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スフィアと向かい合った状態で、は努めて笑顔を作った。 「腕の具合は大丈夫ですか?」 「……えぇ、大丈夫。有難う」 スフィアも人当たりが良さそうな笑みを浮かべると、をじっと見つめた。 お互い見合う形になったが、先に動いたのはだった。 先程シャチが置いて行った食事を引き寄せる。 「お腹空いてない?良かったら食べて?」 「あ…有難う」 ちょっとお腹空いてたんだ、と笑うスフィアに、もぎこちない笑みが少しずつ解けていく。 どうぞ、とスプーンを差し出すと、布団から抜け出た彼女がスープを口に運んだ。 「あ。私って言うの。あなたは…」 「スフィアよ。宜しくね、えっと…さん」 「でいいよ。私もスフィアって呼んでもいいかな…?」 「ええ。嬉しいわ。私、あまり同世代の友達っていなくて」 彼女が笑うと、ほわりと空気が和らぐ。 女性独特の甘い雰囲気のようなものを感じて、はスフィアの食べる様子をじっと見つめていた。 その視線に気付いたのか、スフィアが照れたようにはにかんだ。 「ねぇ、さっきの人って海賊?」 「え、あ……」 そういえば、彼女が今何処にいるかの説明もしていなかった。 が海賊という言葉に過剰に反応するが、スフィアが「大丈夫だから、言って?」と優しく問い掛けた。 「あ〜…うん。あの人はトラファルガー・ローって言って、この船のキャプテン。ここはハートの海賊団の海賊船の中だよ」 「トラファルガー・ローって言うのね、あの人」 「(あれ、キャプテンちゃんと名乗ってないのかな…)」 手配書に載っているお尋ね者なだけに、迂闊に名前を出してはいけなかったかもしれない。 が眉を寄せると、スフィアはスープを食べる手を止めてをちらりと窺った。 その視線に、は首を傾げる。 「ねぇ、あなたもここの乗組員なの?」 「ま、まぁ…そうなるね」 「じゃあ、訊きたい事があるのだけど…」 スプーンを盆の上に下ろすと、スフィアはほんのりとその頬を染める。 その様子に、は何か漠然とした不安を抱いた。 ざわざわする、と思いながらもスフィアを見ていると、口元に指を添えて何かを逡巡していたスフィアがようやく視線を上げた。 「ローさんって、お付き合いしてる人は…いるかしら?」 ずくりと、心臓が嫌な音を立てた。 それは殺人の音に似ている「あ…あの、」 「昨日私を助けてくれた時にも感じていたの」 「え?」 「でも今朝もう一度彼を見て確信したわ。私…ローさんの事が好きみたい」 ぽつりと呟き、頬を染めるスフィアは所謂「恋する乙女」という顔つきになっていた。 頬を手で押さえるスフィアを余所に、はじくりと痛む胸を押さえて呆然としている。 "昨日助けてくれた"? その言葉が引っ掛かりつつも、何故か嫌な感じがする。 「ねぇ、どうなのかな…?」 「……え、あー…ど、どうなのかな、よく分からない…や」 スッと目逸らしながらはローの事を考えていた。 今までずっと一緒にいるが、ローにそのような特別な人間がいるという噂も聞いたことがなければ見たこともない。 新しい島に上陸してお酒を飲む時、その隣に女性を置く事はあるものの、それも滞在する間だけの関係だったと思う。 「(キャプテンには…特別な 自分が知らないだけで、もしかしたらそういう人がいるのかもしれない。 当然この船にだって、島に奥さんを残してきたというクルーがいるくらいだ。 ローにそういう存在があったとしてもおかしくはない。 「私、ローさんにお礼がしたいの」 「そ、そっか…」 成り行きは分からないが、どうやらスフィアは助けたのがローだと勘違いしているようだった。 がしかし、今更「あなたを助けたのは私です」と名乗るのもどうかと思い、訂正する事も出来ず、はどうしようかなーと悩んでいるスフィアを眺める。 能力者が海水に力を奪われ苦しくなるのは、こんな感じなのだろうかと、はぼんやりそんな事を考えていた。 ◇ あれからスフィアの部屋を出てしばらくすると、ローがスフィアを船から降ろせとに命じた。 怪我も大事ない上にもう目も覚めている為らしい。 確かにこれ以上スフィアを船に乗せておく義理はない。 しかしスフィアの気持ちを知っているは、少し複雑な気分だった。 ローに言われた通りスフィアに船を降りるよう伝えた。 直後押し黙ってしまったスフィアに、は他にどう言葉を掛ければいいか悩んでいた。 ところがスフィアが次に発した言葉はローに会わせて欲しいというもの。 は何となく気まずいものの、ローの部屋へとスフィアを案内する事にした。 「キャプテン、」 「入れ」 「失礼します…あの、スフィアがキャプテンとお話したいと…」 「……………通せ、」 今の盛大な間は一体何だったのか。 は自分の後ろに控えていたスフィアを部屋に通して、自分は扉付近でその様子を窺っていた。 「色々と、お世話になりました」 「ただの気紛れだ。怪我はもう大丈夫なんだろう?」 「ええ。お陰様で。あの、その事で是非、お礼をしたいのですが」 「礼を貰うような事をした覚えはない。気持ちだけ貰っておく」 「ですが私の気が済まないんですっ!」 「……おれたちは海賊だ。一般人のお前がおれ達と慣れ合うのは良くはないだろう。さっさとここを立ち去るのが無難だな」 そう言ってローは本棚に向き合い、本を読み始めてしまった。 スフィアはどうするんだろう、と思っただったが、スフィアはそのままツカツカとローの方へ向かっていった。 足音で気付いたローもスフィアへ視線を向けると、お互い見つめ合う形でスフィアが口を開く。 「お願いしますローさん、私何でもしますからっ!」 縋り付いたスフィアに、ローは眉を寄せた。 ヒロインぴーんち(笑) 次回でこの話は終わりになります! 2010/06/09 |