日はもう疲れてるだろうし、寝た方がいいよ」
「あ、はい、有難う御座います」
「じゃあ私はこれで。また明日会いましょう?」
「お休みなさい…」
「お休みアレン」

はアレンに手を振って闇の中に消える。
が居なくなった後も、アレンは何となく振り返した手を下ろして呆然と立ち尽くしていた。


「お休み、か。なんだか懐かしいな」

お休みと言う単語もそうであるが、何処か懐かしい、記憶に眠る誰かの声。
優しく頭を撫でてくれて、「おやすみ」と言ってくれた人。
あれはいったい、いつの記憶だっただろうか。


「あの人が…か」

その名前は、なんだかとても温かかった。





クロス・マリアンの弟子








翌日。
アレンは朝食を食べる為に部屋を出た。
がしかし、いつも連れていたはずのティムキャンピーの姿がない事に気がついた。
またしても迷子なのか…と思いきや、目の前をふよふよと飛行する物体が目に入る。


「あっ、ティムキャンピー!」

ティムキャンピーと呼ばれたそれは、アレンの声に反応すると猛スピードで飛び去っていく。
またか!とアレンは意地になってティムを追いかけた。
ティムは廊下の角まで来ると、そこにあった部屋の中に滑り込んでしまった。


「こらっ、ティム!!」

アレンは声を掛けたが、ティムはするりと部屋の中へ逃走したまま出てくる気配はない。
扉の前まで来ると薄っすらと開いている扉から中を覗きこむ。


「ティム‥‥?」

部屋の中は暗く、恐らく自分と同じ階という事は教団内の誰かの部屋なのであろう。
カーテンの隙間から差し込む光が部屋の中の全貌をぼんやりと浮き上がらせる。
悪いとは思いながらも、アレンは中を見渡してみた。
教団のコートがラックに掛けられており、それはエクソシストのみが着ることを許されたコート。
つまりこの部屋はエクソシストの誰かの部屋という事になる。


「ちょ、ティムキャンピーっ‥‥何処いったんだよ〜‥‥」

勘弁してくれ、とアレンは恐々扉から頭を突っ込んでティムを探す。
すると、パタパタと部屋の中で飛行している物体を発見した。
アレンは「ティムっ」と声を掛けたが、ティムはゆっくりとその場に着地してしまった。


「こらっ、こっちに来いって…!」

アレンが手招きでティムを呼ぶが、ティムはその場を動く事はなかった。
しばらくその場でどうするか考えたが、アレンは意を決して扉を開く。


「すみません‥‥お邪魔します‥」

不法侵入で訴えられても仕方ないと覚悟を決めて、アレンは部屋の中へ足を踏み入れた。
小奇麗な部屋は素朴な民家のような雰囲気があり、部屋の片隅には本棚と、
木製のテーブルとイスが一つずつ置かれている。

アレンがようやくティムのところまで来ると、ティムが乗っかっている所が布団の――
それも人が寝ている上だということが分かった。
慌ててティムをどけようと手を伸ばすと、布団の中の人物がもぞりと動き出す。


「(わわわっ、ヤバイっ)」

ティムはアレンの手を逃れてふわりと浮遊。
掴み損ねたアレンは、布団を掴む形で静止してしまう。


「んっ‥‥ん〜‥‥」

布団の中の人物が寝返りを打った。
アレンは聞こえた声が女性である事を認識して、これは本気で不法侵入で訴えられると急いで部屋を出ようとする。


「ん‥‥? あ、れん‥?」
「へ‥‥?」

ぼんやりとした目でアレンを捉えたのは、昨日挨拶したばかりのだった。









「あはは、迷惑掛けてごめんね?」

着替えと身支度を済ませたは、外で待っていて貰ったアレンに謝った。
アレンは申し訳なさそうに縮こまっており、頬は若干赤くなっている。


「本当に済みません…女性の部屋に無断で入るなんて…」
「いいってば。神田も無断で入ってくるし。もう1匹もたまにナチュラルに部屋にいるから」

もう1匹って何だろう…?と思ったが、その前の神田が無断で出入りしているという事に内心少し苛立つ。
そんなアレンの誤解を解くかのように、は言葉を付け足した。


「あ、誤解しないでね? アレンも分かったと思うけど、私物凄い寝起きが悪いというか、朝が弱くってね。よく起こしてもらうの。 だから朝早い神田が起こしてくれたりとか、勿論リナリーも起こしてくれるし、リーバー班長も起こしてくれるよ?」
「あぁ‥そうなんですか」
「まぁ、私寄生型だから睡眠に出るみたいなんだけどね?」
「え、も寄生型なんですか?」
「んー‥‥まあ、寄生型であり、装備型でもあるって感じかな?」
「それってどういう‥‥」
「そのうち分かるよ」

にこっ、とは笑ってから、「そうそう」と別の話題にした。
アレンも“そのうち”という言葉に納得して、の次の言葉に耳を傾ける。


「アレンはどうして私の部屋に居たの?」
「あ、あぁ!ティムキャンピー!!」
「ん?ティム?」

アレンは忘れてた!と頭を抱えて叫んだ。
の部屋の前で待つ間も外には居なかったと言う事は、もしかしたらの部屋に
置いてきてしまったのかもしれない。
アレンはあわあわとしていたが、がごそごそと服の中を探って、あるものをアレンの前に差し出す。


「もしかしてこの子の事?」
「あっ!……ってあれ?」

アレンの前に現れたのは先程部屋で見たものと同じではあったが、よくよく見てみればそれはティムではなかった。
首を捻ってとそれを見比べていると、それはふわりとの手から離れて肩に乗る。


「ティムに似てるでしょ?でもこの子ティムじゃないの」
「え‥え‥?」

ティム似ているが、ティムではない。
確かに言われてみれば全然ティムと似ていない。
似ているのは羽の部分だけのようだ。
体の色も、白に近いクリーム色で、何処か澄高な感じがする。
いくら暗がりだったとはいえ、似て非なるものだった。


「この子はリデルって言って、師匠に貰った私のゴーレム。私専用だから、ちょっと特殊なの」

リデル、と呼んでやると、それはすり、との頬にすり寄った。
余程懐いているのだろう。
ティムとは大違いだ、とアレンは苦笑する。


「特殊、というのは?」
「それはまた今度見せてあげるよ。ここじゃちょっと狭いから」

狭い?とアレンが頭に疑問符を浮かべると、が「着いたよ?」と前方を指差した。


「あれが、黒の教団が誇る大食堂!ジェリーさんが作る料理は美味しいよ!」

小走りで食堂へ向かうを、アレンも追いかけていった。



  



と言う訳で寝起きドッキリでした(違う)
アレンとヒロインは同じ階に部屋があると言うことで。
それからティムに似たリデル。似ているのは羽だけで体は似てません。
私もまだイメージが出来ていないので、とりあえずティムに似た感じのものと思っておいて下さい。
(クロス・マリアンの弟子 了)

2008/11/05