「(どうしてこんなに緊張してるんだろう…)」

はローの部屋の前まで来て入室を躊躇っていた。
いつもなら気軽に入れるこの部屋も、今日は何だか雰囲気が違うように感じてしまう。
持ってこいと言われた枕を抱き締めたまま扉を睨みつけていただったが、突如その扉がこちら側に開かれた。
目を瞠って一歩後ろへ下がると、少し不機嫌そうなローがこちらを呆れながら見下ろしている。


「人の部屋の前で何してやがる。さっさと入れ」
「あ…う、お、お邪魔します…」

おずおずとローの部屋へ足を踏み入れると、ローは何事もなかったかのように扉を閉めた。
の真横をすり抜けると、椅子に座って今まで読んでいたのであろう本を再び広げる。


「………」
「………」
「……何か言いたい事でもあるのか?」
「え、いえ…」
「ならそこに立ってるな」
「は、はい…」

確かに入口にずっと立っていても何も状況は変わらない。
はローが座る椅子の隣にある、ふかふかのソファへ腰を下ろすと、肩に掛けていたタオルで髪を拭き始める。


「(う…本当に気まずい…)」

わしゃわしゃと髪を乱雑に拭きながらも、はタオルの間からローを見やった。
椅子に座り、アームに肘をついて本を広げる。
その横顔は真剣そのもので、の手は自然に止まりローを見つめていた。


「何だ?」

の視線に気づいたのか、ローが視線だけを投げてこちらを窺った。
ぴくりと背筋を伸ばして「何でもないです」と再び手を動かしただったが、パタンという本を閉じる音に顔を上げた。


「貸せ」
「え」
「そんなんじゃ髪は乾かねェだろうが」

目の前に立ったローは、の手からタオルを奪うように手に持つと、の隣へ座った。
背を向けさせるようにすると、優しく髪を拭き始める。


「キャプテン、上手ですね」
「お前はもう少しそういう所に気を遣った方がいいな」
「ぐっ、ご、ご尤もです」
「フフ、冗談だ。そのままでも良い」

今の言葉はどういう意味だったのだろう。
訊こうにも、ローの手がとても優しくて、は嬉しいような恥ずかしいような気分になった。

どれほどそうしていたのか、いいぞ、という声が掛かって、の頭からタオルが退けられた。
有難う御座います、と後ろを振り返れば、間近にあるローの顔。
はハッとして体を後ろへ引いた。


「……寝るか」

何となく気まずい雰囲気になってローの顔を見れずにいると、ローがそう言って立ち上がった。
その背中を目で追いかけていけば、ベッドへ向かっていると分かり、は持ってきた枕をソファの端に置いて、
いそいそと寝る準備を進めようとする。
ところが。


「おい
「何ですか?」
「…何をやってるんだ」
「何って…寝るんですよね?」

ベッドに座ったローがこちらを怪訝な表情で見つめていた。
本当に何をしているのか分からないと言ったような、困惑した表情だった。
がケロリとしてそう答えると、ローの眉間に皺が寄る。


「そこで寝る気か?」
「え、だってキャプテンはベッドで寝ますよね?」
「当たり前だろ」
「なら私は、」
「お前もこっちだ」
「…へ?」

今度はが困惑したような顔をする番だった。
ピタリと動きを止めれば、ローはハァ、と息を吐いて立ち上がる。
の目の前までやって来たかと思えば、そのままを片腕で抱き上げた。


「ちょっ!?」
「奥で寝ろよ」
「わっ!!」

ドサっとベッドの上へを下ろすなり、ローは再びソファへ戻っての枕を拾い上げた。
立ち上がりかけたに枕を投げつけてベッドから降りようとするのを阻止して、ローは部屋の明かりを落とし自分もベッドへと入りこむ。


「や、あの、キャプテっ」
「安心しろ。お前相手じゃ興奮もしねェよ」
「なっ!!!そういう問題じゃなくてですね!」

それはそれで失礼だなと思いながらも、は暗がりの中、ベッドの上で起きあがった。
に背を向けて眠ろうとするローを見下ろして、は唇を尖らせる。


「何が不服なんだ」
「私はソファで寝ます」
「お前一人増えた所で然程広さは変わらねェが?」
「そ、そうじゃなくて!」
「じゃァ何だ」

薄明かりの中、ローの目が光っている。
はその先に何を続ければいいのか分からなくなって、「その…」と声が小さくなった。


「眠れないなら抱き枕になってやっても良いが?」
「そっ!?」
「それともおやすみのキスが望みか?」
「きゃぷ、」

起きあがったローはそのままを部屋の壁に押しやった。
両側に腕を立て、逃げ場を奪うようにして追いつめる。
徐々に近づくローとの距離に、は堪らずに俯いた。

静寂の中、ただは何も言えず黙っていたが、ふと、ローが身を屈めて距離を縮めた。
身を竦めて小さくなっただったが、それ以上近づく気配がない事を察して顔を上げる。


「あ、の、」
「何もしねェよ。怯えるな」
「……」

ふっ、と吐き出したローの吐息が前髪を揺らし、そのまま離れて横になってしまった。
は詰めていた息を吐き出して今度は何も言わずにローの隣に寝そべる。
壁側の方を向いてローに背中を向けたが、僅かに触れていて落ち着かなかった。


「(どうしよう、こんなにも)」

胸に秘めた気持ちが、苦しい。






 その気持ち、すべては複雑すぎて









胸に秘めた、なんて書いてますが、ヒロインはこの気持ちが何なのか実はまだ良く分かってない。
ただ胸のあたりが疼くので、きっと何かを感じているというのだけ分かっている。
ちなみに、この3日後新しいベッドを買えたヒロインはすぐさま部屋に戻りました(苦笑)
(更に追加すると、この3日のうち1日は寝ず番とかしちゃってると良い 笑)

2010/04/27