はいっつも船長にやられてばかりだなァ」

そう笑ったクルーの言葉に、はひくっと頬を引き攣らせた。






 孤高の勝者はただ笑みを浮かべた







3時のおやつなんてそんな可愛らしい時間帯がある訳ではないが、
一仕事終えた後というのは結構お腹が空くもので。
夕食前に少しお腹に蓄えたいと思うのはも同じ事だった。
クルーが集まる食堂に顔を出したは、皆が集まって談笑している所に割り込んだ。


「何話してんの?」
「おお、見張りは終えたのか?」
「うん。さっき交代して、お腹空いたからここに来たの」

カウンターの向こうにいる料理長に「何か頂戴!」と頼んだ後、自分の為に空けてくれた席に腰を下ろす。
彼らは軽食を摘みながらトランプをしていたようだ。


「お待ちどうさん」
「わ、今日はケーキ!?」

キッチンから出てきた料理長が目の前に置いてくれたのは、オレンジジュースと白いクリームと赤い苺のコントラストが眩しいショートケーキだった。
が目を輝かせると、料理長が口端を吊り上げて笑ってみせる。


「前にショートケーキが食べたいって言ってただろ?」
「覚えてくれてたんだ!嬉しいっ!!」
「おれたちはこんななのに、料理長もには甘いよな」
「お前らはそれで我慢してろよ。どうせ甘いモンは食わないだろ?」

ケーキを出されて喜ぶ者と言えば、幾人かの甘党とベポ、それとくらいのものだった。
それを分かっていながらも「には甘い!」と唇を尖らせるクルーに、「うるせぇぞお前ら!」なんて料理長も負けじと言い返していた。


「んーっ!おいひぃ!」
「おいおい、何だよその情けない面は!」
「海賊嘗められるぜ!」
「いいのー!今はこの至福に浸りたいのっ!」

安い至福だな、なんて笑うクルー達に、はただ満面の笑みでケーキを口に運ぶ。
一口、二口、とケーキがの口の中に収まっていく中、ふと一人のクルーがトランプから顔を上げてを見やる。


「そういや、お前この間の悪戯は成功したのか?」
「え?」
「そうそう!船長の飯にタバスコ入れるとかなんとかって」
「あー…そんな事もありましたね…」

苦い思い出だ、と思いながらも、はオレンジジュースを口に含んだ。
確かあの時はクルー達と甲板掃除を終えた後で、その時競争なんかをしたりして。
負けた人は船長に悪戯を仕掛ける、という罰ゲームが課された。
スピードでも強みを持つは自信満々だったのだが、運悪く足を滑らせて敢え無く最下位。
渋々行った悪戯というのが、その日船長の晩ご飯にタバスコを入れようという計画だった。
ところが。


「確か失敗したんだったよな?」
「あぁそうだった!怪しんだ船長が、“ROOM”を発動しての飯をすり替えたんだったな!」

はいっつも船長にやられてばかりだなァ」

その言葉にはガチ、とフォークを噛んだ。
顔を上げると、キッと彼らを睨み付ける。


「う、五月蝿いなぁ!私だって悪戯の一つや二つくらい、成功させる事だって出来るもん!」
「どうだかな。船長は一枚も二枚も上手だろ」
「キャプテンにだって完璧はないわよ!」
「なら、」

にや、と隣の男が笑う。
実践してみろよ、と呟くと同時に、食堂の扉が開き話題の渦中の人物が入ってきた。
一斉に向けられた視線にローは一瞬目を見開くが、「何だ」と短い言葉を返す。


「船長も腹ごしらえっすか?」
「まァ、そんなもんだ」
「ならこっちで一緒に食いやしょうよ!」

しばらくクルーの面々を見たローは、断る理由もなかったのかこちらに歩いてくると、の真ん前の椅子に腰を下ろした。
そこに座っていた男は予めそこにくる事が予測できていたのか、既に席をずれている。


「料理長、おれの分も頼めるか」
「何にする?」
「…そうだな、と同じものを頼む」
「船長が甘いものなんて珍しいっすね」
「そういう気分なんだよ」

からかう様なクルーの言葉も軽く交わしたローは、そこでようやくに目線を合わせた。
ローを窺っていたはかち合った視線にドキッとして、目の前のケーキに視線落とす。
フフ、と笑ったローの声が聞こえて、は知らず口を尖らせた。


「船長もやりますか?」
「いや、まだやる事があるんでな。食い終わったら部屋へ戻るさ」

トランプへの誘いを断り、目の前に置かれたケーキを綺麗に切り分けたローは優雅な手つきでケーキを口元へ運ぶ。
顔色一つ変えずにケーキを食べるローを見て、はふと彼の口端へ目を向ける。
そしてニッと笑ってみせると、持っていたフォークを下ろしてローへ手を伸ばした。
急にフォークを置いてローへ手を伸ばすに、クルー達の目線が2人へ向かう。


「キャプテン、ついてます」

腰を浮かせてローの口元に付いていたクリームを指先で掬うと、は大胆にもそのクリームを舌先で舐めた。
男を誘惑するような動作を意識したためか、クルー達が喉を鳴らす。

(私だってやればできるんだから)

そう思って、きっと同じように驚いているであろうローを見やったが、ローは相変わらず微動だにした気配はなく、ただじっとを見つめていた。
逆にそんな真っ直ぐに見つめられるというのは恥ずかしいもので、今度はがごくりと喉を鳴らし、目を瞬かせる。


「何だ。大胆だな」
「わ、私だってもう大人なんですからね!いつまでも子ども扱いしないで下さい」

まったく表情を変えなかったローに、悔しさいっぱいと言う様子ではケーキを口に放り込んだ。
どうやら今の一撃はあまりローにダメージを与えられなかったようだ。
余裕綽々な我らがキャプテンに、はがつがつとケーキを平らげていく。


「おれは部屋へ戻るぜ」
「船長、全然食ってねぇじゃないっすか」
「おれには無理だったようだな、なんせ」

そう言って立ち上がったローだったが、そのまま部屋へ戻るのだろうと思っていたはふと顔に落ちてきた影に顔を上げた。
するとすぐ目の前に迫るローの顔。
思わず硬直すると、唇ギリギリに口付けられた。
今度こそクルー達は口を開け、手に持っていたトランプがテーブルにはらりと落ちる。


「やっぱり甘ェな、こりゃ無理だ」

最後にペロリと赤い舌を覗かせたローは、そのまま屈めていた腰を起こすと自分のケーキをの前に滑らせた。
瞬きを忘れたはクルー同様間抜けにも口を半開きにしている。


「代わりにお前が食っておけ。それから、おれを試すならもっと積極的に来るんだな。受けてたってやる」

フフ、と言ういつもの笑みを残して食堂を出て行ったローに、今更意識を取り戻したは頬に熱が集まるのを感じた。
同じく呆けていたクルー達も、何故か若干頬を赤くしてわざとらしく咳払いなんてしている。


「やっぱり船長には敵いそうにないな、

その言葉には、答えることが出来なかった。





ついさっき、ケーキを食べていたんですが。口の端っこについたケーキを舐めとって思いついたネタ(笑)
指先でとってそれを舐めるっていうのもアレなんですが、ローなら、迷わずどんな時でもこうするだろうっていう願望←
やられっぱなしなヒロインちゃんw

2010/04/12