「しっかし惜しかったさー。もうちょっと起きるの遅ければチュー出来たのに」
「しなくていいからね、そんなの」

起き上がったは覗き込むようにしていたラビの顔を押し退けて今の状況を確認する。
どうやらここは先程が訪れた司令室のようだ。
更に自分が寝ていたのはデスク前のソファの上で、ラビはソファの背凭れから肘をついてを見下ろしている。


「(起きて早々心臓に悪い光景だった…)」
「ところでコムイは?」
「え、知らない」

知らないというよりも、も今の自分の置かれた状況を詳しく把握出来ていない。
結局自分が任務後どれだけ寝ていたのかも分かっていないし、思えばシンクロ率もまだ測っていないのだろう。
未だ睡眠を欲する頭でぼんやり考えている最中、はハッと何かを思い出したように背凭れに肘をつけるラビを振り返った。
「へ?」と間抜けな顔をするラビを見やって、は言い忘れていた事を告げる。


「おかえり、ラビ。それから久し振り!」
「……お、おお」

一瞬反応が遅れたラビだったが、何とか言葉を搾り出す。
そしてぽかんとしていた表情を元に戻して、の頭に手を乗せた。


「ただいまさ、

その笑顔が、また頑張る勇気をくれるんだ。





不思議の街のアリス








「どうしてラビはここにいるの?」
「オレはコムイに呼ばれたからここに来たんだけど…は?」

背凭れの方から移動してラビはの隣に座った。
その間は近くにコムイの気配がないのを確認してから隣のラビを見やる。


「私は…任務が終わって、目が覚めたら医務室にいて、でー…」
「ここに来てまた寝た、つー訳か」
「うん、まぁ、そうだね」

思えばかなり寝たのであろうにも関わらず、またしても眠ってしまったのだ。
本当に自分の睡眠欲は無尽蔵なのだと思い知らされる。
と言うのも、結局はイノセンスが巣食っているせいでもあるのだが。


「おや、ラビにしては随分早い到着じゃないか」
「おお、コムイー」
くんも起きたんだね。おはよう」
「お、おはよう御座います…」

片手に資料を持ったコムイが司令室に戻って来た。
2人の座るソファを追い越すと、目の前の椅子に腰を下ろす。


「コムイ、オレに用事って任務か?」
「ああ」
「パートナーは?あ、オレが良いんだけど!」
「ちょっと勝手に決めないでよ」
はオレと一緒イヤ?」
「嫌じゃないけど…」

だったらいいじゃねぇか、と笑うラビには小さく溜め息を零す。
ラビとの任務は嫌いではないが…。


「(疲れるというか…何と言うか)」

少ないエクソシストである為、同じ任務に就いた事は過去何度もある。
けれど街へ行く度にそこら辺のお姉さんに目を奪われ心を奪われ。
彼も本気ではないのだろうが、それに付き合わされるのはどうにも耐え難いものがある。


「あ、その前に質問」
「ん?なんだいくん」
「私が帰還してからどれだけ経ってる…?」
「ああ、くんが眠っていたのは3日間だよ。ちなみに運んでくれたのはアレンくんだから、今度会ったらお礼を言うといい」
「今度って…まさかもう任務に!?」

事件があれば赴くのがエクソシスト。
任務が割り当てられる事に周期はなく、常に不規則に行動している。
十分な休息を得られずに旅立つエクソシストも数知れず。
そんなに早く借り出されなければならないほど、任務が溜まっているのだろうか。


「アレンくんはリナリーとドイツへ向かったよ。今頃リナリーと列車の中に2人きり…」

あ、ヤバイ。と思った時には時既に遅し。
コムイが顔を俯けてぷるぷると打ち震え始めた。
直後、ワッと涙を湛えて顔を上げる。


「今頃リナリーと列車で、あの狭い車両の中で2人っきりなんだ…!僕のリナリーに何をしでかすか…!ま、まさかあんな事やそんな事を…っ」
「大丈夫ですってコムイさん。そんな事アリエマセン」

コムイの勝手な妄想が肥大していくのを、はキッパリと切り捨てた。
これ以上コムイの妄想を膨らませれば、今にも出て行ってアレンとリナリーを追ってしまいそうだ。
「落ち着くさコムイ」と宥めるラビと共に、はぼんやりとアレンが旅立ってしまった事を再確認する。


「(お礼も言えないうちに行っちゃったのか…)」
「つーかそのアレンってヤツ、どんな人間なんさ?はそのアレンと任務に行ったんだろ?」
「んー…どんなと言われても。口調は穏やかで、振る舞いは紳士で、よく食べてー…」
「オレいまいちイメージが掴めねぇんだけど…」

改めてどんな人間かと問われると、人は結構答えに詰まるらしいが。
共にした時間も短く、際立って思い出に残っている事は余り無い。
アレンという存在を上手く伝えようと思っても、余り把握出来ていない事を知る。


「(私…当たり前だけどあんまりアレンについても知らないんだな)」
「ところでくん」
「…はい、」

考えを中断してコムイに向き直ると、コムイは何処か申し訳なさそうな顔をしていた。
思わず首を傾げると、コムイが重々しげに口を開く。


「本当ならばくんにも十分な休息を取らせてあげたいんだけど、次の任務についてもらいたいんだ」
「…はい」
「場所はルクセンブルク」
「ん…ドイツと近いんですね」
「うん。どちらかが何かあったとしても、両方からサポート出来るようにと思ってね」

ドイツで何かあればそこから近いルクセンブルクから援助を行う事も可能であるし、逆にルクセンブルクで何かあればドイツから援助を行う事が出来るという事だ。
いつ何時、どんな敵が襲ってくるか分からない。
それがエクソシストの任務である。


「怪異は行方不明者が出る事。その傾向には規則性はないと思われるが、気になるのは男性の比率が高い事だ」
「男性の方が狙われやすい…」
「だからちゃんを送りたいんだけど、それ以外にも理由があってね」

コムイはルクセンブルクの場所を地図で示した後、に向き直って緊張の面持ちで口を開く。


「その場所は女人禁制ならぬ、男子禁制の場所」
「ルクセンブルクにそんな場所があるんですか…」
「お陰様で男性比率の多いファインダーじゃ殆ど踏み入る事が出来なくてね。女性のファインダーに頼んだんだけど
――帰ってこない」
「……」

一気に緊張感が走った。
が眉を顰めると、コムイはちらりとラビに目を向ける。


「そこでくんには悪いけど、ラビと一緒にそこへ行ってもらいたんだ」
「え…?でも男子禁制って…」
「おいコムイ、任務が…
――あ」
「あ」

が同行者であるラビは男なんですけど、と言おうとした直後、司令室に来訪者があった。
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには同じようにこちらを見て足を止めている同僚、神田の姿が。


「揃ったね。うん。今回の任務は、この3人で行って欲しいんだ」

だから男子禁制じゃないの?と、の頭は疑問符でいっぱいだった。



  



やってきました新章!
男子禁制では絶対この2人って決めてたんだぜ!!
今までアレンとずーっと一緒だったので、ここで一気に2人との仲を急接近させようと思いますっ!!!
お付き合い下されー!

2009/02/21