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「って、どうしてあんなにキャプテン慕ってんだろーな」 そう口にしたのは一介のクルーで。 その目線の先にはローにからかわれているのだろうが顔を赤くしながら怒鳴り返しているのが見えた。 そこにはついこの間見た面影なんて微塵もない。 隣で腕を組んでいたペンギンとシャチは、顔を見合わせて「それはな、」と口を開く。 「船長がを拾って、が船長に忠誠を誓ってるからだろ」 「え、って最初から仲間だったんじゃないのか?」 「確かに一緒にいる時間は長いがな、旗揚げした時には同船してなかったさ」 「そうなのか」 その話題に他の者も興味があるのかペンギンとシャチの周りに集まってくる。 これは勝手に話してもいいものなのかと思ったが、興味津々なクルーは続きを待っているようだった。 「この間のの剣幕、凄かったもんな」 「ありゃ鬼神だったぜー…つうか修羅だな」 どうやら思うことは皆同じのようで、やはりついこの間の戦闘時の事を思い出しているのだろう。 守りたい誰か、のためである先日、何処の馬の骨だか分からないが敵襲に遭ったハートの海賊団。 身の程を知らずとはきっとこの事だろうと誰しもが思っていた。 とはいえ、ローは戦うのも面倒なのか暢気に壁に寄り掛かって甲板で戦う者達をただ傍観していた。 傍らには刀を持たされたベポが「皆凄いねー」などと緊張感もない事を口走っていたと思う。 その目線は激戦を繰り返しているに向かうと、同じようにローもを視界に入れた。 第一線で戦っていたのはで、恐らく今相手にしているのは幹部並みの者達だったのだろう。 真っ先に女であるを狙うのは美学に反するが、はその相手を何の苦も無く相手にしていた。 相手は2人。どちらも飛び道具を扱っているようだが、近距離を得意とするには敵うはずもなかった。 あと数分もすれば膝を着くだろう事を見越して視線を逸らすと、ベポが「おれもちょっと行ってくる」と苦戦している方を指差して言った。 刀を自分の腕に抱え直したローはそのまま現状を見下ろしていたものの、ふと頭上に気配を感じてゆっくりと見上げる。 ご苦労な事に、きっとじわりじわりと距離を詰めてここまで登ってきたヤツだろう。 面倒だな、と思いながらも刀に手を掛けた時だった。 ヒュンと真横を銀の筋が通り過ぎ、頬を滑った。 見れば血のついたナイフが壁に突き刺さっており、どうやらそれは自分の頬を掠めたものらしい。 ハァ、と息を吐き出して技を発動しよう、と思った直後。 目の前の敵が地面に倒れ伏し、ナイフを投げたと思わしき人間は銃声の音と共に海に落ちた。 地面に押し付けられている敵の背中には、いつの間にここまで移動してきたのかの姿。 銃を腰に戻した後自慢の得物を敵である男から退かすと、まだ息のある男の頭を踏みつけた。 「ねぇ、キャプテンが怪我してるんだけど。あれってアンタの指示?ねえ、答えてよ」 恐らくが今踏みつけているのが敵船の船長とやらだろう。 額から血を流しながらグッとくぐもった声が漏れる。 「使うつもりなかったんだけど…いいですよね、キャプテン」 「……小物に大技とは、余裕がねェな、」 「だって――ムカつくんだもん」 スッと細められたの瞳に男が「ひぃ」と情けない声を上げた。 こうなってしまえばこの騒動もあと数分としないうちに終わるだろう。 ローは垂れてきた自分の血をピッと指先で拭うと、壁に刺さったままのナイフを引き抜いて手で弄んだ。 「 呟きと共にの足元に魔法陣が浮かび上がる。 その陣の中に一緒にいる男は更に縮み上がり、の足の下から抜け出ると船へ戻ろうとしているのか走り出した。 あっさり取り逃がしたはただ目線でその男を追うと、冷たい眼差しで標的を捉え。 「逃がさない… 「オイお前ら、呑まれたくなければ下がってろ」 新入りのクルーを含めローはそう注意を促すと、の行動を見て首を傾げる者と慌てて退避する者とに別れた。 ただの行動を知っている者達が「いいから高台へいけ!」と促す。 突如手を引いたハートの海賊団に、敵の者達は首を傾げたが、ふとその耳が何かの音を聞き取って皆そちらへ顔を向けた。 「なっ!?波だと!?」 誰が声を上げたのか分からない。 そんな声が上がるとほぼ同時に、船を飲み込まんばかりの大波がザパンと甲板を打ち付けた。 敵と思われるほとんどの者がその波に呑まれ海へと落とされていく。 最後にが目を向けたのは運良く波を逃れた先程の男。 その背中に鋭い目を向けると、は引いていく波を見つめながら口笛を鳴らす。 ヒュ、と短く鳴ったの口笛にまるで反応するかのように再び波が口を開けたかのように浮き上がった。 そして男の体を飲み込むと、は「放り捨てて」と、まるで意思を持っているかのような波にそう告げた。 「ありゃあ…どうなってんだ…?」 新入りと思わしき男があんぐりと口を開けながら事の顛末を見ていた。 ぽい、と船の外に放り出された男は、最早海の藻屑という言葉が似合いなほど情けない状態で海にダイブしてしまう。 そんな一部始終を見ていたシャチは、「驚いたろ、」と口端を持ち上げた。 サングラスの下に隠された目は、を見ているようだった。 「あれが、うちのお姫様の力な訳だ」 「一応ルーキーに名を連ねるうちの1人だからな」 「普段がへにゃっとしてるから忘れられがちだけどなー」 違いない、と笑ったペンギンに、ベポがそんな言い方しちゃ駄目だよなんて暢気に突っ込みを入れる。 がしかし、新人クルーはたった今起こった事態の把握が出来ていないのか、ぼんやりとしたまま己の武器を握っていた。 その目にはようやく怒りを収めたが写っており、に先程までの剣呑とした雰囲気はもう見られない。 今までの事が幻だったのではないかと思わせるほど、はわたわたとローの側に駆け寄っていた。 「は船長にちょっとでも傷がつくとあーなんだ。覚えておいた方がいいぞ」 「周りが見えなくなるからな。巻き込まれかねん」 「それだけキャプテンが好きなんだよ」 上手くまとめたように見えた3人の言葉だったが、結局のあの能力は一体何なのだろうか。 ローの側で落ち着かない今のからは、先程までの出来事がまるで嘘だったかのような様子で。 ハートの海賊団の船には、再びいつもの平和が戻ってきたのだった。 ヒロインが切れたら怖いよって話(苦笑) ローに一つでも傷がついたら相手は半殺しになる訳です。 能力を少しだけ出してみました。詳細はのちのち。 2010/06/03 |