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ローの機嫌は、悪くともそれは中々表情に出ることはない。 だがしかし、この滲み出る不機嫌さはどうにも、長年一緒に連れ添ったクルーには分かってしまうものなのだろう。 『船長、機嫌悪くないか…?』 『に連絡を入れてから30分は経ったからな…』 『アイ〜…何してるんだろう…』 肘を背凭れに立てたまま片目でオークションをなんとなしに眺めるロー。 その横顔は楽しいとも不愉快だとも取れないが、ただの無表情だからこそ静かなる苛立ちを思わせた。 普段、こういう時ローの気を鎮めるのは玩具にされるで。 本人曰く、からかうのが何にも勝る楽事、らしい。 そんなには連絡を入れておよそ30分ほどが経過。 元より、上陸してから側にがいない事がローの苛立ちの原因だろう。 内包する狂気の行方は「…ふぅ」 はようやく見えてきた会場にやっと安堵の息を吐き出した。 どうやらここに来るまでに随分と絡まれたようだ。 オークション会場の前に佇む大男が見え、はその男の前で足を止めた。 男は何も言わず無言でを見下ろし、もまた無言で男――正確には首輪を見つめる。 「天竜人に買われてしまったの…?」 「………」 「…そ」 話す事を禁じられているのか、男はただ何も言わずの目を見返した。 その雰囲気から何となく意図を察したのか、は一人で納得すると会場の扉を視界に入れる。 「嫌な所、本当に」 奴隷なんて、という言葉を飲み込んでは一段一段階段を上った。 最後に振り返って見下ろした男は、未だを見つめている。 「あなた、いい目をしてるね」 天竜人に飼われていようとも。 世の条理でその巨体を折り曲げ頭を下げなくてはならなくとも。 男の目は輝きは失っていなかった。まだ、死んでいない目だ。 はそれ以上口を開くことはなく、会場の扉をグッと押し込んだ。 内側に開く扉からは、司会者の声が響いてくる。 薄暗い屋内に足を一歩踏み入れた所で、はぴくりと何かに反応して足を止めた。 視線を感じた先に目を向ければ、入り口真横のカーテン脇に見知った顔ぶれを見つけた。 と言ってもお互い面識がある訳ではない。彼らを見たのは、手配書の中だけだ。 「ハートの海賊団、ラピス=ラズリか」 「これはこれは。キッド海賊団、"キャプテン"キッド」 「ほぅ、おれを知ってるのか」 「ここに上陸してる たった3歩の距離。 お互いに睨み合った状態で、その場所の空気は張り詰めていた。 ふと、僅かな音を聞き取ってが腰元を見下ろす。 自分の武器であるロッドが微かな音を立てて震えていた。 腿に挿している愛用の銃もカタカタと音を立てていて、は不意にそれへ手を伸ばそうとする。 「っ!?」 「おっと、暴れるなよ」 強い、まるで引力のようなもので引き寄せられ、の体はあっという間にキッドの腕の中へ落ちた。 体当たりするような形で抱きとめられたは、慌てて腕を持ち上げてキッドと体を離そうとする。 ところがキッドはまるで力など入れてないはずなのに、の体はキッドから離れる事が出来なかった。 正確には腰元のロッドと足に取り付けられた銃が、まるで磁石でくっついているかのようにキッドに引き寄せられているのだ。 「…なんのつもり?」 「リストで見るよりいい女じゃねェか」 「初対面で失礼な人」 顎先を掬い上げたキッドは、じっとの顔を観察した。 は強くキッドを睨み上げて些細な抵抗をする。 睨まれたキッドはまるで今の状況を楽しむかのように「威勢がいいな」とニヤッと笑ってみせた。 「政府はお前に一体何を見ているんだか」 「お生憎様、ALIVE ONLYの理由だったら話さないわよ」 「ほお、アイツにでも口止めさせられてるのか?」 アイツ、と視線を投げかけたのはローで。 とっくにの気配を察知していたローはずっとキッドを睨んだままだった。 キッドの視線にますます睨みを利かせたローを見て、はキッドの胸元を押し返した。 「気も強いな」 「…あなたの所の船長、ちょっと躾がなってないんじゃない?」 「悪いが船長の尻拭いはしても、躾は範疇外だ」 密着したキッドから距離を取り、その後ろに控えていたキラーに文句をぶつけてみたが仮面の下に隠れた表情は崩れなかった。 尤も、たとえ彼が表情を崩したとしても仮面の下では確認のしようもないが。 「流石トラファルガーの女だな。態度も悪ィ」 「残念でした。キャプテンに口説かれた覚えなんてないわよ」 「『ツクヨミヒメ』は貞淑で通ってるってか?それともアイツが無能か、どっちかか」 「……、」 ぴく、との指先が僅かに動いた。 それに気づかないキッドはニヤニヤとした笑みのままを見下ろしている。 の口が、ゆっくりと何かを唱えた。 「absolute」 「っ!?」 キッドの体が一瞬にして強張る。 傍らでそれを見ていたキラー達も、キッドの異変に気づいたのか表情を険しくしてを警戒した。 一方、はゆっくりと顔を上げると肩に乗っていたキッドの手を取って引き離す。 目を見開いたままのキッドは、の瞳を目に留めて更に瞠目した。 片方の瞳の色が、深い瑠璃色へと変わっている キッドがごくりと唾を嚥下した直後。 「re;spell」 「…は、」 息苦しかった吐息が短く吐き出され、キッドはを呆然と見つめた。 今、一体、我が身に何が起こったのか。 指先に神経を集中させて手を動かしてみるが、別に何か異常があった訳ではなさそうだった。 「ふー…」と長く息を吐き出したは、ゆっくりと落とした瞼を持ち上げてキッドと対峙し合う。 キッドが見たの瞳は、最初に見た時と同じ色に戻っていた。 「あんまりキャプテンの事悪く言うようだと、ハートの海賊団の誇りを掛けて私が出るわよ」 静かにそう告げたはフィ、と顔を背けると階段を下りて仲間の、否、ローの元へと向かう。 その背中を見送りながら、キッドは滲んだ汗を拭う中、こみ上げる笑みを隠さなかった。 正直ヒロインの能力はどんな風にしようとかまだ全然考えてない段階でこんな話を書いてしまったんですけども。 今回の特徴としては、「瑠璃色の瞳」「言葉」が大きな能力と言えましょうか。 瑠璃色はラピスラズリの事です。ヒロインの名前にもなってるラピスラズリの能力ですけども。 もうちょっと悶々と考えて下さい(笑) 2010/04/14 |