「見えてきたぞ!シャボンディ諸島だ!」

その言葉に、部屋で本を読んでいたは本を放り出し、勢い良くドアを開け放った。
目の前に見えてきたシャボンディ諸島に、目の色を輝かせて甲板まで走る。


「うわー!うわーっ!本当にシャボン玉が飛んでる!凄い!!」

甲板の端までくると、欄干を乗り越えそうなほど身を乗り出してシャボンに手を伸ばした。
そんなを呆れたように見つめるクルー、そして。


「はしゃぎすぎて落ちるなよ、
「ムッ、はしゃいでないですし、落ちません!」

フフ、と笑いながら隣に並ぶローは、それでも嬉しそうにしているを横目に口を釣り上げた。
一応心配だから隣に立っているという事は、ロー本人にしか分からない事だ。


「全員、上陸準備だ!」

ローの掛け声に答えるような唸る船員の声に活気づき、も笑顔のまま接岸準備に加わった。









「じゃあ私ちょっと先に行ってくるね」

GRと呼ばれる船着き場に船を停泊させると、は早速数点の荷物を肩に掛けて船を下りようとする。


「え、はキャプテン達と一緒に行かないの…?」
「ちょっと買い物がしたくって。女の子の買い物に付き合っても楽しくないでしょ?大丈夫よ、荷物は宅配もしてくれるって言うし」

出掛けようとしたの背中に声を掛けたのはベポだった。
しゅんと耳を垂れ下げて名残惜しそうにを見つめている。

は申し訳なさそうに苦笑してから、隣に立っているペンギンへと視線を送る。
一部始終を見ていたペンギンは「はぁ」と溜め息を吐いてベポの背中をポンと叩いた。


なら大丈夫だろう。後で合流すればいいだけだ」
「そうそう。小電伝虫持っていくから、後で連絡ちょうだい」

腕に小電伝虫を取り付けてみせると、ベポは「分かった」ともう一つの小電伝虫を受け取って大事そうに手にとった。


「それじゃあキャプテンによろしく言っておいてね〜」

そう言葉を残し笑顔で手を振って樹海の奥へと消えていったを、ベポとペンギンは複雑な気持ちで見送っていた。
重苦しい溜め息が零れ落ち、目の前で揺れていたシャボン玉が風に乗って流れる。


「おれ、キャプテンに怒られるかな…」
「船長の機嫌は確実に悪くなるだろうな」

そんな2人の呟きは、残念ながらには届かなかった。









「ふんふふ〜ん♪」

無法地帯とも呼べる人気のないヤルキマン・マングローブの森を、は鼻歌を歌いながら歩いていた。
手には触れても割れないシャボン玉を弄び、楽しそうにしている。

しかしその背後には人が数名倒れていた。
息はあるようだが、気を失っているのかピクリとも動かない。
それは今し方襲ってきたと思われる賞金稼ぎか人攫い屋か、その素性は知れた事ではないが、
の身柄を狙ってきた者達だった。

あまり騒ぎは起こすな、が口癖の船長の言葉を思い出し、は穏便に事を運ぼうとした。
けれど相手がそれを聞き入れずに刃を向けて来たのだ。
不可抗力だとばかりにも応戦し、この有り様になったという訳だ。


「さて、ショッピングモールはー……」

ようやく見えてきた人通りがある場所で、はふと、その歩みを止めた。








「あァ゛?」

船を下りて直ぐに背後から掛けられた言葉に、ローは振り返りざまにその人物を睨みつけた。
ちなみに、ひぃぃ、と間抜けな声を上げるシャチはまったくの無関係だ。


「だから、が先に降りて買い物に行きました」
「何故止めなかった」
「止めたんだけど…女の子の買い物だからって…」

シャチの手前に立つのはペンギンとベポだった。
ローからの鋭い視線に顔を顰めながらも、ペンギンは預かった言伝を告げるべき相手に伝える。
ペンギンの言葉に付け加えるよう理由を告げたベポは、ビクビクとその大きな体をペンギンの後ろへ隠した。


「ったくあの馬鹿は。後で仕置きだな」
「(アイ〜…やっぱりキャプテン怒ってる…!)」
「(こればっかりはおれ達には無理だな。頑張れ)」

ボソっとローの口から落とされた言葉は、響きとしては可愛いものだが、相手はあのローなのであって。
同情したベポとペンギンはローの眼光から解放されると、重苦しく息を吐きだした。
行くぞ、と一声かけて歩きだしたローの背中を追うように、ペンギンとベポ、シャチが歩き出す。
向かう先が何処なのか、それはローにしか分からない事だった。








「頼むよ!!!おい!!頼んでんだおれァ!!!」

そんな声が聞こえてきて、は思わず歩みを止めた。
目の前の人だかりの向こうで、体が半分ほど突き出るほど大きな男が大声を上げて泣き叫んでいる。
確かあの男はデビル・ディアスという海賊団を持つ男ではなかっただろうか。
そんな事を考えながら視力の良いが捉えたのは、男の首に付けられている太くて頑丈な首輪だった。


「故郷に嫁と息子がいるんだ!!! 帰りてェ…なァ頼む。手ェ貸してくれ!!」

手で弄んでいたシャボンがいつの間にかの手を離れ頭上高く舞い上がって行った。
しかしがそれに気付く事はない。
その目はじっと、人々に手を伸ばし助けを乞う男を捉えている。


「この首輪 これさえなきゃおれァ」

警鐘のような電子音が響き、男の目に大粒の涙が溜まった。
その直後―――男の首輪が大きな爆音を伴って爆発した。

誰かの悲鳴が響き渡り、辺りが騒然となる。
の真横を幾人もの人が転がるようにして走って逃げる。
それを横目で見送りながらも、はただもうもうと煙が立ち上る中で膝を付く男を見つめた。

これが、奴隷の末路だった。


男が倒れたのを見ていると、奥の方から歩いてくる巨体を発見した。
その首には首輪が掛けられ、首輪は鉄の鎖に繋がれている。
一目でそれが何だか理解したは、大きな溜め息を零して踵を返す。

面倒事に巻き込まれるのは厄介だ。
仕方なく迂回路を取ると、再び無法地帯の森へと姿を消した。






 世界はいろんな匂いで満ちている










通常の短編とは違った、恐らくあんまり甘さはないであろう原作沿いです。
原作にヒロインがいたら、という設定でお楽しみ下さい。

2010/04/09