「おやァ?まさか邪魔が入るとは思ってもいませんでしタ」
「千年伯爵…っ!!!!」

アレンの肩越しに見た千年伯爵は噂と違わぬ姿でそこに居た。
強く睨みつけるアレンとだったが、伯爵の表情はにんまりとした様子から変わることはない。
一度と伯爵の視線が交錯したが、伯爵は目を薄く細めただけで、そのまま傍らに崩れこむオルトに視線を落とした。





セイレーンの歌声








「お前が望めばセリーヌもきっと喜ブ」
「騙されちゃ駄目ですオルトさん!自分をしっかり持って下さい!!」
「さぁ!セリーヌを呼ぶのでス!我輩がセリーヌを生き返らせる手伝いをして差し上げましょウ」
「黙れ伯爵!!!」

アレンが有無を言わさずイノセンスを銃型に変化させると、迷わず発砲してしまった。
はまさかの行動に慌ててイノセンスを伯爵の側にいるオルト目掛けて発動させる。
突き刺すような鋭い音と共に、伯爵の姿は爆煙に呑まれた。
オルトの姿も見えなくなるが、にはオルトの存在が確かに感じられている。


「(間に合ったか…防護の中でも360度を覆うように防ぐ事が出来る…――)」

煙が風に乗ってゆっくりと引いていく。
その中に淡く光り輝くベールのようなものが見えた。
アレンと、アレンの攻撃をどう回避したのかは分からないが逃げおおせた伯爵がそれを見ている。


「(
―― 聖女の沙羅マグダラベール)」
「面白い技を使いますネ、エクソシスト♡」
「…どうも」

驚いていたアレンも2人の会話にハッとして、再び伯爵へ銃口を向ける。
も意識をマグダラベールに集中したまま「cadena‐鎖‐」を唱えて鎖を握った。
緊迫した空気が漂う中、伯爵は2対1だというにも関わらずにんまりとした笑顔を保っている。


「伯爵…あなたは心の隙間に入れ込む」
「我輩は手助けをしているだけでス。人聞きの悪い事を言わないで下さイ」
「僕はあの日誓ったんだ…お前だけは、決して許さないっ!!」

アレンは飛び込むように伯爵へ向かっていく。
はサポートへ回ろうとオルトの側へ行くと、伯爵と対峙するアレンを見やった。
アレンの攻撃を軽々と交わしていく伯爵。
その傍らにはいつの間にかボール型のLv.1のアクマが出現している。


「まったく、もぅ!」

は持った鎖をアクマに向かって投げつけると、巻きつけたまま手元のリングをクッと手繰る。
するとアクマの体は真っ二つに割れ、そのまま爆発した。
オルトを気にしながらはアクマを倒していくが、何処から湧いてくるのかその数は次第に増してゆき、気がつけば囲まれている状態になっている。
はアレンを気にしながらも舌打ちをしてマグダラベール内に入り込む。
ここならば、たとえアクマの弾丸に狙い撃ちされたとしても攻撃は当たる事はない。
最も、寄生型のにアクマの血の弾丸は通じるはずもないが。


「オルトさん、オルトさん!」

はまるで抜け殻のようになってしまったオルトに話しかける。
このままでは伯爵に呼ばれてしまう。
そしてアクマを生み出してしまう。
それだけは決してさせてはいけない事だ。
はオルトの肩を揺さぶる。


「しっかりしてオルトさん!セリーヌさんは生き返る事なんて望んでない!」

朦朧としていたオルトがピクリと肩を反応させた。
は諭すようにゆっくりとオルトに語りかける。


「セリーヌさんは、確かにあなたに逢えないまま命を絶ってしまった。だけど甦ったとしても、こんな形での再会なんて望んでない!」
「……」
「あなただって心の何処かでは分かっているはずよ。たとえ生き返ったとしても、それは本当のセリーヌさんじゃないって事を。だってあなたが一番セリーヌさんを愛していたじゃない!あなたが望んでいるのは、セリーヌさんが生き返る事じゃない
――


――愛を、伝える事でしょう?」


がそう言った直後、岬の先の方から咆哮のような音が聞こえてきた。
鳴き声と、アレンが称したものだ。
ウォォンと辺り一面に響くような音だが、しばらく反響を繰り返すとそれまるで歌っているようにも聞こえた。


「オヤオヤ…」
「っ!?待て千年伯爵!!」

ふわりと宙に浮き上がった伯爵を追いかけようとアレンが岬の先に足を踏み出そうとした。
は追いかけるようにしてアレンに手を伸ばし引き寄せるが、代わりに自分が海へと投げ出されてしまう。
と同時に、マグダラベールの効果が切れたのか、はたまた邪魔が入ったせいで意識が途絶えたのか、オルトに高波が覆いかぶさった。
まるで意思を持ったかのような動きをするその波は、オルトを飲み込むように押し寄せると、そのままを喰らうようにして再び海へと戻っていく。


「っっく」

慌てて深く息を吸い込んだは良かったものの、水圧が酷くて意識が飛んでしまいそうな程だった。
夜の海に投げ出された体は暗い水中を激流に呑まれるようにして海の中を引きずり回される。
オルトの姿を手探りで探し当てると、引き寄せて腕を掴んだ。
何処へ連れて行かれるのかは分からないが、この水は何処かへ連れて行こうとしているようにも思えた。
何より。


「(さっきから音が止まない…人魚なの…?)」

濁流のような音に負けないような美しい音色。
このまま流されてしまっても大丈夫なのではないかと思わせるのは、この音色のお陰でもある。
温かい、いざなうような旋律。
女性の声に似た甘く柔らかい歌声に、それはとても似ている。

は最悪この現象がアクマであった場合に備えて創造書を発動すると、海の流れに身を委ねた。
グン、と強い引力で引き上げられると、ようやく海面から顔を出す事ができた。
しかし自分が出てきた場所を見て、思わず辺りを見渡す。


「っぷは!」
「!? アレン!?」
「っは…っ…無事ですか…?」

岬に取り残してきたと思っていたアレンが、海面から顔を出した。
を見つけると安否を問い、その腕からオルトを受け取る。
2人で近場の岸に上ると改めて辺りを見渡してみる。


「ここ…空洞みたいだけど何処なんだろ…」
「恐らく以前オルトさんが言っていた、岩窟の中でしょう。ほら、中が空洞になっているって言ってたじゃないですか」

頭上にはほんの小さな岩の割れ目があり、そこから風が入り込んできている。
外と繋がっていると見ても良さそうだ。
ふと、つい先程途絶えたと思った音色がまた何処からか聞こえてきた。
その音は次第に歌っているかのような旋律を紡ぎ出し、は上を見上げていた視線を普段の目線の高さに下ろした。
そして視界に入ってきたソレに、思わず立ち上がって息を呑む。
オルトを寝かせていたアレンは急なの行動に驚いたものの、の目線を追って同じくソレを見つけて立ち上がった。


…」
「誰かいるの…?」

薄暗い岩場の中に浮かび上がるぼんやりとした光。
その光が浮かび上がらせたのはアクマでも、ましてや人魚でもないものだった。


「何、あれ……骨…?」

その呟きが空洞内を反響すると、佇んでいたソレは機械仕掛けのブリキのように動き出したのだった。



  



あれ。まさかの伯爵登場(笑)
出すつもりはなかったんですけども、あの言葉を言わせる為に出しました(別に伯爵じゃなくてもいいんですけど)
人魚編ラストまであと2話ですね。クライマックスまでお楽しみ下さい。

2009/02/16