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月夜の路地。 立ち寄った先の島の酒場で気の済むまで杯を乾してきた帰り道。 船長のローを筆頭に、隣にが並び、その後ろからクルーが笑いながら覚束ない足取りで追いかける。 くだらない話題に、ほんのり酔っていたも笑う。 そんな中、ピク、との耳が微かなそれを聞き取った。 笑みを引っ込め、足を止めると、殺気に似た鋭い視線を路地の向こう側に馳せる。 「…何だ、」 突如立ち止まり険しい表情をしたに、ローが億劫に話しかけた。 後ろのクルーは何だ何だと顔を見合わせている。 「女性の悲鳴だと思います」 「……、…放っておけ。関係ない」 「だけど、」 「おれ達は慈善事業をしている訳じゃない。保警にでも任せておけ」 海賊は、市民からすれば敵として見られる存在だ。 例え略奪や殺戮を繰り返し犯す悪逆非道でなくとも、海賊というだけで一括りにされてしまう。 人助けをするのは軍や街の取締りをする保警官に任せておくのが道理で、ローの言葉は正しい。 しかしは静かに腿につけたホルスターからロッドを引き抜くと、それを繋ぎ合わせた。 「オイ、おれの言葉が聞こえなかったのか?」 「キャプテン、私は、確かに海賊です」 「……」 「でも、同じ女として、あの悲鳴は放っておけない」 「……」 「ごめんなさい」 何に対する謝罪なのか、は誰に向けたのか分からない言葉を残して闇色に染まる路地へ駆け出していた。 理解の追いついていなかった他クルー達は、の行動に今更ながらに名前を呼んで遠ざかる背を呼び止めようとする。 「せ、船長…ありゃぁ…」 「ったく、トラブルメーカーってのは何処まで行っても直らねェな」 「お、追いかけますか?」 「…ベポ、先に行け」 「アイアイ!」 ローはがしがしと頭を掻くと、ベポと数人を連れ駆け出した。 他のクルーには船に戻るよう告げて、ベポから刀を受け取る。 「キャプテン、を怒らないであげてね」 「さァな、気分次第だ」 フォローするかのようにそっと告げたベポの言葉に、ローは曖昧に笑った。 ・ ・ ・ 「っはぁ…はあ、っ」 足が縺れそうになりながら、一人の女が暗闇を走っていた。 石畳の上を走るたび、カツカツと靴が鳴る。 その音さえもまるで自分を追いかけているようで、女は自分を抱きしめるよう腕を抱いた。 直後、ちょっとした窪みに足を取られるとあっけなく体は倒れ込んでしまう。 「は、ハァ、へへ、手間掛けさせやがって!」 「やぁ、っ」 「オイオイ、それでも一応商品だ、手荒に扱ってやるな」 「そうだったそうだった」 男が2人、倒れた女を乱暴に起こすと強い力で腕の中に収めようとする。 しかし女は最後の抵抗とばかりに思いっきり男の足を踏んでやった。 くぐもった声が漏れ、女はその隙に男の腕から逃れようとする。 「っっ!?」 ひゅっ、と何かを振りかぶる音がして、腕に痛みが走った。 振り返れば、もう1人の男が、月夜にぎらつく剣を構えていて。 女はドッと壁に倒れこむ。 「こっちが丁寧に扱ってやれば調子に乗りやがって」 カランと持っていた剣を地面に落とすと、男は女の体を更に強く壁に押し付けた。 下卑た笑みが目の前に迫り、女が恐怖に悲鳴さえも喉にしまった時。 「やっぱり最悪な場面だった」 一人興奮して鼻息が荒い男と、怯えきって震える女の間に、別の人間の声が入った。 男2人がキョロキョロと辺りを見渡す中、女は1人向かいの建物の屋上を見ている。 月を背景に、こちらを見下ろしている人間がいる。 女がそれを確認した直後、剣を拾い上げようとしていた別の男が「ぐっ」と声を上げて地面に伏した。 その傍らには、長い棒のようなものを持った人間が立っていて。 「テメェ何モンだ!」 「……うるさい」 風を引き裂くような短い音が聞こえたかと思いきや、男の巨体が浮いた。 下から上へと凪ぎ上げた攻撃が顎にヒットしたのか、ドシャリと男の体が落ちてくる。 「女をオモチャにするヤツは嫌いだけど、嫌がる女を力で押さえつけるのはもっと嫌いだ」 意識を失ってしまったのであろう男に、吐き捨てるように言うと、その人物が女を捉えた。 ビクリと体を震わせた後、安堵なのか、それとも再び訪れた恐怖なのか、女が意識を失い倒れる。 「あぶないっ」 その体を支えたは、後から追い駆けてきたロー達と合流し、ベポに女を船に運んで欲しいと頼んだ。 ◇ 「で?」 「お願いしますキャプテン!怪我を診るついでに、部屋に寝かせてあげて下さい!」 は甲板で、ベポに抱かれながらぐったりする女性を横目に見ながら頭を下げた。 酷い怪我ではないが、外科医であるローの方がマシな処置をしてやれる。 ベポは腕に女性を抱きながら、ローとを交互に見比べオロオロしている。 「その女を助けておれになんの見返りがある」 「…何もないかもしれません」 「さっきも言ったよなァ。おれ達は慈善事業をしてる訳じゃない」 「で、でもこのまま放ってなんておけない!」 「………」 ローは不機嫌そうに視線を逸らした。 イライラしているのは、顔を上げずとも空気で分かった。 が頭を下げ続けていると、ハァという溜め息が聞こえる。 そっと顔を上げると、ローは自分の部屋を顎でしゃくり、ベポに運ばせるよう指示を出した。 「あ、有難う御座います!」 「……おれを女に売った意味、身を持って知るんだな」 「……? どういう意味…」 「ペンギン、湯を持って来い」 「…分かった」 が嬉しそうに顔を上げたが、ローは冷たい視線をに投げると、 傍らで事の始終を見ていたペンギンに、部屋へ湯を持ってくるよう告げる。 一瞬の方を見たペンギンは渋い顔をしたが、組んでいた腕を解くとローの指示に従う。 取り残されたは、ローの意味深な言葉が理解できず、ただ立ち尽くしていた。 崩壊への道を辿ろうともまだ完結してないんですけど、多分ちゃんと書けると思うんだ、多分。 今回も続きものになっておりますが、何話で完結するか未だ不明です。 ちょっと波乱万丈な雰囲気(笑) 2010/05/20 |