「我が名は戦死者を選ぶ乙女ヴァルキュリア。さぁ、狂宴を始めましょう?」

神田とラビはを警戒するようにして後ろへ後退した。
は仲間であるはずなのだが、何故か神田とラビに敵意を含んだ目を向けている。
がそれを見たままにやりと口元を歪め、傍らにアクマを召還した。





不思議の街のアリス








「見届けなさい。結末を」
『畏まりまして、様』

はそれだけを呟くと、レベル2のアクマとレベル1のアクマを数体残し、突如現れた扉へ手を掛ける。


「六幻、災厄招来!界蟲「一幻」!!」

扉を開けようとしたに向かって神田の界蟲が飛んできた。
は鬱陶しそうにそれを手で払うようにして空で掻き消すと、神田を睨みつける。


「何かしら」
「何処へ行く気だ!」
「帰るのよ。私の役目は終わったもの」
「貴様、」
「あぁ、言い忘れてた。気をつけてね、ヴァルキュリアは―――

扉に飲まれるようにしてが消えていく。
その間にも目の前のヴァルキュリアと名乗ったがゆらりと一歩足を踏み出した。


「術者の体を貪るわよ。それじゃあ、ご健闘を」
「汚ねぇさ!アイツ!」
「オイ来るぞ!」

に気を取られていた2人だったが、神田がのただならぬ様子の変化に六幻を構える。
味方に向かって構えるなど、気分がいいものではない。
ラビも仕方なしに回りのアクマを気にしつつも鉄槌を握る。
は不意に手を宙へ持ち上げると、ぽつり、と呟く。


項目コード014ゼロイチヨン nirvaaNaニルヴァーナ

その言葉の後、の側の地面がまるでマグマがせり上がってきたかのようにドロリと溶けた。
そこから現れたのはの背丈を悠に越えるであろう鎌。
赤黒く、ゴツゴツとしていてそれは棘に似たような歯を持っている。


「オイ馬鹿女!テメェ何するつもりだ!」
「そ、そうさ!っていうか…ヴァルキュリアって」

ふとラビは「ヴァルキュリア」について考えた。
「ヴァルキュリア」とは元々の名を「ワルキューレ」と言い、北欧神話に出てくる9人の戦乙女の事だ。
それを辿るようにして、ラビは頭の中の辞書を必死に捲っていく。


「ラグナロクの為に戦力として育て上げられた戦乙女…」
「どういう意味だ」
「ユウ…厄介な事になったかもしれないさぁ」

ラビは苦笑しつつも冷たい汗を背中に感じる。
未だ意味が理解できていない神田は六幻を握り締めたままちらりとラビの顔を覗き見る。


「ラグナロクっつーのは古代ノルド語で世界の結末って意味さ。所謂世界戦争が起こる日の事で、ワルキューレと呼ばれる戦乙女9人もこの戦争の為の戦力として加わっていた」
「御託はいらねぇよ!どうすりゃいい」
「ヴァルキュリアは…戦死者を選ぶ乙女。つまり、」
「さぁ…狩の始まりね」
「「っ!」」

ラビが説明を全て終える前には動き出した。
握り締めたニルヴァーナを大きく振りかぶり空をザッと払う。
神田とラビは慌ててその攻撃を交わし、空振った空中には赤黒い残像が残され、それはぼたぼたと地面に落ちて
――溶けた。


「うへぇ…あれマグマでできてんのかよ…」
「触れたら終わり、か」

無駄口を叩いている暇も無いようで、再びが高く飛び上がった。
ニルヴァーナで押し潰そうというのだろうか。
神田とラビは逃げ惑いながらどうするかを考える。


相手じゃ戦えねぇさ!ユウ、どうする!」
「ッチィ、この馬鹿が!」
「ちょ、ユウ!?」

神田はに向かって六幻を凪いだ。
はそれを軽々と受け止めてみせると、2人は武器越しに睨み合う。


「テメェ下らねぇ事してないでアクマを壊せよ!」
「何を言っているの?私の狩るべき対象は、ここにいる全てのイキモノ」
「ぐっ、」

突如が神田を押し返す力が強くなった。
神田の足は地面を抉って徐々に後ろへ押される。


「貴様…何者だっ、」
「名乗っただろう。我の名はヴァルキュリア。この場に全てのイキモノを狩るのよ」

が口元を歪める。
神田ははこんな笑い方をしないと、更に六幻に力を込めた。
今彼女を支配しているのは、自分達が知るという人格ではない。
確実に違う人格者だった。


「手加減しねぇぞ…」
「あら、手加減しようなんて思ってたの?そんな事してくれなくて良いわ。だってアナタは、ここで死ぬのだから」
「く、」

何という力なのだろうか。
彼女はまだ余裕の笑みさえ浮かべているというのに。
神田は歯を食いしばったままラビへ目線を送った。
それを受け止めたラビは渋い顔をしながらの後ろへ回り込み体を拘束してしまおうとする。
ところが。

−ガギィン−


「おわっ」
「っくそ!」
「2人掛でなければ面白くない」

は神田の六幻を弾き飛ばすと、ラビに向かってニルヴァーナを払う。
間一髪でそれを避けたラビは体勢を立て直す。


『よーし今ダ!撃てーー』
「「「!」」」

今までただ傍観していただけだと思われたアクマが一斉に神田とラビ目掛けて弾丸を発射した。
神田とラビは突然の事に反応が遅れ、ただ顔を腕で覆っただけだった。
その直後、一斉射撃された場所がもうもうと煙を上げて辺りは砂埃で覆われる。


「あれ、」
「……」

死んだ、と思ったのだが、神田とラビは無事であった。
無事どころか弾丸一つ浴びていない為無傷である。
いったい何が、と思えば、神田とラビの目の前に立っていたのはの姿。
2人は驚いて言葉を失っていた。



  



はてさて、登場しましたヴァルキュリア。
ラビが何かに勘付いておりますが、敢えてこの章では触れるつもりは御座いません。
伏線としてこのまま進みたいと思いますが…、このラビの勘がヒロインを大きく動かしていく事になります!
次でとりあえずこの章は終わりです〜。

2009/03/05