|
「おーい、、シャチ!!」 「?」 甲板の掃除を終えたシャチとに、遠くから声が掛かった。 通り過ぎようとしていた足を戻してそちらに目を向ければ、そこには何やらちょっとした人だかり。 そろりと近づいてみれば、中心に居たのは我らが船長トラファルガー・ローと、傍らでは何故か床に沈んでいるクルーがいた。 試すような仕草は、「…なに、してんの?」 「ま、負けたんだ…」 「はい?」 床にめり込むんじゃないかというほどに撃沈しているクルーに声を掛ければ、繰り返し負けたのだと言う。 一体何に?と思っていれば、ローがフフ、といつものように笑った。 「そうだな。とりあえずお前は…次の島でおれに最高の酒を持って来い」 「ち、ちなみにその金は…」 「あァ?自腹に決まってんだろうが」 「か…勘弁して下さいよぉ」 「何だ。納得いかねェならもう一度勝負といくか?」 「……っぐ、酒で、いいです」 「フフ、頼んだぜ?」 再び床に沈んだクルーはさめざめと泣きながら「くそう」と漏らした。 そこではローの前に置いてある樽に目を向けた。 樽の上に散らばっているのはトランプだ。 「何か賭けでもしてたの?」 「そうさ。で、皆このザマだ」 「珍しく船長が混じるっつーからやる気出してたんだけどなー…2回戦とも船長一人勝ちだぜ」 その言葉に、ローはフフと満足げに笑ってみせた。 負けた者達はその笑みにクッと唇を噛んで顔を伏せる。 どうやら他の者達も同じような要求をされたのだろう。 がふぅと息を吐き出すと、ローの目線がに向いた。 「お前もやるか?」 「………」 「やめとけやめとけ!どうせはルールも知らねェだろ?」 「負けを見るだけだ。日を改めた方がいいぜ?」 口々にクルーがの説得に掛かる。 しかしはその忠告も聞く気があるのかないのか。 ただローと対峙しあったまま時間が流れると、意を決したはローの前に腰を下ろした。 「おい!」 「バカヤロウ!お前分かってんのか!?相手は船長だぞ!?」 「お前じゃ敵うわけないだろ!!」 応援する声は一つもなく、ただ皆ローの前に腰を下ろしたを必死で止めに掛かった。 だがはちらりとその外野を視界に入れただけで、再びローと向かい合う。 「勝ったら何でもきいてもらえるんですね?」 「…フフ、いいぜ?おれが叶えられるものなら、何でもきいてやる」 後ろへふんぞり返っていたローが、体を前に乗り出してに顔を近づける。 とはいえ樽一つ挟んだその距離は埋まることはないが、そんな雰囲気に周囲は知らず息を飲み込んだ。 その代わり、と声を入れたのはローだ。 「お前が負けたらおれの言う事をひとつきいてもらう」 「勿論です」 「…おれが何を望むのか、きかなくていいのか?」 「そういうのは後の方が面白いでしょう?」 ニッと笑ったはやはり海賊と言うべきか。 いいだろう、とローが笑うと、はハラハラとしているクルーに賭けの内容を問う。 「今まではポーカーをしてたが…」 「じゃあ、」 「待て。、ブラックジャックならお前も知ってるだろう」 「え、あの21により近くするゲーム…?」 「そうだ。お前に合わせてそれにしてやる」 「…いいの?」 「嫌ならポーカーでも構わねェがな」 カードを持ったままは少し考え、じゃあブラックジャックで、と宣言した。 ポーカーでも良かったが、確かにルールには詳しくない。 少しでも分があるほうがいい、という事でさっそくは傍らのペンギンにカードを託した。 「7回勝負をして、より21に近い数を多くヒットさせた方を勝ちとする。それから、先にどちらかが4勝した場合はそこで終わりだ」 こくんと頷いたに対して、ローは相変わらずのポーカーフェイスで、表向きに置かれた自分のカードを見下ろした。 の前に置かれた1枚のトランプは3、ローの前には8が表を向けて置かれ、その横に裏にしたカードが配られる。 「じゃ、始めるぞ」 その言葉の後、は自分のカードを捲って一人その数字を確認する。 そこにあったのはQ。つまり合計が13という訳だ。 ローも自分の手札を横目に確認すると、直ぐに戻して樽の上で指を組む。 二人がカードを確認したのを見てから、ペンギンが更にもう1枚ずつ裏に伏せたカードを滑らせる。 それをキャッチしたは同じように数字を確認して、そして口元を緩めた。 ちらりと窺ったローの表情は相変わらず変化は見られず、の目線に気付いて顔を上げる。 目線が重なった事にが口角を持ち上げると、「スタンド」とコールを出す。 「、カードを捲ってくれ」 「うん」 言われた通り、表向きの3の隣のカードを捲り、最後のカードもひっくり反す。 そこには3、Q、6が揃っており、21に近い19だった。 がフフンと笑って見せると、ローは無言のままペラペラとトランプを反して表にする。 並んでいた数字は8、2、5で合計は15。 「まずは1勝だな」 「うんっ」 ただの1勝なのに、どうしてこの娘はこうも嬉しそうに笑うのだろう。 傍観者であるクルーは思うがの笑顔につい苦笑さえ漏れてしまう。 対して対戦相手であるローもその笑顔に絆された一人だろう。 フ、と緩めた口元は、肘をついていた手に隠されてはいたが、誰しもが笑った事に気づいていた。 その後、とんとん拍子に事は進むかと思われたが、が3勝した辺りからローの追い上げが始まった。 結果、開いてた3勝の差は見る間に縮まり、3対3の状況まで追い込まれている。 次の一戦で、勝敗が決する。 「スタンド!」 が3枚目のカードを手にした所でコールを掛けた。 にんまりと微笑むは余程その手札に自信があるのだろう。 裏にして伏せてあったカードを表に反すと、周囲のクルーから「おおお!」という歓声が湧き上がった。 並んだ数字はK、J、A。Aはこの場合手持ちが21をオーバーするため1とカウントされるため、つまり合計は21。 その数字を眺めていたローは静かに自分のカードを表に向けると、苦笑に近い笑みを漏らした。 ローのカードは2、5、6で合計は13である。 「もしかして…が勝った、のか…?」 「うぉぉぉ!!そうだ!が勝ったんだ!!」 「すげぇぞ!お前やったな!!!」 「うわ、ちょ、頭はやめて!!!!」 の勝利が確定した途端、クルーからドッと勝鬨のような声が上がる。 の側にいたものはその頭を撫で、背中を叩き、勝利を祝福している。 「負けちまいましたね、船長」 「フフ、まぁたまにはな」 「…まさかワザとなのか?」 「ディーラーはお前だったんだ、仕込めるはずもねェだろう。の運が強かった、それだけだ」 クルーに揉みくちゃにされているを視界に収めながら、ローがクツクツと笑う。 負けたというのにローの方はその打撃を微塵も感じておらず、ペンギンは小さく息を吐き出した。 確かに、いくら負けたと言えど相手はあのだ。 どんな無理難題を考えようとも、それは恐らくローにとっては痛くも痒くもないものだろう。 むしろその横顔はそれさえ楽しんでいるようにも思えた。 「、」 ローの声が歓声を上げるクルー達を割って響いた。 ピタリと口を閉ざしたクルーの間で、は「はい?」とローを見返す。 「お前の要求を呑もう。言ってみろ」 「……あー、えっと、」 その様子を見る限り、どうやら最初からローにお願いする内容を心に決めていたらしい。 周囲もどうせ可愛いお願い、それこそ「次の島で何か買って下さい」的な事だろう思っていたのだが、恥ずかしそうに頬を染めるにだんだんと真剣な表情にさえなる。 ローもその様子を感じ取ったのか、ただ黙ってが口を開くのを待っていると、はローに一度視線を投げてからぽつり、と蚊の鳴くような声で"お願い"をした。 「わ、私…」 「……」 「きゃ、キャプテンに甘えてみたい…ですっ!」 一瞬、誰しもが何を言われたのか理解していなかった。 シンと辺りは静まり返り、肘をついて余裕を持っていたローでさえその目を見開いた。 今彼女は一体何と言ったのだろうか。 その言葉を頭の中で繰り返しながら、ようやく皆の意識が浮上する。 「、!!お前何言ってんのか分かってんのか!?」 「あ、甘えてみたいってお前そりゃ…」 「いいぜ?」 「ほら見ろお前…っ、え?」 まず最初に慌てたのはローではなくクルーだった。 命知らずというよりは、その言葉はまるで恋人に言うようなもので。 ローにそのお願いをしようものなら恐らく反応は二つに一つだ。 バラバラにされるか、無言か。 どう考えてもバラされるであろう事を見越して全力でクルーが止めに掛かるが、図らずも肯定の意を返したのはロー本人。 クルーは勿論、お願いをしたでさえ目を丸める。 「つまり、お前にとびきり"甘く"すりゃァいいんだろう?」 「…私の我が侭を聞くって意味です、けど…」 「いいぜ?今日1日だけ、お前に付き合ってやる」 「ほ、本当、ですか?」 ああ、そう言ってローは椅子から立ち上がると、ニヤと微笑んだ。 コツコツと靴を鳴らしての隣に並ぶと、正気に戻そうと奮闘して肩を揺らしていたクルーの手をから離させ、そっと背中に手を回す。 そのまま輪を抜けるかのようにの背中を押すと、ローは隣で呆然としているの耳に顔をそっと寄せた。 勿論、背中に回していた手をスルリと腰に下ろす辺りは抜かりない。 「腰が砕けるくらい、甘やかしてやるよ」 その言葉はまるで別の事を言っているようで、周囲のクルーはげんなりしていたが。 ローの腕の中のは頬を薄く染めながらも、絶対ですからね!と強気である。 得てして、VSローのハラハラさせる対決はこうして幕を閉じたものの、別の問題が浮上してしまうのであった。 海賊は自由気ままなので暇な時はキャプテンもクルーの暇つぶしに付き合ってくれるといいと思う。 甘えてみたい発言なんぞをしちゃったヒロイン、さてさて、キャプテンにどう料理されるでしょうか(苦笑) 次回に続きまーす!! 2010/06/04 |