「首を刎ねよ」

その言葉を聞いた兵士が持っていた斧を高く持ち上げた。
はついに居ても立ってもいられず、イノセンスを発動させると素早く「項目:012 マグダラベール」と唱えた。
直後、兵士の振り下ろした斧が弾かれるようにして宙を高く舞う。

驚きの声を上げる兵士達の向こうで、女王だけがこちらを見て笑っていた。





不思議の街のアリス








「来ると思っていました、

法廷の真ん中には立っていた。
どよめく兵士達とは違い、女王だけは悠々と王座に腰掛けている。
は神田とラビに纏わせたマグダラベールをそのままに、創造書から「Lanza-槍-」を取り出した。
グッとそれを握り締めて女王を睨む。


「罪を犯したのはあなたの方。何をいきり立っているのです?」
「……」
「さぁ、そこを退きなさい。その者たちは処刑せねばなりません」
「私達をここから出して」
「その要求は飲めません。なぜならあなた達はルールを侵した」
「何がルールよ!勝手に巻き込んで、勝手に話を進めないで!」

またしてもルールだ。
いったいルールがどれほどのものなのかは分からないが、理不尽すぎる。


「こんなの幻想よ…」
「幻想…」
「コムイさんも、ラビも神田も、科学班の皆も!それにそこに居るアレンだって!みんなみんな幻想よ!」
「……」
「そこにいるのは本物のアレンじゃない。今まで会ってきた皆だって違う。ルールを侵したと言うのなら、それは私の心に入り込み幻想を生み出したあなたの方!」

が怒鳴ると同時に、法廷に居たアレンの姿がシュッと消えてなくなった。
マグダラベールに包まれる2人が消えていない事から、どうやら本物で良かったようだ。
はホッとしてから女王を睨む。


「ルールなんかで縛り付けないで」
「……トランプ兵」

急に女王の声が冷めたものになった。
突如として変わったその声には思わず背筋を震わせる。
何故だろう。
彼女の目は仮面で隠されていると言うのに、何だかとても冷たいものに思える。


「その女の首を刎ねよ!」
「っ!」

合図を皮切りに、トランプ兵が一斉に飛び上がる。
は槍を回転させて攻撃を全て弾くと、傍らへ飛び退いて槍を仕舞い込んだ。
注意を引き付けながらマグダラベールをも解くと創造書を目の前に取り出す。


「項目:022 古の業火に灼かれし鎌―――目覚めよ、アヴィス‐業火の鎌‐」

ゴゥ、と炎が渦巻いて鎌が取り出される。
はそれを振り上げて迫っていた兵士を薙ぎ払った。
火の粉を撒き散らしたそれは辺りを火の海へと変えていく。
元々紙で出来ているトランプ兵はあっという間に燃え上がり灰が散った。
それを見ていた他の兵士達はたじろいで一歩後ろへ下がる。


 。あなたは罪を犯した。一生消えない、深い傷を」
「……?」

いったい何を言っているのだろうか。
は轟々と燃え盛るアヴィスを握ったまま女王を見やる。


「お前は私を裏切った。そして私を殺した」
「…何、を」

嫌な予感がしていた。
じわりじわりと背後に忍び寄るような、良く分からない感覚だ。
息苦しいのは渦巻く炎が酸素を奪う為だろうか。
それとも、女王に食い入るように見られているためなのだろうか。


「私は殺された…姉さんに」
「…っ、ま、まさか…」
「姉さん…あなに殺されたのよ、私」

女王はゆっくりと仮面を取った。
ペルソナの下に隠されていたのは見紛うはずも無き自分の妹の顔。
は取り落としそうになった鎌を慌てて握り締める。
心臓が異様に早い。


…」
「そう。私は。あなたに殺された、憐れな妹」
「そんな…だって、は…」

は怖くなって一方後ろへ下がった。
対峙しているのは紛れもなく実の妹。
だが、妹がここにいるはずが無い。
この世にいるはずが無いのだ。

だって彼女は。


「私が殺した?」
「っは、」

眩暈がしては地に膝を着いた。
持っていたアヴィスも消え去り両手を床につける。
息苦しい。


「私はあの日死んだわ。そうよね、姉さん」
「っやめ、」
「あなたに殺されたのよ。どうやって殺したんだっけ?」
「やめて…」
「忘れちゃったの?私は今でもあの感覚が忘れられない」
「やめてっ、」
「姉さんの手が、私の血で染まっていくのを、私は忘れられないのよ。そう、あの日あなたは…」
「やめてぇぇっ!!!!」

叫び声が法廷内に広がった。
シン、と水を打ったかのように静まり返る中での荒い呼吸だけが響く。


「はっ、はっ、は、」

これは幻影?これも幻?
はこれも心が生み出した幻想だと思っていた。
けれど何かが違う。
不安がなくならない。
違うと否定できない。
目の前に現れた彼女を、作り出された幻影だと思えない。


「姉さん、ゲームをしましょうか」

がゆっくりと階段を降りてきた。
いつの間にか回りを囲んでいた兵士達はいなくなっている。
未だ地に伏していると、横たわる神田とラビ、そしてだけの空間になった。
コツコツと靴を鳴らしながらが神田とラビの側に立つ。
は慌てて顔を上げる。


「やめっ」
「この2人がそんなに大事?」

は神田とラビの側にただ立っているだけ。
なのにこの焦燥感はなんだろうか。
は震える体を叱咤して立ち上がろうとする。


「ゲームは簡単。生き残ればいいだけよ」
「やめてっ」
「さぁ、お目覚めなさい」

が2人に手を翳すと、呻き声を上げて神田とラビが目を開ける。
は呼吸を乱しつつも何とか2人に歩み寄ろうとよろよろと足を前へ出す。


「宴はこれからよ」

妖艶に笑った彼女を、はまるで悪夢が始まるかのような様子でただ見ている事しか出来なかった。



  



やっと!やっと謎の妹が出せました〜!!
いや、長かったですな。60話を越えてやっとか!って感じですけども。
妹との再会を含めて、もう1つやりたかった事があります!それを是非次の話で堪能しちゃって下さいw

2009/03/04