あなたが見る夢はいったい何色なのだろう
その色の中に わたしも入っているといいのにな
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「ラビ、誰も入ってこないように見張っててよ」
「ヘーイ」
遠い意識の向こうで、聞いたことのある声がした。
もう一つ後から聞こえた声は聞き覚えの無いものだったけれど、誰だったのだろうか。
薄ぼんやりと目の前に広がった景色に数回瞬きを繰り返す。
「……」
「あれ?」
ようやく戻ってきた視界が捉えた先に、見てはいけないものを見つけてしまった。
「!!」
「や、目が覚めちゃったかい?」
「コムイさん!?え?ここどこ!?」
「ここ?病院だよ」
コムイは残念な様子で構えていたドリルを床に下ろし、それを見たアレンはようやくホッと一息つく。
椅子に座ってアレンを見やると、穏やかな表情で口を開いた。
「待ちの外で待機してた探索部隊から「街が正常化した」との連絡を受けたんだ。任務遂行、ご苦労だったね」
「街が…!?」
その言葉に横になっていたアレンはハッとして起き上がった。
あの後から今まで記憶がまったくない。
「ミス・ミランダもさっきまでここにいたんだけど、スレ違っちゃったね」
「てかコムイさんは何でここに…」
「もちろんアレンくんを修理しに!」
「……」
マジで?と顔を青褪めさせたアレンにコムイはスタンバイさせていたヘルメットを被ってウィンクしてみせる。
そんな清清しい笑顔を向けられても、あれは清清しく受け入れられるものではない。
げんなりしているアレンに苦笑したコムイは、ヘルメットを外しながら「実はね」と続けた。
「これから君達には本部に戻らずこのまま長期任務についてもらわなきゃならなくなったんだよ。詳しい話はリナリーが目覚めた時一緒にする」
「! リナリーはまだ目覚めて……!?」
「神経へのダメージだからね…でも」
「大丈夫っしょー」
コムイの言葉に続いて、先程夢現で聞いた声が聞こえてきた。
ハッとして声のするほうを振り返る。
「今ウチのジジが診てっから、すぐもとに戻るよ」
「!?」
開いた扉の縁に凭れかかっているのはクロスとは違った赤い髪に、長い首巻をしている青年。
タレ目に眼帯が特徴的で、アレンはしぱしぱと目を瞬かせた。
「ラビっす、ハジメマシテ」
「…はじめまして」
きょとんとしたまま返事を返したアレンに、ラビはにっこりと笑い返して見せた。
「そうそうアレンくん。ミス・ミランダから伝言を預かったよ」
そう言って差し出された手紙を受け取ると、「それからね」とコムイが続ける。
手紙からコムイへと視線を戻すと、コムイはアレンと目を合わせて笑った。
「シズキくんがとっても心配してたから、後で顔を出してあげるといいよ」
・
・
・
「シズキ嬢。失礼するぞ」
「あれ、ブックマン?…一人?」
部屋を訪れてきたブックマンを快く招き入れると、梓月はブックマンと行動を共にしているであろうと思われるラビの姿を探した。
ところがラビの姿は見当たらない。
ブックマンはシズキの部屋へ入ると、くるりとこちらへ振り返って言った。
「常に小僧と行動しているわけではない」
「それもそうね。でも私の部屋を訪ねてくるのはとっても珍しいわ。…何か?」
「小僧がやたらとシズキ嬢を心配するのでな。一応怪我を診ておこうと思ってな」
「私の方よりラビや神田の方が酷い気もするけど…」
「アクマの弾丸を浴びたと聞いた。その他にも鬱血痕や切り傷が目立つ」
「これくらいはいつもの…」
「ジジイの気まぐれだと思ってくれて構わん」
その言葉に目を丸くした梓月は、負けたとばかりにベッドに腰を下ろした。
目の前に立ったブックマンは、梓月の腕を捲くると診察を始める。
「ミランダには会ったか?」
「えぇ。最初ちょっとビクビクしてたけど、少し話してたら直ぐ慣れてくれたみたい。おっとりとした素敵な女性だわ」
本人にそう言ったらもっと焦っていたけれど。
カラカラと笑った梓月にブックマンは「そうか」と短い相槌を返しながら手は止めない。
そんな様子をしばらく見ながら、今度は梓月が口を開いた。
「…アレンの様子はどうですか」
「先程目を覚ました。シズキ嬢を診終った後に診ることになっている」
「今はラビと?」
「そうだ」
よし、と背中を叩かれて梓月は緩めていた服をきっちりと着直した。
襟元を調えると、ブックマンは既に扉に向かっている。
「小僧の体は任せておけ。それよりも、室長をみてやって欲しい」
「…わかった」
◇
「コムイさーん」
リナリーの部屋にいると言うので来てみたが返事は無い。
ノックを数回入れてからドアを開けると、リナリーのベッドと、その周りに積み重なる書類の山が見えた。
これでは司令室とまったく変わりないではないか。
ゆっくりしている場合ではないと分かっているのだが、せめてこういう場所では仕事から解放されてもいいのではないかと思ってしまう。
足の踏み場も無い部屋を見渡してから、リナリーのベッドの側で蹲るようにして眠るコムイを見つける。
どんなに仕事を溜め込んでも妹の為に無理をしてでも駆けつけるコムイ。
(勿論本来の目的は違うけれど、きっとその気持ちも事実だろう)
ツキンと胸が痛むと同時に温かいものを感じる。
梓月はフゥと息を吐き出すと、少し片付けるかとまず足元にある書類をつまみ上げるのだった。
あとがき
2009/06/01