30分前――


リーバーを含む科学班の面々が、給料にもならない残業をしていた時だった。
それぞれが本気で転職や永眠を考えている最中。
科学班、いや、本部内の癒しと言っても過言ではないリナリーがコーヒーを持ってきてくれた。
それぞれが心からの涙を浮かべてコーヒーを受け取っていると、何処からともなくガションガションと
絶望への足音が近付いてきた。
ついでとばかりにコムイの陽気な声が部屋を割る。


「おーいみんな起きてるーー?見て見て!」

部屋に入ってきたのは、科学班室長であるコムイと何やら大きな塊。


「ジャーン♪我が科学班の救世主こと「コムリンU」でーす!!」

テンションMAXなコムイと違い、徹夜続きで疲れている科学班の面々はその不気味とも言える
ロボット・コムリンU(以降コムリン)をげっそりと見上げた。
コムイに似せたつもりなのだろう。帽子を被っている。


「室長ぉ…何スかそのムダにごっついロボは…」
「だからコムリンだってば!たった今やっと完成したんだよーーー」

小躍りしているコムイに、リーバーが冷静なツッコミを入れてくれる。


「ボクの頭脳と人格を完全にコピーしたイノセンス開発専用の万能ロボットさ♪あらゆる資料の解析はもちろん、
対アクマ武器の修理、適合者のケアサポートも行うんだ。
まさにもうひとりのボク!!これで仕事がラクになるぞーーー!!!」

コムイは普段からまともに働いていないような気もするが、科学班から見ればこれでコムイのツケを補わずに済むという事なのだろう。
「室長ぉ〜」と嬉しさを露にコムイに飛びつく。
そんな中コムリンはリナリーの持っていたコーヒーを手に取った。
思わずリナリーはその手を何も言えずに追ってしまう。


「それ…兄さんのコーヒー………」

ゴクゴクと景気よくコーヒーを煽るコムリンに静かに言ってみる。
しかしコムリンは気にした風もなくコーヒーを全て飲み干してしまった。
疑問に思ったリナリーは、コーヒーの行方を気にしながらも何となくコムイに話しかける。


「兄さん。コムリンってコーヒー飲めるの?」
「何言ってるんだリナリー。いくらボクそっくりだといってもコムリンはロボットだよ?コーヒーは…………」

まっさかぁと笑ってみたコムイだったが、科学班の嬉々とした様子が消え去りシンとなる室内。
一瞬室内の空気がぴたりと止まる。


「飲んだの…?」

流石コムイの造ったロボットと言うべきか。
それとも流石コムイに似たロボットと言うべきだろうか。
静まり返った室内で、突如コムリンがドンという音を立てて小規模な爆発を起こした。
恐らく中に入っていたシステムがコーヒーのせいで異常をきたしたのだろう。
直後、リナリーの首元に注射が刺さる。


「リナリー!!!」

ドサリと倒れたリナリーを見てコムイがあらんばかりの悲鳴を上げた。
思わず科学班員は後ずさる。


《私…は…コム…リン。エクソシスト強く…する…。この女…はエクソ…シスト》

コムイがあわあわと死ながらリナリーを抱き起こす。
そして何かを口走るコムリンを恐る恐る見上げた。


《この女をマッチョに改良手術すべし!!》
「なにぃーーーー!!!」

流石科学班。叫ぶタイミングは息ピッタリである。
頭の中でリナリーのマッチョ姿を想像してしまった面々は、悲愴に暮れる勢いだ。

その後コムリンはリナリーを追って教団内で大暴れを喫している、という事だった。





黒の教団壊滅未遂事件








「……と、いうワケだ。悪いな…こんな理由で」
「「「(アホくさ……っ!!)」」」

リーバーが経緯を説明し終えると、アレン、、トマは呼吸を整えながら心の中で呟いた。
口に出さなかっただけまだマシだろう。
最も、酸素を取り込むことだけで精一杯の3人には出来そうもないが。


「リナリーは大丈夫なんですか?」
「コムリンの麻酔針くらって眠ってるだけだ」

アレンは背負っているリナリーを見やりながら言う。
と同時に、リナリがーエクソシストである事を知った。
リーバーが麻酔で眠っているだけだと説明すると、はリナリーを覗き込んで乱れた前髪をなおしてやる。


「はあぁ〜〜ラクになりたいなんて思ったバチかなあ…」
「え?」
「お前達エクソシストや探索部隊ファインダーは命懸けで戦場にいるってのにさ、悪いな」
「リーバー班長…」

は思わずリーバーを見やった。
まさか科学班の人達がそんな風に思っていたなんて。
確かに彼等は同じ死地せんじょうに立つ人間ではないかもしれないが、だからこそ精一杯のサポートをしてくれる。
同じ場所に立つ事はなくても、志は同じなのだ。


「仲間はずれみたいな言い方しないで、リーバー班長」
「え?」
「同じでしょ?何も変わらないよ。私達と」
…」

はリーバーに笑って見せた。
立つ場所は違うが、それでも仲間だ。
の言わんとする事が分かったのだろう。
リーバーは静かに有難うと口にする。


「それから言い忘れてたが…おかえり、アレン、

おかえり、という言葉に、は嬉しくなって「ただいま!」と笑う。
しかしアレンは驚きに満ちた表情の後、心此処にあらずと言った様に黙ってしまった。


『おかえりアレン』


「(マナ…)」
「……ン?」
「アレン!?」
「え…あっ、はい!」

リーバーの呼びかけにも返事がなかったので、がアレンの正面に回って声を掛けた。
ようやく意識が戻って来たアレンは、驚いたように返事をする。


「何だよ、もしかして任務の傷が痛むのか?」
「え?そうなのアレン?」
「いえっ、平気です」

もしかして今まで我慢していたのではないかとがずい、とアレンに顔を近づけた。
どうして言ってくれなかったの、と言いたげな表情に、アレンは既に傷はほとんど完治に近いことを告げる。
「本当に?」と念を押すにきちんと頷いて答えると、アレンは居住いを正してリーバーに顔を向ける。


「た、ただいま」
「?」

苦笑いで帰還を告げたアレンにリーバーは首をかしげる。
その様子を見ていたは、少し昔の事を振り返っていた。
アレンは昔から、少し考え事をする癖があるようだ。
それは自分にも言える事なのだが。


「(心此処にあらずなのは…私の方か)」

「おおーい無事かー!!」
「室長!みんな」

がぼんやりしていると、何処からともなく聞き知った声が聞こえてきた。
思わず顔を上げると、リーバーが移動装置に乗っている科学班を呼ぶ。
どうやら何だかんだで皆無事のようだ。
怪我は、些か酷いけれど。


「班長ぉ早くこっちへ!あ、アレンととトマも帰ってたの?こっち来い早く…」
「リナリィーーまだスリムかいーーー!?」
「落ち着けお前ら…」


何だかんだ言って、本部ホームのこういう空気に。
嬉しくなってしまう自分がいる事をは悟った。



  



どたばたやってますけども、何だかんだでこういう雰囲気って温かくていいですよね。
思わず微笑んでしまうような温かさです。
この後コムリン騒動を片付けて、ヒロインのイノセンスの核心に迫りたいと思います。

2008/11/14