「つー訳で、お前から船長に言っておいてくれよ、な!」

と、切り出されたのはつい数分前。
頼むな!と肩を少し痛いくらい叩かれて、は呆然としたままシャチを見送ってしまった。
とりあえず頭の中を整理しよう。
シャチの話はこうだ。

明日10月5日。
キャプテンの誕生日は10月6日だが、その前祝いを5日にしたいという事だった。
別にその旨を伝えてくる事事態は指して大きな問題ではない。
どちらかと言えばその祝いの席にキャプテンが出てきてくれるかという方が問題であって。


「と、とりあえず…行くか」

向かうはキャプテン、ローの部屋だ。






 ときめきに策略







「キャプテン」

コンコンと木製の扉を叩いて返事を待つ。
しかししばらく待てども中から返事が返ってくる事はなく、はひとつ首を傾げた。
ローの行動全てを把握している訳ではないが、この時間なら自室にいるか測量室にいるはずだ。
測量室はここに来る途中に覗いたがもぬけの殻であったし、書庫に時折降りている事もあるが、昨日本の入れ替えを手伝ったからそれはないだろう。


「キャプテン…あの……、あれ?」

ドアノブに手を掛けると、それは存外簡単に開いてしまった。
キィ、と蝶番が小さな音を立ててゆっくりと戸は開く。
中を覗き込んでみれば、ローの姿は簡単に見つけることが出来た。


「寝てる…」

ソファに足を投げ出して、お腹の上には読みかけの本。
帽子を目深に被り部屋の主は惰眠を貪っていた。


「キャプテン…?」

返事はない。
とりあえず何か掛ける物を、と思ったは勝手知ったるなんとやら。
ローのベッドで丸まっていたタオルケットをひとつ拝借してローに掛けようとする。
ところが。


「ひやっ!?」
「……………お前か、」

そっと近寄ったのがいけなかったのか。
ローにタオルケットを掛けようとしたその直後、腕を掴まれて身体を硬くした。
それからやや間が合って、帽子を持ち上げたローが眠たげな様子で口を開く。
焦点が合い、掴んだ手がのものだと理解したのかローは握った手の力を弱めた。


「何かあるときは声を掛けろと、言っただろうが」
「こ、声掛けました…外から。でも返事がなかったから…」
「それで身を危険に晒してるようじゃ、お前はよっぽどの間抜けだな」
「え……うわっ!?」

腕を掴んでいた手に再び力が込められると、の身体はあっさりとその力に引き寄せられた。
ボスッとその身が柔らかいものに沈む。


「警戒心がないからそうなるんだ。少しは勉強になっただろ?」
「っ」

押し倒されている、と気付いた瞬間に口付けが落ちてきた。
掠める唇は少し乾いていて、時折離れた時にするリップ音がとても生々しい。
ぬるり、と舌先が唇に当たった直後、はハッとして思いきりローの身体を押し返した。


「フフ…」
「ぅ、あの、わたし…っ」
「…随分女らしい反応が出来るようになったじゃねェか」
「ひやっ」

そう言って手が差し込まれたのはスカートの裾先。
指先が肌を撫でてスルリと太ももをなぞる。
その感触に、押し返した時に触れていた肩をぎゅっと掴むと、ローが手を止めてくつくつと笑い出した。
ああこの人は。


「キャプテン…っ!」
「なんだ?涙目で睨んでも男を煽るだけだが…誘ってたのか?」
「もう!違いますっ!からかわないでくださいよ!!」

これじゃあいくつ心臓があっても足りやしない!
がこれでもかと押し返す腕に力を込めると、ローは今度こそ身体を離してくれた。
よっぽどの反応が面白かったのか。未だに目元を手で覆って肩を揺らしている。


「で、何の用だ」
「あ、えっと」

一頻り笑って呼吸も落ち着いたのか、目元を覆っていた手を少しずらしてこちらに視線を寄こした。
はそれに居住まいを正すとローに先程シャチから伝えて欲しいと言われた事を告げる。
それを聞いているうちに、ローの表情が呆れたものになっていくのを感じながら。


「…で?」
「いや、だから今お伝えした通りで…」
「別におれは頼んじゃいないがな。祝いの席は好きじゃない」
「それでもキャプテンはこの船のキャプテンだから…皆お祝い、したいんだと思いますけど」
「ハァ…………酒、」
「え?」
「上等の酒を用意しておけと伝えろ。じゃねェと行かねェ」

そう言って立ち上がったローの横顔を見たは、苦笑しながらも「分かりました。伝えます」と答えた。
何だかんだ言っても、この人は仲間の気持ちを無駄にはしない人だから。









「一日早いッスけど、船長おめでとう御座います!」
「船長おれ、船長の事マジで尊敬してるッス!」
「っていうかおれ、もう船長の事好きすぎて…っ」
「ばっかやろう!シャレになんねェ事言ってんじゃねェよ!」

食堂内。
そこはハートの海賊団クルーが一堂に会し、飲めや騒げやの宴会場と化していた。
テーブルの上には料理が所狭しと並べられ、どのイベントよりも賑やかだった。
彼らが慕ってやまないロー本人といえば、クルーに囲まれて酒を注がれて機嫌は良さそうだ。


「ねぇ、

つんつんと肩を突かれて振り返れば、そこにはお酒で少し顔を赤くしているベポがいた。


はもう、キャプテンへのプレゼント考えた?」
「キャプテンって物にあんまり固執しないから形に残るようなプレゼントは用意してないけど…」
「じゃあなにあげるの?」
「実はまだ悩んでる。最初はケーキにしようと思ってた。あんまり甘くないやつ」
「そっか」
「ベポは?」
「おれ?おれはね」

そう言ってベポはふふふ、と笑った。
もこもこの毛が揺れる。


「ナイショ」
「えー。なにそれ!」
「でもクルー全員で考えたんだ」
「そうなの?」
「明日、楽しみにしててね?」
「楽しみにって…え、何でわたしに」
「おーいベポ!こっちきてお前も飲めよ!」
「おれもう沢山飲んでるよ」
「まだまだ行けるだろー!」

話の途中でベポは別のクルーに呼ばれて連れて行かれてしまった。
結局ベポがに向けて放った「楽しみにしててね」という言葉の真意は聞く事が出来ず。


「なんなんだろ…」

そんな疑問を残したまま、その宴は日付を越える頃まで続いたのだった。





キャプテンを好きになってもう2年が経ちました。
キャプテン愛は衰えを知らず、日々増していくばかりです(苦笑)
今年こそはキャプテンの生誕祭を祝うべく!と意気込んで数週間前から取り組んだものの、
仕事の合間だったので結局間に合いませんでした;
とりあえず後半に続きます!

2012/10/6