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「…ん、」 薬品の匂いが鼻をつき、女はゆっくりと目を開けた。 板張りの天井をぼーっと眺めていると、扉が開く音がして、思わずそちらに顔を向ける。 「目が覚めたか」 「あな、たは…」 バタンと扉を閉めたローは女の直ぐ側にある椅子に腰を下ろすと、「調子はどうだ」と短く尋ねた。 「え、あ…へ、平気だと思います」 「ならいい。包帯を替える。腕を出せ」 「は、はい…」 女はゆっくりとベッドの上で起き上がると、昨夜怪我をした腕を突き出した。 そこには綺麗に巻かれた包帯があり、ローはそれを解いていく。 「あの…」 「何だ」 「き、昨日は有難う御座いました…」 「…あ?」 ローは手を動かしながら女を見上げた。 女はローと目が合った瞬間、それはもう不自然に目を逸らす。 若干頬が赤いのは、きっと熱のせいではないだろう。 「昨晩、助けて下さって有難う御座いました」 「……何故おれだと?」 「え?だって、あの刀…」 刀、と言われて、扉付近に立てかけてある刀を指差した。 それが昨夜の記憶とどう繋がってくるのか理解し兼ねたが、ふとの武器を思い出す。 銃声がすれば目立つだろう事を懸念してロッドを使っていた。 もしかしたら、闇夜という視界の悪い中で、この女はの姿をはっきりと捉える事が出来なかったのではないか。 パニック状態にも陥っていた事もあり、長いものという認識が、長いローの刀を見た事により都合よく摩り替わったのではないだろうか。 「有難う御座います」 「………」 「あの、私スフィアって言います。あなたは…?」 厄介な事になったと、ローは重苦しい溜め息を吐き出した。 ◇ 「…………」 はある部屋付近で落ち着かない様子でウロウロしていた。 昨夜助けた女性の怪我の具合と、容態が気になる。 しかし、何よりもローから告げられた言葉の意味も気になっていた。 その言葉から察するに、あまり良くないものだと感じたは、気まずさに足を踏み出せずにいた。 「う〜…なんかキャプテン怒ってた。謝りたいけど意味が分からない…」 「おい、何してんだそんな所で」 「シャチ!」 丁度そんな場面に出くわしたのはシャチで、手には軽い食事がお盆に載せられている。 それを見て何をしにここへ来たのか分かったは、シャチにえへへ、と笑いかけた。 ・ ・ ・ 「船長、失礼します」 「入れ」 短いローの言葉が返ってくると、シャチは扉を開けた。 中には異様な空気が流れていて、シャチは何でだろうと首を傾げる。 「…………その後ろのは何だ」 「……、ほら」 「………」 シャチの後ろに隠れるようにしていたのはで。 ローはを目に留めると眉を顰めた。 相変わらず不機嫌そうなローを視界に入れながらも、はスッと頭を下げる。 「き、昨日はすみませんでした」 「………」 「もう、しません」 「………ハァ」 ローが吐き出した吐息に、はびくっと体を震わせた。 それを横目に見ながらも、ローは組んでいた足を元に戻すと立ち上がる。 「、お前が面倒をみろ」 「…え、」 「シャチ、そこに置け」 「あ、はい」 シャチはササッと部屋の中に入ると、ローに指示されたテーブルに食事を置いた。 ローは広げた包帯などを簡単に箱へ詰めると、それを持って扉へ向かう。 「あの、ローさん」 静まった部屋の中、今まで黙っていた女――スフィアが呟くように声を掛けた。 ローは背を向けたまま立ち止まり、は改めて女性を見た。 「本当に有難う御座いました」 「………」 特に何を返す訳でもなく、肩越しに一度振り返ると、再び足を動かす。 ローはそのままの隣に立つと、顎でしゃくって促し、何も言わずにシャチと共に部屋を出て行ってしまう。 残されたは、こちらを見て微笑んだスフィアに、ぎこちなく笑い返す。 そのままローが座っていた椅子に腰を下ろすと、口を開いた。 声に出来ない言葉「ああ」 部屋を出たローの後ろをシャチが歩きながら、何か納得したかのような声を上げた。 ローは何も言わずシャチを振り返ると、シャチは「あ、すんません」と苦笑する。 「さっき違和感を感じてたんすけど」 「違和感…?」 「部屋に入った瞬間、あれって思ったんすよ」 「………」 「きっと、船長がじゃない女と一緒にいたからだろうなって。ほら、いつも一緒にいるんで」 はは、何でもないんで、忘れて下さい。と言って別れたシャチをなんとなしに見送りながら、ローはフと口元だけで笑う。 「鈍い女」 果たしてその言葉は、誰に投げかけられたものなのか。 結構最後の一言がお気に入りです。 ザ・鈍感ヒロインちゃん(笑) クルーでさえ気付く違和感に、一人気付かないところがいいと思います。 そして続く! 2010/05/20 |