「ハッ…ハッ…」
「アレン…やっぱり私もどっちか担ぐよ…?」

息も切れ切れに、アレンは両手に自分よりも大きい男を2人抱えていた。
肩にトマを担ぎ、神田を脇に抱えている。
神田の六幻だけ持っていたは、だいぶペースが遅れて後ろを歩くアレンを心配そうに覗き込む。


「だ、大丈夫、ですよ」
「でも…」
「痛っ」

大丈夫とは言っているが、何だかんだでアレンも相当な怪我を負っているのだ。
苦痛に顔を歪めたアレンを見て、は心配そうに眉を寄せる。
そして、トマとは反対側に回ると、若干引き摺られている神田を支えた。
するとアレンの肩に担がれていたトマが、ぼそりと声を発する。


「ウォーカー殿…私は置いていってください。あなたもケガを負っているのでしょう…」
「なんてこと無いですよ!」

本当は違うのであろうが、ここでトマを置いていくなんていう考えはアレンにはないのだろう。
当然にもそんな考えは無いので、ただ黙々と神田を支えて歩いた。
アレンが何処か休息が取れる場所が無いかと考えていると、が急に足を止める。


?」
「歌‥‥」
「え?」

立ち止まったは辺りを見渡した後目を閉じた。
耳を澄ましているのだろう、目を閉じたまま何かを探っている。


「歌が聴こえるよ」
「歌…?」
「こっち」

はある方向を指差すと、アレンと共に歩き出した。





土翁と空夜のアリア








マテールは「神に見離された土地」と呼ばれていた
絶望に生きる民達はそれを忘れる為 人形を造ったのである
踊りを舞い 歌を奏でる 快楽人形を…


「本当だ、歌が聴こえる…」
「うん。多分ララの歌だ」

ひどく美しい旋律の 造花の子守歌









「泣いているのか…?ララ」

グゾルの急な言葉にララはキョトンとした。
歌を止めて、グゾルの側に歩み寄る。


「変なこと聞くんだねグゾル」
「何か…悲しんでいるように聴こえた…」

人形は泣かない。人間じゃないから水分なんて体から出てこない。
ララは苦笑したが、そっと胸に手を当ててみた。
グゾルには聴こえたのだろうか。
心に抱える、本当のうたが。


「私は人形だよ…?」―アナタと共にいたい―

ララは、そっと笑う。
想いは届かなくてもいい。
今この瞬間があれば、何もいらない。
ただグゾルと一緒にいられる、それだけでいい。


「グゾル。どうして自分が人形だなんてウソついたの?」

ララは先程神田に問い詰められた時の事を思い出していた。
グゾルは、人間は脆い。
刃物で肌をなぞるだけで、傷が出来て、血が流れる。
ララの質問に、グゾルはしばし黙った。
相変わらず顔をフードの奥深くに隠したまま。
その為表情は窺い知れず、ララはじっとグゾルの目があるであろう場所を見る。


「私はとても…醜い人間だよ。ララを他人ひとに壊されたくなかった」

もしララが人形だと言っていたら、もしかしたらあの場所で心臓イノセンスが抜き取られていたかもしれない。
もしそうなってしまったら、ララはただの快楽人形に戻ってしまう。
ララで、なくなってしまう。

醜い自分を見てくれた、心を持たぬ快楽人形。
もしかしたら、人形だから自分と一緒にいてくれたのかもしれない。
それでも構わない。
ただ、時間を共に過してくれただけで…。


「ララ…ずっと側にいてくれ。そして、私が死ぬ時、私の手でお前を壊させてくれ」

浅ましい人間の、最後の願い。
他に何もいらない。どんなに大きな願いも叶わなくていい。
ただ、ただその小さな願いだけは叶えて欲しい。
死が2人を別つまで、その瞬間まで、共にいたい。


「はい、グゾル。ララはグゾルのお人形だもの」

ララはグゾルにそっと寄り添った。
もう何度こうしてきただろう。
もう何度、クゾルの温かい体温というものを感じてきただろう。

もう何年、グゾルと寄り添ってきただろう。

あと少し、あと少しだけ。
グゾルに寄り添っていたい。


「次は何の歌がいい?」

ララが優しく問う。
それは何年も何十年も前から変わらない声。
初めて優しくしてくれた、柔らかな声。

グゾルは静かに涙を流した。
ララに気付かれぬ様、そっと涙を流した。

死が2人を別つまで。死が…ふたりを、別つまで……



「私は醜い…。醜い人間…だ」


どうか、この願いだけは……



  



物凄い勝手な解釈を沢山盛り込んでしまって済みません。
でもこの話は私としても大好きなので、最大の形で演出したかった。
二人の間に横たわった沈黙は、こんな風に語っていたのかな?なんて事を考えながら書きました。
ちょっとある意味オリジナル。

2008/11/08