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「う、嘘…!う、動いてるんだけど…、アレン!」 「アクマ…では無いようです。まさか幽霊…?」 「そんな莫迦な!で、でも動いてる…っ!」 非現実的な事には思わず後ろへ一歩下がった。 アレンと同じ場所まで後退してくると、片手に持っていた創造書を開いて小さく「Flecha」を唱える。 手にしっかりと弓を握り締めると、はソレとの間合いを測った。 |
| セイレーンの歌声 |
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「ど…どうすれば良いと思う…?」 ゆっくりとこちらへ歩いてくるその物体。 ぼんやりとした光がまた余計にソレを恐ろしく見せる。 ソレとは、幽霊とも亡霊ともいえるものだった。 生憎とエクソシストと言えど、悪魔祓いを生業にしている訳ではないのだ。 本物の幽霊だった場合、対処の仕方など知るはずも無い。 「それより…この歌、あの人物から聞こえているような気がしませんか…?」 「え…?」 人物と例えたのは、恐らくあれを幽霊で説明しきれないからだろう。 あれは確かに人骨であり、薄っすらだが長い髪の毛のようなものとボロボロの衣服を纏っているようにも見える。 生前は人だったのであろうそれを眺めつつ、アレンの言った歌の出所を探ろうと聴覚に神経を集中させる。 「……ほ、本当だ」 「もしかしてあれが人魚の正体なんじゃ…」 「に、人魚って一応魚と人間のキメラみたいなものだよ?あれは普通に人間なんじゃ…っ、ってアレン!」 アレンは何故か亡霊に立ち向かうように一歩前に足を踏み出した。 亡霊もまた前へ前へと進んでくるためアレンとの距離が縮まっていく。 いったい何をするつもりなのか、がアレンに手を伸ばそうとした瞬間。 (!!) ―― もう諦めなさい ―― 嫌よ!私は彼じゃないと嫌なのっ ―― しかし彼はもう… ―― 彼は絶対来るわ!来るのよ…!! 「(何…前と同じ…)」 急に酷い頭痛がを襲った。 その直後、脳内に響く声。 以前海にのまれた時に起きた現象と同じだ。 ―― 私は待っているのよ…彼は絶対帰ってくる…そうでしょ、… 「(っく、何なの…っ、)」 ガクリと膝から力が抜けてその場にしゃがみ込む。 まるで一方的に情報を送りつけられているかのような感覚で、は呼吸だけは乱すまいと唇を噛み締めた。 ―― 私は今でもあなたを… 「…っ、ま、さか…」 は痛む頭を押さえながらも薄っすらと目を開けてアレンに向かい来る亡霊を見た。 長い髪、ボロボロではあるが衣服を纏い、そして歌を歌っているかのような亡霊。 「セリーヌ…さん…?」 の呟きが聞こえたかのように、アレンに向かってきていたソレは突如足を止めて苦しみに呻き始めた。 泣き叫ぶかのような金切り声に思わずアレンとは耳を覆う。 「アレンっ…もしかして、その人…っ」 「実は僕も思ってました…くっ、うぁ…酷い音だ…」 悲鳴のようなそれはまるで悲痛な声のようにも聞こえた。 セリーヌの、苦しみなのか。 は音を撥ね退けるように立ち上がると、セリーヌと思わしき亡霊に向かって走り寄る。 「駄目!セリーヌさん…っ!!」 今にも崩れていきそうなほど、けたたましく声を上げる亡霊が儚く見えた。 藻掻き苦しむその体を抱き締めて、は頭の何処か覚めた所でこれからどうすればいいかを考える。 「う…」 そんな時だった。 今まで気を失って横たわっていたオルトが呻き声を上げて起き上がる。 はこの状況をどう説明すればいいのだろうと、暴れる亡霊を抱き締めながらオルトを見やった。 オルトは最初ぼんやりとしていたが、こちらを確認して薄っすらと開いていた目を見開いた。 直後、震える唇を噛み締めて立ち上がる。 「せ、セリーヌ…?」 「え、ほ、本当なんですか…!?」 オルトの側に居たアレンが吃驚!という表情でオルトを見上げる。 当のオルトと言えば、驚きとそして恐怖に染まったかのような表情でセリーヌを見つめた後、震える足をゆっくりセリーヌへと向けて歩き出した。 は急に大人しくなった腕の中の亡霊を見る。 突如、眩い光が発せられ、は亡霊を抱えたまま顔を反らして目を閉じた。 光が収まった頃合いを見計らって腕の中を見ると、そこに居たのは写真で見た金髪の女性――セリーヌだった。 腕の力が緩むと共に、セリーヌは自分の足で立ち上がると、近付くオルトに向かって歩き始める。 「セリーヌ…」 『オルト…っ』 やはりと言うか、セリーヌの体は実体を持っていなかった。 けれどオルトの腕に抱かれた彼女は、確かにそこに存在していた。 ぼんやりと見つめていたとアレンは黙って2人を傍観する。 「待たせてしまった…こんなにも、こんなに時間が経ってしまった…」 『いいのオルト…あなたに逢えただけで、私はそれだけで良いの』 年老いたオルトと、変わらない姿のセリーヌ。 とても歪に見えるが、でも何故か違和感なんて感じられなかった。 姿形が変わろうとも、2人の想いはあれから一度も変わっていないのだから。 「セリーヌ…ずっと、ずっと言えなかった…だが、言うよ。 私は…お前を愛している。いつまでも、いつまでもだ」 『嬉しいオルト…私も、よ』 セリーヌの目から涙が零れ落ちた。 実体は無いのに輝くそれは、一滴零れて消える。 オルトはセリーヌの頬を撫でると、徐にポケットを漁ってある箱を取り出した。 手の平サイズのそれを開けて見せると、中から幾重にも輝く指輪が出てきた。 それをそっと手に取ると、オルトはセリーヌの左手に指輪を通す。 「君を愛している…遅くなってすまない、セリーヌ」 『オルト…っ』 「(あ…)」 不意にセリーヌの体が映像のバグが現れたかのように一瞬ぶれた。 その後、まるで蛍が辺りを飛ぶようにセリーヌの周りを光が包む。 「(イノセンス…!!)」 薄く透けていくセリーヌの体の中に、イノセンスが見えた。 は駆け出していきそうな体をその場に押し留めて、2人の最後の別れであろう時間を見守る。 「……いくのか…セリーヌ…」 『ごめんなさい…でもオルト…』 光が辺りに立ち込めて、まるでそこだけ別の空間のような雰囲気を作り出していた。 消えていくセリーヌの頬に手を添えたまま、オルトはじっとその目を見つめている。 セリーヌは悲しそうな顔をしたが、顔を上げてにこりと微笑む。 『あなたが見つけてくれて嬉しかった…有難う、オルト… ―――― 愛しているわ… 実体がなくなって、ぶわりと光が溢れる。 声だけが辺りに反響すると、光はまるで天に上っていくかのように頭上へ消えた。 突如、オルトの腕の中にあった亡霊の姿――を作り出していた骨がその場に崩れ落ちた。 そして胸の辺りにはイノセンスと、薬指には指輪が輝いていた。 ← † → 原作本来のイメージ(雰囲気)を残しつつ、イノセンスをどう扱うかにとっても困ったんですけども…。 雰囲気だけでも楽しんで頂けたでしょうか。 私なりに考えた精一杯の形です。 次で人魚編はラスト。 2009/02/20 |