「創造書、発動」

ブンと電流が迸ったような音が微かに聞こえ、の手にイノセンスが出現する。
握ったそれを片手に開くと、目を閉じてゆっくりと口を開く。


「項目008…………cadena−鎖−」

すう、と言葉が自然と紡ぎ出され、の手に新たな武器が創造された。
確かな形にぐっとそれを握り締めると、は目を開いていく。


「……んー…捕縛用?」

手に握られていたのは、細長いシルバーの鎖だった。





過去の記憶と隠された謎








見た目はどちらかと言えばウォレットチェーンのようなスクロールローラータイプで、小さな鎖には細かい模様が一つ一つに刻まれている。
更に指を引っ掛けるリングがついており、それに指を掛けて思いっきり振ってみた。
するとどうだろうか。
自分の背丈ほどしかなかった鎖は長く伸びて地面に落ちた。
試しに近くの柱に向けてそれを振ってみると、柱にぎゅるんと巻きついてピンと張る。


「捕縛用だね、これは」

が腕を下ろそうとした時、指に引っ掛けていたリングがス、と動いた。
ん?と手を見下ろすと同時に張り詰めていた鎖が緩む感触がする。
その直後、ズズズ、という鈍い音が聞こえてきた。


「え…えぇ!?」

先ほどまで鎖を巻きつけていた柱が斜めにずれ落ちてきている。
そのまま柱は斜めに分断されると、ズシンという音を立てて地面に横たわった。
思わず手元の鎖を眺める。


「捕縛、かつ分断…できるんだ、これ」

が小さく呟くと共に、今の地響きを聞きつけて教団内の人間が走ってくるところだった。









くんの元のイノセンスはブレスレットだという所までは聞いたんだね」
「はい」
「他に何か言っていた?」
「首元のイノセンスはある人から受け継いだものだと」
「うん、確かにくんの首に寄生しているイノセンスはくんのものではないよ」
「ではいったい誰の?」

真剣な面持ちのアレンに、コムイも自然とそういう顔つきになる。
のイノセンスについて語るには、彼女の過去を交えて話さなければならない。


くんの妹の、らしいよ」
「らしい?」
「実はくんがここに来たとき、既に彼女は2つのイノセンスを所持していた。だから詳しい事はクロスにしか分からないんだ。そのクロスが言うには、くんの首のイノセンスは、妹に無理矢理埋め込まれたものらしい」
「むり、やり…?」

無理矢理と言う言葉にアレンはぞっとしたものを感じた。
そもそも無理矢理イノセンスを埋め込むなんて事は在り得ることなのだろうか。
アレンは目を見開いたままコムイの次の言葉を待つ。


くんの妹の事に関しては、教団では一切資料として関与していない。そもそもくんは日本人だという事だけで、それ以外の記録が出てこないんだ」
の人生に関しての歴史がない、って事ですか?」
「資料として歴史が残っていないんだよ。いくら手を尽くしても出てこなかった」
「それで、のイノセンスは…」

そうだったね、とコムイは重苦しく息を吐き出す。
なんだか慎重に思えるのは気のせいではないだろう。
コムイは傍らのマグカップに口をつけると、一口飲み干した。


「正直、くんに関しては未知数だ。身体能力においても武人並と言ってもいいだろう。けれど逆に弱点があるとすればイノセンスだと言っていい」
「壊されるという事ですか?」
「むしろその逆さ。くんの方が、イノセンスに壊されてしまいそうでね」

アレンはますます分からなくなって首を捻る。
元々イノセンスに関しての知識は多くない。
ここに来て初めて自分以外の寄生型を見たのだ。
壊されるとはいったいどういう事なのだろうか。


「イノセンスのシンクロ率が低いと宿主に負担をかける事は分かっているかな?」
「はい」
くんのシンクロ率は聞いての通り現在67%。しかし前に一度別々にシンクロ率を取った事があってね。どちらかと言えば僕はそちらを気にしている」
「別々に?」
「そう。ブレスレットの方はくんの所持物だった事もあって入団当時で44%。十分低い事には変わりないんだけど、驚いたのはもう一つのイノセンスの方さ」
「どのくらい、だったんですか…?」

恐る恐る尋ねたアレンに、コムイは「んー…」と渋ったような様子を見せた。
憚れるほどの数値なのだろうか。
アレンは黙ってコムイの言葉を待った。
ようやくして、コムイが顔を上げる。


くんのもう一つのイノセンスのシンクロ率は……―――

次の瞬間、アレンはその絶望的な数値に思わず言葉を失ってしまった。









「あ、アレーン!」
「あ…………」

廊下の向こう側から声がして、アレンは足を止めた。
顔を上げれば少し向こうにが見える。
は走ってアレンの元までやってくると、「コムイさんとの話終わった?」と聞いてきた。


「はい…。は鍛錬終わったんですか?」
「うん、新しい武器もだいたい把握できたし、次の任務から使えるかな」

ただ鍛錬場内の柱一つダメにしちゃったんだけど、とカラカラ笑うに、アレンは何処か浮かない表情で笑う。
それに気がついたはややあって、「どうしたの?」と問いかけた。


「いえ、すみません、ちょっとした考えごとです」
「そう?そろそろ任務も入ってくるだろうから、疲れてるなら部屋で休んだ方がいいかもよ?」
「大丈夫ですよ。こそ寝てなくていいんですか?」
「あんまりぐうたらしてると、いざって時に体が鈍っちゃって」
「あ、それは分かります」

でしょ、と笑ったはいつもと変わらず元気で、アレンは何だか申し訳ない気持ちになってきた。
の事を聞いて、勝手にブルーになっている。
当の本人はこんなにも気丈に振舞っているというのに。

ご飯を一緒に食べようと誘ってきたは、食堂へ移動する間新しい武器の説明をしてくれた。
けれどアレンは余りそれが頭に入らず、先ほどのコムイの言葉が頭をぐるぐるとしていた。
同情するつもりはないが、の過酷であったのであろう時間が窺える。
コムイは言っていた。
は入団当時、知らされた事実に教団を逃げ出そうとして監禁されていたと。
そして血も滲むような努力をしてそれを克服した事。
更には今後の体を蝕んでいくであろう存在をも明かした。


「(まさかのイノセンスとのシンクロ率があんなに低いなんて…)」

アレンはへの相槌も片手間に、コムイの言葉を思い出していた。
シンクロ率は低ければ低いほど宿主への体へ負担をかける。

くんのもう一つのイノセンスのシンクロ率は……
――― 9%だったんだ』

その数字は、をいったいどれほど苦しめたのだろうか。
アレンはこちらを見て笑うを見て、静かに心を痛めた。



  



はい、ヒロインのイノセンスのシンクロ率が明らかになりましたね。
正直自分で書いていて9%ってありえるの?と思ったんですけども、
まぁそのあたりはまたノアが出てきてから詳しく書きますぜい(実はノアも関係してるんだぜー)
(過去の記憶と隠された謎 了)

2008/11/23