「すみません遅れまし……あれ?」

司令室に飛び込んできたアレンの目に映ったのはソファに横になっているの姿。
コムイを見れば苦笑して空いているの隣へと促す。


「ごめんねアレンくん、ちょっとちゃん寝かせてあげてね」
「は…はぁ」

すぅ、との寝息が部屋に響いた。





セイレーンの歌声








「大丈夫かな、くん」
「……ぅん」
「眠いなら僕に寄り掛かってもいいですよ?」
「……ん」

うつらと頭を揺らすに、コムイは苦笑して声をかける。
頷いてはみたものの、まだ目は開いていないようだ。
見かねたアレンがを覗き込みながら言うと、大きく頭を揺らしたがそのままアレンの肩に倒れる。
そのまま眠ってしまいそうになったに、コムイは「寝ないでちゃんと聞いてね」と釘を刺した。


「さて、急で悪いんだけど2人に早速任務だ」
「あ、はい」
「んー……」
「場所はデンマーク。奇怪な歌声の正体を探ってきて欲しい」
「…うたごえ?」

歌という単語にがパチリと目を開けた。
同じく歌声という単語に反応したアレンは脳裏にある人形を思い浮かべる。
先の任務で酷く美しい歌声を披露したララだ。


「デンマークの外れの海で女性の歌声が聞こえるんだそうだ」
「それだけ…ですか?」
「勿論それだけじゃない。難破する船、鱗を持った子供。怪物を見たという人も続出している」

あとは資料を見てみてね、と告げられると、早速出立するように言われた。
先ほどまでウトウトしていたも、ようやく意識がしっかりしてきたようで今は自分の足で立っていた。


「それじゃあ行って来ますコムイさん」
「気をつけてね2人とも」
「大丈夫ですよ。アレンの事は何があっても守りますから」
「いや、僕はくんの方が心配なんだよ…」
「えー!?信用されてないの!?」

が出て行こうとした部屋を振り返って言う。
ところがコムイは「そうじゃなくて、」と言うとに手を伸ばして頭を撫でた。


「怪我しちゃダメだよ。女の子なんだから」
「そんな事言ったって…私はどちらかと言えば体術が資本ですし」
「リナリーにも言い聞かせてるんだけどね、ともかく、顔にだけは絶対に傷を作ってきちゃダメだよ!アレンくんもその辺ちゃんと見ててね!!」
「は、はぁ……」

そういう心配だったのか、とアレンが呆れていると、コムイが一つ咳払いをして真顔に戻る。
何となくとアレンも姿勢を正すと、コムイがそれぞれの顔をしっかりと見つめた。


「何はともあれ怪我がない事に越した事はない。くれぐれも気をつけるように」
「「はい」」
「行ってらっしゃい」

コムイの送り出しの言葉に、2人は笑顔で部屋を出て行った。









汽車がもうもうと煙を立ち上げながら駅を去っていく。
ちらほらと乗降客もおり、その中に教団のコートを羽織る2人組みが居た。
コムイより任務を授かったとアレンだ。
駅に降り立ったは大きく伸びをして体の筋を伸ばす。
吐き出した息はたちまちに白く煙った。


「んーーっ……来たね、デンマーク」
「少し冷えますね。は大丈夫ですか?」
「大丈夫。雪が降っても平気なように教団特製コートを持参済み!」

トランクを叩いてみせるとアレンは苦笑する。
こういうのは経験が物を言うのだろうか。
は何度か北地へ来た事があるらしい。


「さてと。ファインダーがいるはずなんだけど…」
殿とアレン・ウォーカー殿で御座いますね」

がキョロキョロと辺りを見渡すと、背後から声を掛けられる。
全身を白い服で包んだ、ファインダーの男だった。


「こちらに宿を取ってあります。本日はそちらでお休みになって下さい」
「だって。行こうかアレン」
「はい」

ファインダーに続いてとアレンは歩き出す。
海から流れ込んできた冷たい潮風が、まるで歓迎するかのように大空を吹き荒れた。









「アーレーンー、いる?」

コンコンと扉を叩きながら声を掛けた。
するとややあって扉が中から開かれる。
アレンが顔を出すと、は「こんばんは」と笑った。


「アレンまだご飯食べてない?」
「え、あ、はい」
「じゃ、デートしよ」
「はぁ……えぇ!?」

から出てきた言葉を理解するのに数秒掛かってしまった。
思わず大声を上げてしまったが、は「いいから、早く!」とアレンの背中を部屋に一度戻す。
準備をしてこいという意味なのだろう。


「で、デート…って」

は無自覚だが天然なところが多々ある。
今回もそうであるに違いないと頭で言い聞かせながらも、アレンは何処か逸る気持ちを止められなかった。
団服に袖を通してティムを呼ぶとようやく廊下へ出る。
すると壁際で寄り掛かっていたがぴょんとそこから背を離し、アレンの隣に立った。


「よし、いこっか」
「ちょ、!!」

はアレンの腕に自分の手を回すとサクサク歩き出した。
宿を出て人ごみに紛れ、は何処かへと向かい始める。


「あの…
「う〜さっむ。マフラーも持ってくれば良かったかなー」
ってば」
「ちょっとアレン、もうちょっとちゃんとくっ付いて歩いて」

ちょっとしたの気まぐれかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
ぴったりと隣にくっ付いたを横目に見下ろしながら、アレンはしどろもどろに慌てふためく。
如何わしいことを考えている訳でも、しようとしている訳でもないのに、先ほどから心臓が早鐘を打っている。
理由を問おうにも、が腕を引っ張り更に寄り添ったお陰で言葉が出てこなくなってしまった。


「(嬉しいやら…切ないやら…僕はどうすればいいんだ)」

アレンが嘆きに暮れていると、が「ごめんね」と呟く。
何事かとを見下ろすと、そこには冷たい外気温に触れたせいで頬が少し赤くなっているがあった。



  



へへへ。またしてもアレンと任務です!
そして初っ端からデートです(違う)
ようやくオリジナル任務に突入しました!
このお話も今後の大事な鍵になってくるので、是非楽しんでいってください!

2008/11/26