ララとグゾルの2人だけであった空間に、アレンとが姿を現した。
グゾルがハッとして顔を上げると、同じくしてララもそちらを振り返る。


「あ、ごめんなさい。立ち聞きするつもりはなかったんですけど…。…キミが人形だったんですね」
「……」
「(あ、なんかララの機嫌が最高潮に悪い気がする…)」

アレンの反対側で神田を支えていたは、ララの表情の変化に何となく嫌な予感を察知した。
ちょっとアレンの無神経さに悲しくなり、と同時にもっと前にアレンに人形の正体を教えておけば良かったと後悔する。
がララの様子を窺っていると、ララは側にあった石柱を片手で軽々と持ち上げ頭上に抱えた。
それを見ていたとアレンはぎょっとして一歩後ずさる。

次の瞬間、ララの持っていた石柱がこちら目掛けて飛んできた。





土翁と空夜のアリア








「どわたっ!!?」
「もー!!アレンのバカぁっ」
「何で僕なんですか!?」

アレンに非はないが、理不尽にも巻き込まれたは無意味にアレンを責めた。
馬鹿呼ばわりされたアレンは意味も分からず、ララの攻撃を避けながらに抗議する。


「ままま、待って待って!!」
「ちょ、アレンっ!?」

アレンが神田を支えていた手を離した。
支えを失った神田は当然に凭れるようになる。
がしかし、神田はよりも大きい上に何より男性だ。
1人で神田の体を支える事が出来なくなったは、その場に膝を着いて神田を抱き締めるようにして何とか転倒を防ぐ。


「重…っ」

意識を失っていれば尚更だ。
滑り落ちそうになる神田を何とか踏ん張り支えながら、は裏切り者――アレンの姿を探した。
しかし、の語弊は直ぐに解かれた。
アレンは裏切り者ではない。むしろ被害者と言っても良いだろう。


「んー‥‥複雑だ」

アレンはララの集中攻撃を喰らっていた。
どうやらを攻撃する意思はないようで、ただひたすらアレンを標的にしている。
ララに彼は仲間だと説明すべきだが、この状況でどうすればいいのだろうか。
が悩んでいると、逃げる一方だったアレンが攻撃に出た。
ララが投げた石柱を見事イノセンスでキャッチすると、それを投げ返す。


「アレンっ!?」

それはいくらなんでもえげつない。
が悲鳴に似た声を上げたが、アレンの放った石柱はララの後ろにあった残りの石柱を全て砕くだけに終わる。
ブーメランの要領で戻って来たそれを、アレンは見事キャッチした。


「もう投げるものは無いですよ」

座り込むララにアレンは歩み寄った。
怯えるようにララは縮こまったが、アレンは触れるか触れられないかの距離で足を止める。


「お願いです、何か事情があるなら教えてください。可愛いコ相手に戦えませんよ」
「…………」
「…………うっわー」

アレンには聞こえないくらいの声量では呟く。
その表情は何かいけないものでも見てしまったかのような、複雑な様子だ。


「(アレンてば…キザだな)」

あんなに小さな子まで口説いてる。
は静かに弟弟子の行く末を案じた。

しかし、流石イギリス紳士と言うか。
あのような事を言っても様になるのだからむしろ何も言い返せない。
あれを他の所でやらせてみたらどうだろう。
きっと誰しもが運命とやらを一度は信じてみたくなるのではないだろうか。


「師匠‥‥アナタの弟子はある意味アナタにそっくりです」

和解したのであろうアレンとララを見守りながら、
は遠く離れた何処かに居ると思われるクロスに向けて静かに報告をしておいた。









「グゾルはもうじき死んでしまうの」

グゾルに気を遣ってか、ララはグゾルから少し離れた場所で本音を零してくれた。


「それまで私を彼から離さないで。この心臓はあなた達にあげていいから…!」

アレンとは顔を見合わせて、一度頷く。
そして詳しく話を聞く前に、とりあえずお互いの治療を軽く行うことにした。









「昔ひとりの人間の子供が、マテールで泣いていたの」

グゾルの膝に抱えられたララがゆっくり過去を振り返りながら話し出す。
アレンは聞き役としてララとグゾルの前に座り、は神田の手当てをしていた。
トマの手伝いを借りながら神田の体に包帯を巻きつける。


「その子は村の人間達から迫害されて、亡霊が住むと噂されてたこの都市まちに捨てられた」


―――

小さな年端も行かぬような男の子こどもが泣いていた。

マテールの民が去り、無人となった都市であったが度々人間が迷い込むことがあった。
その日もまた一人、人間が路頭に迷っている。
ララはボロボロになった体を子供の前に現しいつものように言った。


「ぼうや…歌はいかが…?」

6人目の人間。
それ以前の人間は、皆「化物」と言って襲い掛かってきた。
もしこの子供も同じように受け入れてくれないのなら、殺してしまうつもりだった。

快楽人形として造られた人形。
歌い続けることで人間に楽しんでもらう事が存在理由。
歌いたい。歌わせて欲しい。
まるで心を持ってしまったかのように、人形は歌うことを切望していた。


「うた?」

顔を上げた子供は、とても醜い顔をしていた。
思わず続ける言葉を失う。


「ぼくのために歌ってくれるの……?誰もそんなことしてくれなかったよ」

子供は笑った。
ひしゃげた顔を精一杯に綻ばせる。


「ぼくグゾルっていうの…。歌って、亡霊さん」

それがグゾルとの出会いだった。
グゾルの言葉が、人形をララへと変えた瞬間だった。



  



改めて自分の言葉で原作を説明するって本当に難しいですね。
本当何処を弄くっていいのか分からないです…。
この回のアレンのセリフには本当に吃驚だった。

2008/11/10