《いいねぇ青い空。エメラルドグリーンの海。ペルファヴォーレ イタリアン♪》
「だから何だ」

電話口からコムイの揚々とした声が聞こえてきた。
陽気な事を口走るその一言に、神田はいつもの如く一口で一蹴した。





土翁と空夜のアリア








《「何だ」?フフン♪》

トーンがひとつ下がって神田の言葉を繰り返したのち、コムイは意味深に笑う。
そして。


《羨ましいんだいちくしょーめっ!アクマ退治の報告からもう三日!何してんのさ!!ボクなんかみんなにコキ使われて外にも出れない、まるでお城に幽閉されたプリンセ…》
「わめくな。うるせーな」

最初の一言を皮切りに、コムイはつらつらと今までの不平不満を並べた。
口を動かしながら手も同時に動かしポンポンと書類に判子を押していく。
ある意味器用でもあり、流石科学班室長という有能な地位についているだけはある。
がしかし、そんなコムイの愚痴に神田は耳を貸さず、やはり呆気ない返事で終わってしまった。


《ところでちゃんは?ちゃんの声が聞きた…》
「アイツは準備で忙しい」

またしても次から次へと話題を広げようとするコムイの言葉を遮って神田は止めた。
少し声のトーンが落ちたのは気のせいではないだろう。


「文句はアイツに言えよ!」
《ん?ちゃん?》
「違う!つかコムイ!俺アイツと合わねェ」
《神田くんは誰とも合わないじゃないの。あ、でもちゃんは別か》

神田は相手を指示語で呼ぶ事が多い為、「アイツ」「ソイツ」「コイツ」などから人物を特定する事は難しい。
何となしにの名前を出してみたが、予想は外れたらしい。
神田はその人物を否定すると、もう1人のパートナーを思い浮かべる。
そんな中、神田の人付き合いの悪さを知っているコムイは他に神田とベストなパートナーを組めそうな人物を挙げるが見当たらず、結局先程神田が否定したが出てきた。
恐らく神田の言う合わない人物とはアレンの事なのであろう。


《ところでアレンくんは?》
「まだあの都市で人形と一緒にいる!!」

予想はどうやら当たったようだ。
アレンという単語に反応するかのように神田の声が大きくなった。
側にいるトマは居心地が悪そうに無線機を担いでいる。


《そのララっていう人形…そろそろなのかい?》
「多分な。もうアレは五百年動いてた時の人形じゃない。じき止まる」

3日前に見たララを思い出しながら、神田はぽつりと言う。
何となく言葉に覇気がないのは、少なからず思うことがあっての事なのだろう。
そんな電話越しに感じた神田の様子にコムイは黙ったが、再び神田の声が電話越しに聞こえた。


「それから、の事だが」
くん?》

コムイはを「くん」付けで呼んだり、「ちゃん」付けで呼ぶ事がある。
普段はだいたい「くん」付けや「ちゃん」付けなのだが、時折呼び捨てで呼ぶ事があった。
時に上司として、時に家族として、時に一人の男性として。
神田はまだの事を「」としか呼んだことがないので、なんだか複雑な気分だ。
いったいコムイは、その呼び方にどんな意味を込めているのだろうか。
そんな下らない事を考えながら、神田はの報告をする。


「アイツ、シンクロ率が上がったとか言ってたぞ」
《毎回任務の度にシンクロ率が少しずつではあるが上昇しているからね。カテゴリも増えたのかな?》
「本人はそう言っていた」
《でも、“今回は”ちゃんと意識が持ったようだね》
「ギリギリだったけどな」

前回任務の報告をしたのは神田で、その時は既に意識を手放している状態であった。
その時に確認できなかったが、先程本人の口からシンクロ率が上がった事を聞いたので報告する。
また、カテゴリが増えた事をコムイが言い当てると、曖昧に頷いた。
カテゴリというのはが扱える武器の「項目コード」の事で、シンクロ率の上昇に伴い選択できる項目が増える。
その為毎回任務が終わった際にはヘブラスカのところへ行ってシンクロ率を確認するのが常であった。
シンクロ確認に立ち会うコムイは、ふむ、と頷いてからの意識が一応最後まで持っていた事を口走る。
神田は辛くも過大評価はしないようであるが。


《じきアレンくんとコンビを組む事もあるだろうからね。彼にもちゃんとちゃんの事は伝えておかないと》
「アイツにを任せて大丈夫なのかよ」
《でも今回の彼は立派だったんだろう?》
「辛うじて、戦闘能力だけな」
《厳しいなぁ…神田くんは》

苦笑してコムイは神田のアレンに対する評価を聞いていた。
それでも神田が欠点を上げずに評価するのは珍しい事だ。
コムイはなんとなく、心の中で良いコンビなのではないかと考えを巡らせる。


「それともう一つ。アイツ今回の任務で感傷的になってやがる」
《あらら、また泣いちゃったんだ》
「まったく迷惑な話だ」
《とか言ってー。そんな事言いながら慰めてあげたんだろう?ズルイよ神田くんっ、僕だってその場にいたら胸を貸して抱き締めてあげ…》
「余計な事はしなくていい、愚痴だけでも聞いてやれよ」

コムイのちょっとしたおふざけに神田はきっぱりと語調を強めて言った。
電話越しにそれを感じたコムイは、ふ、と息を吐き出してから「分かったよ」と答える。
何だかんだでの事になると神田は年頃の男の子のように反応する。
実際年頃の男の子なのだが、普段は忘れているような様子なので何となくコムイは安心した。


「神田ー?」
《やや!その声はちゃんっ》
「っっ!!うるせーよコムイ!!」

神田の部屋を覗き込んだが中にいるであろう神田に声を掛けた。
どうやら出発できる準備が出来たようだ。
しかし、今まで真面目に話をしていたコムイがの声をキャッチしてか電話越しに大音量でを呼んだ。
耳元に受話器を当てていた神田は慌ててそれを引き離し、話口に向かって怒鳴りつける。


「あ、まだ報告中だった?」
「面倒くせぇ‥‥代わりにお前が報告しろ」
「え、ちょ」

丁度着替えようと思ってた所だ、と歩み寄ってきたに受話器を押し付けると、
神田はベッドから立ち上がって包帯やらを解き始めた。
はそんな神田から目を離すと、受話器から聞こえるコムイの声に蓋をするようにそれを耳に当てる。


「もしもしコムイさん?」
ちゃーんっ!うう、やっと声が聞けた…》
「大袈裟ですよコムイさん」

過剰な反応にはくすくすと笑う。
それでもコムイはようやく聞こえたの声にしみじみと浸っていた。
コムイにとってがどれほど大切な存在かが窺い知れる瞬間でもある。


《聞いてよ聞いてよ…神田くんたらさっきから僕の言葉をことごとく遮ってね》
「仕方ないですよ、神田ですから」

何となく神田とコムイのやり取りが頭に思い浮かんだは苦笑してコムイを慰める。
すると部屋の外からドタドタと足音が聞こえてきた。
は受話器を持ったまま入り口付近を見やる


「ちょっとちょっと何してんだい!?」
「帰る。金はそこに請求してくれ」

入ってきたのはこの病院の医師で、包帯を解いている神田を止めにかかった。
当然であろう。
神田は全治5ヶ月。
かくいうも傷はそこまで酷くなかったものの体が酷く衰弱していたので1ヶ月ほどの入院を勧められている。
それはともかく、神田は医者の忠告を却下すると、トマに教団の名刺を渡させた。
しかし医者は首を振って重要患者である事を告げる。


「治った」
「そんなワケないでしょ!!」

誰しもがそう思う。
あれだけの怪我を負った人間が3日で治るわけがない。
医者もそんな人間を見たことが無い為神田の言葉を否定したが、神田はようやく包帯を解き終わると医者に押し付ける。


「世話になった」

シャツを羽織った神田の胸元は、まるで始めからそこには何もなかったかのように綺麗に治っていた。
部屋を出て行った神田を追ってとトマも部屋を出る。
「そんなバカな。傷が消えている…」と、狐につままれたかのような状態の医者をは振り返ったあと、
距離が開いてしまった神田を追いかける為にトマを引き連れ走り出した。



  



ちょっと原作とミックスできたかなー…?
自分ではよく分からないのですが…。
カタカナ変換をしたのでカタカナ使おうと思っているんですけど、なかなか使う機会ってないよねー(こら管理人)。
ヒロインを気にし始めている神田を書きたかった。

2008/11/13