「おはようくん☆良い朝だね!」
「お早う御座いますコムイさん」

飛びつかんばかりの勢いで挨拶をしてきたコムイに、テンションの低いまま返事を返す
腕を広げていたコムイは、飛び込んできてくれると思い込んでいたが静かに自分の前のソファに腰掛けてしまったのでぐすんと涙ぐむ。


「あれ?アレンくんいたの?」
「………最初からいましたよ。の隣に」

とは違う扱いを受けたアレンは、少し不機嫌そうにの隣に腰掛けた。





過去の記憶と隠された謎








コムイが呼んでいるとアレンから聞いたは、途中幾度となく眠気に襲われながらも何とか司令室にやってきた。
ちなみに恒例のコムイの暑苦しい朝の挨拶を受けながらも、はソファに腰掛ける。


「今日は私服なんだねくん」
「だって任務じゃないし」

そういえば、とアレンはの服に目を向けた。
今日は団服コートも着ていないし、昨日団服を脱いだ時の服と違う。
ボーダー柄のニットワンピースにジーパンと、女の子らしいラフな恰好だ。


「まず最初に、アレンくん、くん、任務ご苦労様。イノセンスを無事回収できて良かったよ」

有難う、とコムイが告げる。
コムイのこういう小さな気配りがは好きだったりする。
が頷くと、「さて」とコムイが仕切りなおした。


「まぁ堅苦しい話をするつもりはないからね。朝食を用意したからそれでも食べながら聞いて欲しい」
「アレンも一緒に聞いていく?」
「え?えぇ…差し支えなければ」
「その方がいいかもしれないね。今後アレンくんとの任務もあるだろうから」

そう言ったコムイが差し出したのはクリップで留められた資料だ。
は朝食に手をつけようとした所で、先にそちらを受け取る。


「それは前々からくんに頼まれていた創造書についてのコピーだ。遅くなってしまったけど、渡しておくよ」
「解読できたの?」
「難航したけどね」

はパンを齧りながら資料をペラペラと捲る。
真横からアレンも同じように朝食を頬張りながらの手元を覗き込んだ。


「それは何ですか?」
「私のイノセンスに関する資料」

口の中に入っていたものを飲み下したアレンが問う。
見たことのない記号や細かな文字の羅列が続いている。
がイノセンスの資料だと答えると、コムイが言葉を続けた。


「アレンくん、くんのイノセンス、普通と違うと思った事はないかい?」
「あ、はい。だからに聞いてみたんですけど」
「そう。くんのイノセンスは今までにない例外なイノセンスなんだ。2つのイノセンスを所持しているにも関わらず、それは2つで1つを形成している」

珍しいタイプなんだよ、とコムイが言うのに合わせてアレンが頷く。
先ほどから黙っているは、熱心に資料に目を通していた。


くん。まず創造書の事から言わせてもらうよ」
「はい」
「創造書に書かれていた文字は、ルーン文字だ」
「絶滅した、あの…?」

ルーン文字とはゲルマン語の表記に用いられた音素文字。
スカンジナビア語やゴート語が由来とされており、語源は「神秘」などを意味する。
呪術や儀式に用いられたとされており、現在は黄金製の文字盤に残されているものと、ルーン石碑にのみとなっている大変珍しい記号でもある。


「なんせ古代に絶滅した文字だったからね。殆ど意味は取れなかったんだけど、分かった事がある」
「何…?」

の目の色が変わる。
興味とは違う、知らねばならぬと心が欲求しているのだ。
コムイはを見た後、タペストリーを捲って見せた。
そこに書かれているのは記号に近い文字列。


「ルーン文字は全てで24種しか存在しない。ここから予測するに、くんが使用できるカテゴリ項目は24までだろうと思われる」
「24……」
「今くんが使用できる項目コードは003、007、009、そして011と012の5つ。つまりくんはあと19武器が使用できる可能性がある。まぁ、可能性だからなんとも言えないんだけれど、覚えておいて欲しい」

あと19種。
はぼんやりと考える。
どれだけアクマを解放するだけの力を得るのだろうかと。
武器が増えれば増えるだけ、アクマを解放する役目を担わなくてはならない。
の体に、またひとつ鎖が掛けられたかのようだ。


「まぁ詳しい事はそっちに書いてあるから、追々目を通しておくように。それから、今日はくんの項目を調べておかないとね。神田くんからの報告でカテゴリが増えたことは聞いているよ」
「あ、うん」
「アレンくんはちょっとここで待っててね」
「分かりました」

アレンを置いて立ち上がったの背を押してコムイは別の部屋へ連れて行く。
それを見送ったアレンは素直に頷き朝食を平らげ始めた。
とコムイはしばらく無言で廊下を歩いていたが、不意にコムイが足を止めてをぽす、と抱き締めた。
は抱き締められたまま何度も瞬きをする。


「コムイ…さん?」
「神田くんから、もう一つ報告を受けていてね。ちゃんが泣いていた、ってね」
「……」

余計なことを、とは神田に殺気を送ってみたが、事実は事実。
醜い人間として人々から疎まれたが、ララと出会ってから密かに想いを募らせてきたグゾル。
快楽人形でありながらもイノセンスによって“ココロ”を与えられ、グゾルと出会い人間と同じようにグゾルを愛したララ。
二人は直接愛の言葉を交わした訳ではなかったけれど、確かに二人を繋いでいたのは愛の絆だった。
そう、愛情だったのだ。


「私‥‥」
ちゃんはもっと自分を大切にするべきだよ。君は思われてるんだ。沢山の人に。勿論僕も、その中の一人だよ」

コムイは諭すように言葉を選びながらそっとの背中を撫でる。
微動だにしなかっただったが、徐に腕を持ち上げると、コムイの服を掴んだ。


「大丈夫。ちゃんは愛されてるよ」
「私‥‥‥成長してる‥?」
「うん。初めて此処に来た時よりも立派になったよ」
「まえに、すす、めてる‥‥?」
「進んでいるよ。君は強くなったんだ」

涙ぐんだは顔を見られないように素直にコムイの好意を受け入れた。
どうして私はこんなにも泣き虫なのだろうと、毎度のように思う。
それでも支えてくれる仲間がちゃんといる。
それはとてもとても幸せな事で。


「“過去”は変わらない。けれど、“未来”は変える事ができるんだ。そうだろう?」
「っ、うん」
「着実に前へ前へ進めている。僕が保証するよ」
「うん‥っ」

目を閉じたら涙が零れた。
それはコムイの服へ滲みこみスッと消える。
コムイはそんなの様子を見てただひたすらに抱き締めた。

は前へ進めている。それは誰の目から見ても明らかだ。
それでも過去が重くの心の中を支配している。
が悩むのは2つの点。
過去を振り切れない自分と、イノセンスの成長が遅いという事。
過去は決して消えない傷跡を心に残す。
その傷跡が深ければ深いほど、その傷を消す事は難しい。
けれどは必死に過去から未来へと目を向けている。
笑う事が多くなったのがその証拠でもあるのだ。
そしてもう一つ。イノセンスの成長。
こればかりは周りが手を尽くす事も助言する事もできない。
まさに己との戦いだとは思う。
しかしのイノセンスの成長は確かに遅かった。
2つで1つのイノセンス。シンクロ率は67%。
このシンクロ率は2つ合わせて割り出したもので、つまり単体で見た場合その同調は極めて低い状況とも言える。
このシンクロ率の低さがの体力を奪う原因ともなっているのだ。



「(神の加護が、に降り注がんことを…)」

願いを込めて、コムイは泣き止むようにの体を抱き締めた。



  



泣き虫ヒロインでごめんなさい。
でも優しくされると涙が出ちゃいます(笑)
いつかちゃんと、コムイさんの前でも泣かないで頑張れる女の子にしたいですね。
でもそれはそれで、コムイさんも寂しくなっちゃうような気もしますが。

2008/11/21