「…………」
「…………」

いま、の目の前に2人の男がいる。
顔を突き合わせて睨みあい、滲み出るような殺気が痛い。

の目の前にいるのは、の乗る船"ハートの海賊団"の船長、トラファルガー・ローと。
この島に停泊していたキッド海賊団のユースタス・"キャプテン"キッド。

そしてこの場所は、酒場の所謂VIPルーム的な場所で。
店員が奥のこの部屋を使っているとは露知らず、通してしまった為にはち合わせる形となった次第だ。


「なんでテメェがここにいる」
「それはおれが聞きてェな」
「…どうでもいいが、ここは使用中だ。出て行け」
「強い者に譲るのが世の通りだと思うが?」
「関係ねェな。酒が不味くなる。――出ろ」

ソファに堂々と腰掛けたローと、扉前から動かないキッド。
居合わせたハートの海賊団とキッド海賊団の面々も、一触即発な雰囲気だ。

こういう現場には多く出くわす事もあるし、海賊をやっている以上血が騒ぐというのも事実、だが。
流石に店内で揉め事を起こす訳にもいかないし、何より相手はローより懸賞金が上だ。
はぴりぴりとした空気の中、視線を逸らさないローの袖を引っ張る。


「きゃ、キャプテン、お、穏便に話を進めましょう?」
「おれは至って穏便だろう?やり合わずに、ここを出て行けば許してやると言ってるんだ」
「このおれが出て行く義理はないな」
「バラされたいか?ユースタス屋」

刀に手を伸ばしたローを見て、はサーっと顔を青褪めさせる。
ローの説得は無理かもしれないと、は立ち上がってキッドの前に出て行く。


「あの、今日は私達が先にここを使っているんで、今日の所は勘弁して貰えませんか?」
「なんだラピス=ラズリ、我が侭な船長の為に献身な事だな」
「……そういう言い方やめて下さいって言いました」
「…そうだなァ。譲ってやらない事もない」
「本当ですか?」

ニヤ、とキッドの口角が持ち上がった。
ローがそれに気がつき、腰を持ち上げかけた直後、キッドがの腕を取って引き寄せる。


「その代わり、」
「っ、」
「別の店でお前がおれに晩酌するなら、出て行ってやる」
「な、」

ヒュッと何かが空気を裂く音がして、それとほぼ同時にキッドの後ろに控えていたキラーが動いていた。
刀を抜いたローがキッドの首目掛けてそれを振るったが、抜刀を見てキラーが動いたという事だろう。
ガキンと刃がぶつかり合う音が直ぐ真横で聞こえて、キッドの髪が僅かな風に揺れた。


「どうも小物ってのは粋がる癖があるみてェだな」
「フフ、テメェで動かず部下に任せっきりってのも、体が鈍るんじゃないのか?」

嗚呼先程までの楽しい(?)時間は何処へやら。
結局変わらない現状に、は溜め息に似た息を吐き出す。


「その手を離せ、ユースタス屋」
「ならここを明け渡せ。望みのものを返してやる」
「…………」
「…………」

そんなんでこの頑固なキャプテンが動くものか。
何処へでも連れて行けとか言って、さっさと席に戻って再び杯を手に取るだろう。
そう思っていたは、強い力で引き寄せられた先で顔をぶつけて驚いた。


「お前ら、外に出ろ」
「え…でも、船長、」
「いいから出ろ」

シャチがうろたえた様に声を発したが、有無を言わさぬローの言葉にわたわたとしながら他のクルー共々部屋を出て行く。
は片腕をローに掴まれたまま、その腕の中でマジマジとローを見上げた。
驚きを通り越して、天変地異でも起きたのではないかと、呆けている。


「素直じゃねェか、トラファルガー」
「興醒めだ。飲み直す気分にもならねェ」
「そりゃ悪ィな、精々楽しませてもらうぜ」

ローの隣に並んだキッドがポンとローの肩を叩いて席に座る。
それに続いてキッド海賊団のクルーが中に入り、ローの側を通る度くすりと笑う。
その視線に耐えられなかったのは、ローではなく、の方だった。


「キッド、お前ふざけんな」
「あ?」

ローの腕の中から出たが、キッドの前に立って勇む。
先程までローが飲んでいた酒の残りを、空いたグラスに注いで飲もうとする所を、が静かな怒声で割り込んだ。


「キャプテンは小物なんかじゃない」
「……」
「キャプテンは、アンタを追い越していく人だ!」
「……」
「お前なんか!」

、やめろ」
「でもキャプテンっ」

怒りが収まらないは言われっ放しが嫌なのか、まだ口を開こうとするが、後ろからローに引っ張られそのまま肩に担がれてしまった。
を追っていたキッドの視線がローと交わると、ローがニタリと笑った。


「おれ達の分だ、じゃァな」

テーブルに、袋に詰めたベリーを放り投げると、ローは暴れるを物ともせずキッドに背を向けた。
キッドの凄みが一際強くなると、ローは扉を開けて出て行く頃だった。
最後に肩越しに振り返るが、やはりその口元には笑みが浮かんでいる。


「テメェトラファルガー…」
「次会う時は、容赦なくバラすぜ」

それだけを残すと、ローは毅然とした態度のまま扉を閉めた。
残されたキッドはチッと舌打ちをすると、テーブルに残されたままのハートの海賊団の残りを振り払うように腕で全て床に落とす。


「ちょ、キッドの頭ァ…勿体ないでさぁ」
「うるせぇ!とっとと新しいものでも注文しやがれ!!」

機嫌が悪くなったキッドに、他のクルーはびくびくしながらキッドから離れる。
隣に居たキラーだけが、勇敢にも笑ってみせた。


「一本取られたな」
「ッチ、次会ったらぶちのめしてやる」
「…そんなに欲しいのか、あの女が」
「……………酒だ。酒持って来い!」

ドカリと椅子に座り込んだキッドの横顔はまだ不機嫌そうで。
その脳裏には先程のが思い浮かぶ。

ローの体裁を守ろうとした
あのまま言わせておけば、ローの体裁は守れても、女に守れたとしてプライドは守られなかっただろう。
それでもローは笑っていた。
自分が笑い者になっていたというのに、最後の最後まで笑みを崩さなかった。
まるで今の状況が楽しいとでも言うように。

結局、その後もキッドの機嫌が良くなる事はなかった。








「もーぉーっ!キャプテン!下ろしてくださいよ!!」
「今おれは機嫌が良いんだ。黙って担がれてろ」
「そんなの理由になりません!下ろしてってば!」
「随分な口が利けるようになったじゃねェか」

ローの手がするりとの足を撫でた。
びくりと体を反応させると、ローがくつくつと、楽しそうに笑う。


「キャプテンっ!!」
「おい。油断してるなよ?」
「…何がですか、」
「おれはまだまだ先へ進む。危険が付き纏うんだ、人員を失うのは惜しい」
「……そんなの、当たり前じゃないですか。キャプテンの危険を掃うのが私の仕事です」
「フフ、その言葉、忘れるんじゃねェぞ」

例え笑われようとも。
例え後ろ指さされようとも。


「せめてお姫様抱っこにして下さい!この体勢辛いです!」
「それは面倒だ。腕が疲れる」
「そ、それって暗に重いって言ってます…?」

君だけが隣に居て。
君だけが味方であれば。


、」
「あーもう…なんですか、キャプテン、私頭に血が昇りそうで意識が、」


「これからも、おれの側を離れるなよ」


「…え、いま、なんて…」
「さァな。一度しか言う気はない」
「ちょ、も、もう一回言ってください!!!」
「面倒だ」






 君のためならば、







僕は何にでもなろう





キッドを絡ませてみました。
というか、どうしてもキッドとローを対立させたいらしい(苦笑)
(実はもう1作品キッド絡みがあるんですけど 笑)
というかちょっと出し抜かれた感ありますが、今回一番言いたかったのはヒロインとローの結束力って話です。

2010/05/19