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「・。 お前が我輩の前で漆黒の花嫁衣装を着る時が必ずやってくるでしょウ。楽しみにしていますヨ♡」 岩場から出てきた、アレンそしてオルトを出迎えたのはなんといなくなったと思っていた千年伯爵だった。 そして告げられたその言葉に、は何故か胸騒ぎがするのを感じていた。 |
| セイレーンの歌声 |
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《―― そうか。それじゃあイノセンスを持って一度本部に帰還してくれ》 「はい、分かりました」 アレンの部屋の扉を叩こうとすると、中からアレンの声が聞こえてきた。 恐らく相手はコムイなのだろう。 伸ばしかけた腕を宙で止めたままにしていると、中から扉が開かれた。 「行きましょうか、」 笑ったアレンに、はぎこちなく笑みを返した。 ◇ セリーヌの亡骸を自分の上着に集めたオルトと共に、イノセンスを回収してアレンとは地上へ戻った。 するとそんな3人を出迎えたのは場違いであろう軽快な拍手。 驚きに顔を上げると、そこにはにんまり顔の伯爵が岩の上に座っている姿があった。 「セリーヌをアクマには出来なかったが…素晴らしい恋のエチュードでしタ♡」 「伯爵…っ!」 とオルトを守るように一歩前に立ちふさがったアレンだったが、伯爵からは戦闘の意思がまるで感じられなかった。 アレンとしばらくいがみ合うようにしていた伯爵だったが、不意にその視線が逸れてとぶつかる。 思わず眉を顰めたが、伯爵は相変わらずの笑みを崩さず、ふわりと宙へ浮き上がった。 「今日はもう帰りましょウ。ですが・――」 「!!」 何故名前を知っているの? 何故自分を名指しするの? の中で瞬時に疑問が交錯した。 だがそんな疑問も直ぐに徒労に終わる。 「お前が我輩の前で漆黒の花嫁衣装を着る時が必ずやってくるでしょウ。楽しみにしていますヨ♡」 楽しそうに嬉しそうに。 それはまるで伯爵がアクマを生み出す時のような一時。 歌うように告げられたそれは、の胸の中に蟠りを残す。 現れた扉に吸い込まれるようにして、伯爵は姿を消したのだった。 ◇ あれから数時間もすると夜が明けて、空が白み始める。 の体は睡眠を欲していたはずなのに、一睡もする事が出来なかった。 海に落ちて冷えた体をシャワーで温めてから、ずっとベッドの上で膝を抱えて考えていた。 「(なんで…?)」 考えても考えても“何故”という疑問は尽きなかった。 伯爵は何を告げたかったのか。 伯爵は何故あんな事を言ったのか。 伯爵は何故…あんなに嬉々としていたのだろうか。 ・ ・ ・ 「(私が…花嫁…?)」 「――?」 「っ、」 ハッと顔を上げれば、そこはもう駅の真ん前だった。 アレンがの顔色を窺うようにしてこちらを覗き込んでいて、そう言えば本部へ帰る為駅へ向かっている最中だったと思い出す。 「大丈夫ですか…?やっぱり顔色が悪いですよ…もう1日くらい休んでも…」 「いいの、大丈夫。早く イノセンスが入っているケースを持ち上げては誤魔化すようにして笑う。 アレンは何となくが悩んでいる原因に予測はついているものの、今の自分ではどうにもする事ができないという事を理解して口を閉ざすしかない。 「アレンくん、さん」 「「?」」 駅の中へ入ろうとした直後、2人を呼び止める声があった。 同時に振り返ると、そこにはバルドと、オルトの姿がある。 昔はこうして2人して並んでいたのだろうが、今2人が並んでいると何だか違和感を覚えてしまった。 「もう、行くのかね」 「ええ」 「セリーヌさんのご葬儀に出られなくてごめんなさい」 バルドが引き止めるように声をかけると、アレンが頷き、はセリーヌの葬儀に出られない事を謝す。 オルトが是非2人にも、と声を掛けていたのだ。 「人魚の噂、早くなくなるといいですね」 「いや…噂はなくならないだろう。なんせここは元々人魚伝説がある場所。何か可笑しな事件があれば、何かと人魚だと騒ぎ立てるだろう」 たとえその事件がどんなに人魚と関係がなかろうとも、元々そのような伝承があれば自然とそれに結び付けてしまうもの。 確かに、人魚伝説をなかった事になどする事はできない。 「お2人は仲直りされたんですね」 「私はまだ、バルドを許したつもりはないがね」 「…はは、そういう事らしい」 アレンが2人揃っている事を改めて指摘すると、オルトがツンと顔を背ける。 苦笑しているバルドを見ると、やっぱり幼馴染ゆえの絆があるんだなぁと実感する。 はそんな2人に笑って、オルトへそっと歩み寄った。 「オルトさん、初めから何となく人魚がセリーヌさんじゃないかって気付いていましたよね…?」 「……お嬢さんは本当勘が鋭いな」 「何となく、だったんですけど」 「ああ…。セリーヌが岬から身を投げてから聞こえるようになったあの岩場の反響音。あの音が歌を唄っているように聞こえたのは、きっとセリーヌが私を呼んでいるからだと思った。それから、だな」 きっとそれは間違っていないのだろうと、は思った。 少なくともセリーヌにはイノセンスの力があった。 ただ力が発現しきっていなかった事から、イノセンスが最近になってセリーヌの元に辿り着いたのだろうと思われる。 今まで岩場から洩れる隙間風が鳴き声のように聞こえていたものだったが、イノセンスの力を借りて歌のようになり、そしてセリーヌを人魚に仕立て上げようとした。 恐らくが最初に海に引き込まれた時に見た金髪というのは、イノセンスが見せたものだったに違いない。 「(イノセンスは…人間に何をもたらそうとしているのだろうか…)」 それは未だ、謎のままだ。 「では僕達はこれで失礼します」 「また何か機会があればこちらの方にお邪魔しますね」 「ああ、いつでもこの街は君達を歓迎するよ」 バルドは穏やかに、オルトはぎこちなく笑ってアレンとを送り出す。 アレンとは2人に向かって手を振ると、駅に向かって歩き出した。 「良い街ね」 「そうですね。また是非来たいものです」 切符を片手にはホームから見える空を見上げる。 高く澄んだ空はとても美しくて、ホームの向こう側に広がる海は変わらず青々と輝いていた。 ふと陽の光に揺れる水平線を眺めていたが眩しさに目を細める。 「(そういえば…今回のシンクロ率は…―――)」 眩しい。 光がとっても眩しくて、の視界がじわりとぼやける。 その直後、とてつもない眠気には襲われた。 知らずと膝から力が抜けて体が揺れる。 () ああ、そう呼んだのはいったい誰だっただろうか。 の意識は、そこで途絶えた。 ← † → オリジナル編第一弾、セイレーンの歌声にお付き合い下さいまして有難う御座いました! 原作とは違う趣向で、でも雰囲気は崩したくなくて、どうやったら原作に近いイメージのまま 皆さんに作品として提供できるだろうかと必死に考えました(笑) アレンさんとの旅は一先ずここで終わり。 次はいよいよ彼らの登場ですっ! 伯爵の事や、ずっと謎にしているヒロインの過去がこの先で少しずつ明らかになっていきます! 是非この先も楽しんで頂ければなあと思います。 (セイレーンの歌声 了) 2009/02/21 |