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「どうするんだ、あれは」 「とりあえず警戒を解かない事には送り届けられませんし…もう少し様子見ましょう」 日が真上に昇った頃。 リクは未だベポと戯れていた。 とはいえ、ベポの方はリクとの遊びに付きっきりなのでよれよれになっているが。 ローと並んでその様子を見ていたは考えていた。 子供は結構警戒心が強いものだ。 懐いてくれたと思っても、ふとした瞬間にまたむくれてしまう。 実は先程船から下ろし、街まで一緒に行こうと誘ったのだが、の手とベポのズボンの裾を握り嫌々と首を振られてしまったのだ。 今にも泣きそうになったリクにクルーはまたしても慌てふためき、船長は盛大な溜め息。 仕方なくはリクをベポに押し付けて、しばらく様子を窺っていたのだ。 「おい、そろそろ昼飯の時間だろう。あの子の分も作ったから食堂へ来い」 「わ!料理長助かるー!有難う!!」 呼んでくるね!と駆け出したの背中を見送りながら、ローは何度目になるか分からない溜め息を落とした。 「相変わらず心配性だな、船長」 「目を離すと何をしでかすか分からないからな」 「それは子供が、か?それともか?」 核心を突いたかのような料理長の言葉に、ローはフ、っと笑って見せた。 そのまま踵を返すと食堂の方へ歩いていく。 そんな船長の姿に苦笑を浮かべた料理長は、リクを抱き上げたを見て同じように食堂へ足を向けた。 迷い猫を抱く「わわ、リクくん…零れてるよっ」 「う?」 料理長が子供でも食べやすいようにと作ってくれた料理は、順調にリクの胃の中へ収まっていた。 しかし、スプーンの扱いがいまいち上手ではないのか、汚れないようにと敷いたナプキンは既に酷い有様だった。 ハラハラしながらご飯を食べていたの手は遂には止まり、リクの口周りを布巾で拭いてあげる。 「よし、リクくんおいで」 自分の食事を後回しにして、はリクを膝の上に乗せた。 寄り掛からせるようにすると、リクが食べていた料理をスプーンで掬って小さな口に運んでやる。 「おいし?」 「うんっ!」 そっか、と笑ったは「あー」と口を開けるそこに再びスプーンを近づけた。 しばらくそんなやり取りを繰り返していただったが、不意に集まる視線に顔を上げた。 すると食堂に集まっていたクルーが、何やら微笑ましい表情でこちらをじーっと見ている。 「…な、何?」 「いやー…、お前そうしてると母親みてェじゃないか!」 「おれも思った!良い母親になるんじゃないかー」 だらしない表情のままこちらを見やるクルー達の言葉に、は瞬く間に赤くなった。 嬉しいような、でも気恥ずかしいような。 どんな顔をしたらいいのか分からなくて、はカッとなって口を開く。 「っ!!そ、そういう事言ってないでさっさとご飯食べなさいよ!」 「お!照れてるぜ!!」 「可愛いぞー!」 「うっさい!!!!!!」 真っ赤になったを囃し立てる中、ガタン、と椅子を引いて立ち上がった人物がいた。 その人物は静まった食堂内を気にする事もなく出て行こうとする。 「あの、キャプテン…」 「ア?」 何故かご立腹な船長に、は思わず口を閉ざした。 緩んでいた周りの雰囲気も、ローの一睨みで一気に引き締まる。 「いえ…あの、」 「それ食わせたらさっさと船から降ろせ、いいな」 有無を言わさぬ態度でそれだけを告げると、ローは静かに食堂を出て行ってしまった。 温度の下がった食堂内で、空気を読めなかったリクだけがの服を引っ張って「あー」と再び口を開けるのだった。 ◇ お昼ご飯も終えた時分。 天気の良い甲板で、は膝にリクの頭を乗せて座っていた。 遊び疲れと、食後の倦怠感に眠たくなってしまったようだ。 降り注ぐ陽光と、そよそよと吹き抜ける温かい風に、も思わず欠伸が零れる。 「ん〜…」 「いいよ、ちょっと眠りな?」 「ぅ」 微笑んだは、膝の上でうとうとするリクの頭をそっと撫でた。 重たくなる瞼に従うよう目を閉じていくリクを見やり、ゆっくりと息を吸い込んで、甘柔らかく声を旋律に乗せる。 「おー…アイツラッキーだなぁ」 「の歌声聞くのも久しぶりだな」 決して大きな音量ではないが、の歌声は風に乗って船の中まで聞こえてきていた。 思わず作業を中断して聞き入る者が目立ち、の歌声に酔いしれる。 「……」 そこに居合わせたローも、の歌声に足を止めてそのまま甲板まで出た。 とリクの周りには、気を利かせているのかクルーの姿は一人も見当たらず、ローはその後ろ姿をしばらく眺めた後静かに近づく。 がローに気づいて歌を止めるが、ローはそのままの隣に背を向けて座ると「続けろ」と言う。 「え…」 「歌、続けてやれ」 「…あ、はい」 言われるままに再び歌い出した。 優しい歌声に、知らずローも目を閉じて聞き入る。 「月詠姫」は声を介して万事・万物を意のままに操る事ができると聞く。 この甘く響く歌声も、時に人を癒すが、時に人を殺める事だってある。 諸刃の剣のようでありながらも、それを携えるのは普通過ぎる、まだ幼さを残す女なのだ。 不思議なものだと思いながらも、ローはの奏でる旋律を感じ取る。 それは昼下がりの、ひと時の安らぎとなったのだった。 今更ーな説明ですけども、「月詠姫」は自らの声で特殊な能力を発揮します。 その為歌を歌うのはお手の物なのであります。 歌っているのは日本語でも英語でもないです。 特別な言語(古代イタリア語とか)を使った、ちょっと民族っぽい歌です(神への歌を歌う人なので)。 2010/04/30 |