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「セリーヌは、海へ身を投げて自害した」 その一言に、続ける言葉が出てこない。 しばらく部屋の中を、静かな沈黙が満たしていた。 |
| セイレーンの歌声 |
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「セリーヌが自害してひと月後、オルトは帰ってきた。そして彼が事故で昏睡状態にあった事を聞いた。勝敗では負けてしまったが、オルトは約束の指輪を持って帰ってきたんだ」 その先の言葉は、何となく聞かずとも分かるような気がした。 きっとオルトは言ったんだろう。 「セリーヌは何処だ?」と。 そんな彼に、バルドは告げたのだ。 「私は、真実を告げたよ。私とセリーヌの事、私の気持ち、そして…セリーヌがもうこの世にいないという事を…」 声が掛けられないとアレンの代わりに静寂に響く沈黙。 バルドは当時の事を思い出しながら、ゆっくり、そしてまるで懺悔をするかのように話し続ける。 「オルトは…最初セリーヌを追って同じく海に身を投げようとした。勿論私は止めたよ。けれどその日を境に、オルトは全てを拒絶した。世界から遠ざかった。無論私も、オルトの世界から消えていた…」 苦しげに語るのは、バルドは未だにその時の事を引き摺っているという事なのだろう。 オルトを思っている。そしてセリーヌの事も。 は知らず窓から見える海を見ていた。 呼ばれているような気がするのだ。 ◇ 「、どうしますか…?」 「…うん…」 バルドの屋敷を出た頃には、辺りは既に暗くなっていた。 暗くなってからの調査は危険であるため、本来ならばこのまま宿に戻るのが適切なのであろう。 しかしはまだ何かが引っ掛かっていた。 「(人魚、夢、海の中に見た人、女性…セリーヌ…)」 あと少しで何かが繋がりそうなのだ。 がんー…と頭を悩ませていると、ふとアレンの視界に光が映った。 炎か何かの光だろうか。 顔を上げてそちらを見ると、人影がランプを片手に海の方へ歩いていくのが見えた。 アレンは目線をその人物に合わせたまま、を片手で引き寄せる。 「ちょ、アレン、」 「人影が海の方へ…」 「え?」 言われてアレンの見ている方向を見れば、確かに暗がりの中にぽつりとランプの光が見える。 とアレンは顔を見合わせて頷くと、静かにその人物の後をつける事にした。 ・ ・ ・ ランプを傍らに下ろすと、持っていた花束を海に向かって投げ入れる。 もう今年で何年目になるだろう。 彼女の遺体は荒波にのまれた為か、見付ける事が出来ず墓はもぬけの殻。 彼女の居ない墓に花を添えても何だか意味がないように思えて、以後ずっとここから―― 彼女が飛び降りた場所から花を投げ入れている。 握り締めた小さな箱。 中には彼女にあげるはずだった物が入っている。 何度ここから投げ捨てようかと思ったか。 それでもそれが出来なかったのは、これは直接彼女にあげるはずの物だったからだ。 出来る事なら、これを彼女に渡してから彼女の元へいきたい。 それまでは、それまでは…。 「セリーヌ…」 「やっぱりオルトさん、アナタでしたか」 「!?」 聞こえた声に、人影であるオルトは驚いて後ろを振り返った。 ランプが薄っすらと照らす光に映ったのは、とアレンの姿。 オルトはたじろいだ後、まるで脱力するかのように肩を落として再び海を見下ろした。 「まだ…セリーヌさんを愛しているんですね」 「…バルドが喋ったか」 「ご理解が早くて助かります」 「……放っておいてくれないか」 「……」 「何、死にはせん。私はまだ…死ぬ事はできない」 月もない、星の光もない、ランプの光に照らされただけのオルトからは、この間のような刺々しい雰囲気など微塵も感じることが出来ず、何だかまるで。 「(会いたいん…だろうな)」 幾年時が経とうとも、どれだけの月日が過ぎ去ろうとも。 彼はまだ伝えていないのだ。 心からの本当の言葉を。 心からの彼の愛情を。 は静かに頭を下げて踵を返した。 アレンは最初慌てふためいたものの、の後に続いてこの場所を去ろうとする。 岬から離れてしばらく。 不意に嫌な予感がしてが立ち止まった。 と同時に、アレンがハッとして岬の方を振り返る。 「(胸騒ぎが…)」 「…」 「ん?」 「っ、戻りましょう!」 「え!?ど、どうしたの!?」 突如アレンがもと来た道を逆走し始めた。 出遅れただったが、必死にアレンの背中を追って岬の方へ戻る。 「アクマです!」 「!」 「アクマも居るけど…もっと厄介なのがいます―― 」 「…! まさか!」 「千年伯爵だ!!」 アレンの殺気が増長したかのように、アレンの持つイノセンスが形を変えた。 もイノセンスを解放すると、アレンに遅れぬように走る速度を速めた。 ← † → はい。ようやくアクマのご登場! そして千年伯爵も登場しまっす! 人魚編はまもなく完結ですね。最後までお付き合い下さい。 2009/02/15 |