キッド海賊団との一悶着を終えたは、人の合間を抜けてローの前に立った。
それを見上げたローは、少し不機嫌そうな顔をしている。


「遅いぞ」
「だって色んな人が絡んでくるんですもん。きっとキャプテンの日頃の行いが悪い所為ですね」
「フ、そりゃ褒め言葉だな」

腕を広げて座っているローを気にした風もなく、はローの隣に座り込んだ。
ローも特に咎める事もなく、の髪が腕に触れても何も言わなかった。
これがローとの距離であり、そこのポジションは例外を除いて以外が占める事はない。
まるで腕に抱き込むような、けれどその腕を肩に回す事はなく。
その微妙な距離感が、クルーをヤキモキとさせている事に当人たちはまったく気づいていなかった。


「それにしてもお前、さっき能力使ったろ?」
「だってあの人キャプテンを馬鹿にしたんだもん。当然でしょ」

後ろから顔を覗かせたシャチに、はチラリと後ろを振り返ってキッドを見た。
今はオークションに集中しているのかこちらに気づいた様子はないようだ。


「能力は使うなと、あれほど言ったはずだがな」
「でもキャプテン、ここで私が普通に相手したら確実に騒動になりますけど」
「無闇に能力を人前で晒すなと言ってる」
「はーい。今度から気をつけます」

これ以上の口論は、今までの経験からして無駄に口答えするのは良くないパターンだ。
本当に注意する気があるのかないのか。
視線を逸らしたの空返事に、ローはが隣にいる事への安堵か、はたまた呆れなのか、小さく息を吐き出した。


がちゃり、という扉が開かれる音を聞いて、は退屈していたオークションから顔を上げた。
扉の前に立っているのは、天竜人で、どうやら彼もオークションの一お客様らしい。
鎖に繋がれた女性を数人とその後ろには鎧を着た兵士、そして傍らにボディーガードなのか黒づくめの男が控えている。


「これはチャルロス聖っ!!」
「早く席に案内するえ」

最悪だ、とが顔を背けると、ローがこちらを見てニヤリと笑った。
その表情に含むものを感じたは「何ですか」と不貞腐れる。


「随分と不機嫌だな」
「キャプテンはこんな所に私を連れてきて、ご機嫌を取ろうとしたんですか?」
「フフ、お前の百面相くらいなら見れるからな」
「趣味が悪いです。私が人身売買を一番嫌っている事、キャプテンなら分かってるくせに」

はふい、とローから目線を逸らした。
その横顔は面白くないと言った様子で、横目でそれを見ていたローはくつくつと声を抑えて笑う。

悪趣味な人だ。と、は目を閉じた。
は人身売買、特に奴隷の類を一番嫌っている。
天竜人を含めたオークションを楽しむ一行と違い、一般の人々なら当然嫌悪するものだが、にはもっと別の理由があった。
ぎり、と手を強く握りしめたのが分かったのか、ローがの方へ伸ばしていた腕をの肩に掛けて引き寄せた。
ビックリして顔を上げると、ローは顔を前に向けたまま横目でを見下ろす。


「やめておけ。手当てをするのはおれだ。面倒を増やすな」
「こんな所、空気が悪くて吐き気がします」
「随分と汚い言葉だな」
「キャプテン仕込みですから」

引き寄せられた分、腕を突っ張って再び距離を取った。
ローもそれ以上引きとめるつもりもなかったのか、すんなりと腕を元の背凭れに戻すと目線を舞台へ向ける。
そんな時だった。

壇上に上がったラキューバという男がよろめき、会場から悲鳴が上がった。
見れば男は白眼を剥いて口から血を流している。


「フフ、舌を噛み切ったか。懸命だな」

死を楽しむかのようなローの口調。
顔色一つ変えずに、ただニヤリと口角を持ち上げて笑う。
悪趣味だと分かっていながらも、これが自分の乗る船のキャプテン、死の外科医トラファルガー・ローであると自覚する。


《というわけでNo.16 海賊ラキューバは緊張屋で鼻血を吹いて倒れてしまった為 ご紹介はまた後日という事にっ!!》

後日などないというのに、実態を隠すかのように事実を隠蔽した司会者に、は深く息をついて背凭れに寄り掛かった。
イライラする。早くこの場所から出たい。
そんな心境が表れていたのか、の指先が椅子の上でトントンと短いリズムを刻む。


「出て行ってもいいんだぜ?」
「嫌ですよ。ここで離れてキャプテンが何か問題起こしたら面倒ですもん」
「ほォ、お前よりおれの方がトラブルメーカーだと言いたいのか」
「事実でしょ」

《これからご紹介させて頂きます商品は、こんなトラブル一瞬で吹き飛ばしてしまう程の〜〜ォ超〜〜オ目玉商品っ!!!》

とローの会話を打ち破ったのは、司会者の会場を突き破るほどの声だった。
会場は勿論、とローの目線もそちらへ吸い寄せられる。


《ご覧下さいこのシルエット!!探し求めておられる方も多いハズ!!》

パッと壇上の奥から光が射し、カーテンに隠されたシルエットが浮かび上がる。
巨大な水槽と思わしき中でたゆたうのは、人の姿に下半身が魚を思わせる形になっている何か。
それが何かなど、この会場にいる人々には容易く想像できてしまうもので。






 人は愚かな夢を見る








《魚人島からやって来た!!!人魚のォケイミー〜〜!!!》

マイクを通した司会者の言葉と共に取り払われたカーテン。
その向こう側に現れたのは、見紛う事なき"人魚"と呼ばれる種族の女の子だった。
ドッと会場が沸きあがり、拍手やら歓声やらで喧騒に包まれ、一瞬にして先程までの剣呑とした雰囲気は一変した。


それは未来がない、ということ





ヒロインの口調がキャプテンに対してやたら好戦的というか挑発的なのはイライラしているからです(苦笑)
勿論それを分かっているためローも怒ることなく笑って受け流しておりまする。まったく困った船長ですね。
キャプテンの席の隣に少しのスペースがあったのはヒロインを座らせるためだったと私は信じておr(ry

2010/04/14