「………」

はムスッとしたまま2階から1階のカウンターを見下ろしていた。
手摺りに腕を乗せ、その上に顎を乗せて不貞腐れたような顔をしている。

その目線の先には、我らがお頭、四皇に名を連ねる赤髪のシャンクスがいて。
そんなシャンクスの両脇には、胸元が大きく開いたオフショルダーのドレスを着たお姉さんが、
真っ赤なルージュを引いた唇をシャンクスに近づけて笑っていた。






 空くことのない恋心








上陸した先、たまたまクルーが入った酒場。
色取り取りの派手なドレスを着込んだ女性達が、あっという間にクルーを奪うように寄り添った。
そんな中でも、色んな意味で目立つシャンクスの周りには幾人もの女性が群がって。
ふと傍らに居たを横目で見下ろすと、フン、と鼻で笑った。

そりゃ、上陸したばっかりで、格好もいつも通りラフな服装で。
最低限のお洒落には気を使っているつもりだけど、それを商売にしている花形には敵わなくて。
入店早々、は一人ぽつんと投げ出されてしまった。

別にそれはいつもの光景。
いくらシャンクスの彼女というポジションを手に入れても。
シャンクスの、海賊の自由を奪う事は何にも出来ないことだ。
彼女達も仕事の一環であるし、シャンクスだって社交辞令。

分かっている事なのに。


「なによ、四皇が鼻の下伸ばしちゃって。聞いて呆れるわ」
「随分と荒れてるな」
「ベン…」

ぽん、と頭に乗った重みに顔を上げれば、わざわざ2階まで上がってきてくれた副船長、ベン・ベックマンがいた。
後ろ向きに手摺りへ寄り掛かると、横目で階下を見下ろす。


「本当にだらしねェ面してやがるぜ、お頭」
「まったくだわ。あんなのただの酔っ払いオヤジじゃない」
「おいおい、くれぐれも本人には言ってくれるなよ?後が面倒なんだ」

に無視された。に怒られた。
おれはアンタの親父か、と呆れるほどに一々相談しにくるシャンクス。
そんなへこたれたシャンクスを慰め、背中を押すのはいつもベックマンの仕事だった。
船内の誰しもがそんなお頭の情けない姿を知っており、勿論それはの耳にも届いている。


「自業自得よ。シャンクスが悪いんだもの」
「それは分かるがな…お頭はガキなんだ。察してやってくれ」
「うわ、自分の船長に向かってガキだって!」
「それこそ自業自得だろう。誰もがそう思ってるさ」

言いながら、ベックマンは持っていたお酒を呷る。
横目にそれを見ながらも、はまた1階のカウンターで馬鹿騒ぎをしているシャンクスを見下ろした。
こういう騒がしさがあるからこその海賊。
お酒を浴びるように飲むのも、その腕の中に女を侍らせるのも。
それも海賊としての嗜みで、楽しみの一つなのだろう。


「そんなに気になるならお頭の所へ行けばいい」

見かねたベックマンがグラスから口を離して笑った。


「やだよ。そこまで拘束するつもりはない」
「お前はお頭の女だろう?遠慮する事はないと思うがな」
「…だからって四六時中一緒にいなくちゃいけない訳じゃないもの。シャンクスのしたいようにすればいい」
「なら、どうしてそんなに不貞腐れてるんだ」
「別に…」

確かに、言っている事とやっている事がバラバラだと思った。
シャンクスが何をやってもいいと許容しているにも関わらず、ああいうのを見るのは面白くない。
これじゃあまるで子供だ。


「どうして私あんなの好きになったんだろう」
「さァな。おれ達も知りたいくらいさ」
「ベンを好きになってたら、きっとこんな苦労もなかったのになー」
「嬉しい申し出だが、お頭にバレるとまた五月蝿い」

はくるりと体を反転させるとベックマンの腕に寄り掛かった。
身長が高いベックマンの肩には生憎だが差がありすぎて届かない。


「でも私、昔ベンの事好きだったんだよ」
「それは初耳だな」
「夜、ベンが航海当直ワッチの時にさ、煙草の煙を燻らせながら座ってる後姿がカッコ良くって。ドキっとした」

そう言って笑ったに、ベックマンは持っていたグラスを下ろすと、空いた片手での髪先を掬い上げる。
一度に目線を合わせてから瞼を落とすと、そっとその髪へ口付けを落とした。


「光栄、だが…」
「そこまでにして貰おうか、ベン」

ベックマンの後ろに立ったのは、先程まで下で馬鹿騒ぎをしていた赤髪のシャンクス本人で。
ベックマンも初めから気づいていたのか、すぐさまの髪から手を離すとシャンクスと向かい合った。


「いい加減、アンタの尻拭いをするおれの身にもなってくれ」
「そりゃ悪ィな。だが、良い思いはしたろ?」
「四皇の嫉妬は怖いからな」

ベックマンはシャンクスの肩にポンと手を乗せると、グラスを揺らして下へ降りていく。
変わりにの前に立ったのはシャンクスだった。


、お前何ベンを口説いてるんだ」
「口説いてませんー。シャンクスこそ、いいの?お姉さん達待ってるよ」

カウンターで別のクルーを相手しながらも、チラチラとこちらを見上げてくる女性達。
シャンクスとわざと目を合わせないように顔を逸らしただったが、シャンクスの手がの顎へ掛かった。
くい、と容易く持ち上げられて、目の前にシャンクスの顔が迫る。
あれほどお酒を飲んでいたにも関わらず、シャンクスの頬は赤くなっていない。
酔っていたはずなのに、そんな風を見せなかった。


「何だ、嫉妬してくれてるのか?」
「違う。あんなの嫉妬の内に入らない」
「ならなんで拗ねてんだ」
「拗ねてないってば。いいのよ?別に私に構わなくたって。お酒を浴びるほど飲んでもいいし、女の人と楽しそうに喋ったって、キスしたって、何したって…」

だんだんと声が小さくなった。
別にいいと、思っていたのに。
キスだって社交辞令。別の女性の体を求めるのだって、男の人なら普通の事。

だってシャンクスは大人で。
経験だって豊富で。
子供っぽい自分より、経験が少ない自分より。
時々他の人の体温が恋しくなったって。
平気だと、思っていたのに。


「シャンクスの、ばか」

どうして涙が零れるのだろう。
どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。
それはきっと、真っ直ぐにこっちを見るあなたが。
真剣な眼差しで、笑いもせずにこんな子供じみた事を言う私を。
ただ見守ってくれるから。


「そういう事は一人で溜め込むな」
「っ、」

頭の後ろに回された手が、をシャンクスの胸の中へと導いた。
白いくたびれたシャツにおでこをぶつけて、はスンと鼻を啜った。
お酒と、微かな香水と、汗と、太陽と、海の匂いと。
そしてシャンクス自身の匂いに、はきゅ、とシャンクスのシャツを握り締める。


「もっと我儘言ってくれよ。おれ達は付き合ってるんだ。当然だろう?」
「しゃん、」
「ちょっと調子に乗ったおれも悪いが、嫌なら嫌って言って良いんだ」
「っ、うん…」
「そういう可愛い我儘を言えるのは、世界でお前だけなんだぞ」

顔を覗き込まれて、シャンクスは世界一の笑顔で笑った。
シャンクスの笑顔は不思議だ。
誰しもを笑顔に変える力を持っている。
さっきまでの涙が引っ込んで、も困ったように笑ってみせる。
それを見たシャンクスもまた、嬉しそうに微笑んだ。


「よし。じゃあ、」
「え、ちょ、」

ん、と目を閉じて顔を近づけるシャンクスには慌てふためきシャンクスの肩を押し返した。
何だよ、と少し不機嫌そうに目を開けたシャンクスに、がえ?と首を傾げる。


「何するの…?」
「そりゃお前、仲直りの後と言ったら"する事"は一つだろうが」
「や…別に仲直りとかそういう事は…」
「嫌か?」

今度はがう、と言葉を詰まらせた。
まるでそうする事が当然だと言いた気なシャンクスを見て、どうしようか視線を彷徨わせる。


?」
「わ、分かったよぅ」

問い掛けられ、は覚悟を決めたようにシャンクスを上目遣いに見上げる。
それを確認したシャンクスの手が頬に触れ、ゆっくりと腰を折り曲げた。
手持ち無沙汰になったの指先がシャンクスのマントを摘まみ、シャンクスに合わせて目を閉じていく。


「好きだ。誰よりも愛してる」
「ん、」

答える間もなく重なった唇。
一瞬感じたお酒の匂い。
重なっただけの唇は直ぐに離れたが、シャンクスが顔を離す気配はない。


「抜けるか…」
「駄目でしょ、お頭がそんなんじゃ」
「だがなぁ…」

まだし足りない、と再びの唇を奪ったシャンクス。
ツ、との唇を舌先で煽り、上下の唇で挟んでみたりする。


「っ、だめ、だってば…」
「嫌なのか…?」

またそんな目で見下ろしてくるシャンクスに、の心が揺れ動く。
しかし、そっと胸を押したはシャンクスから離れた。
なんとも情けない顔をするお頭に、は呆れて溜め息が零れる。


「久々の上陸なんだから、こういう事をちゃんとするのも大切だよ」
「………」
「ね」
「まぁ…そうだな」

渋々、という形であるが折れてくれたシャンクスにも安堵の笑みが漏れる。
しかしそのまま離れようとしたの腰を捕まえたシャンクスは、別の笑みを浮かべていた。
ニッと笑ったその笑みは、決して爽やかなものではなく。


「じゃあもう少しだけ、ここでお前と愉しむさ」
「っ!!」

壁際にを押しやったシャンクスは、そのままへと再び唇を重ねた。





つー訳で浮気してみました(笑)
初シャンクスです。っていうかいいですか。赤髪海賊団ってどんなのですか←。
呼び方とか合ってるのか、口調も合ってるのか、色々不安でならないんですが。
ちょっとベックマンを暴走させ過ぎました(笑)
シャンクスは惚れた女にはとことん甘い気がします。でも無意識に翻弄しちゃってればいいと思う。

2010/04/16






「あーあー。お頭ってばあんな所で…。他の女が睨んでるぜ」
「ところで、の機嫌は直りそうかー?」
「いや…どうだかな」
「あの様子じゃもうしばらくは不機嫌かもな」
「逆に良くなるんじゃないか?」
「そりゃお頭が、だろ」

ヤソップ、ルウ、ベックマンの3人が、そんな2人を酒の肴にしていた。