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どうしてこんな事になっているのだろう。 赤く火の手を上げて燃える城に、私は思わず少女の姿を探していた。 Sanguis「!!」 「怪我は…」 「ないわ。他の護衛はどうしたの?さっさと私を連れ出して!!」 どうして少女の姿を探したのか、自分でも良く分からなかった。 見捨てて、この騒ぎに紛れて姿を眩ませてしまえば良かった。 それが出来なかったのは、国民のため?それとも自分の命のため? どうでも良い事を考えながら部屋から出ようとした所で、先を走っていた護衛が視界から弾かれたように消えた。 壁に激突したのだと分かったのは、息の詰まる声を追ったからだ。 思わず少女の前に出て炎の先を見据えれば、そこにはこの間の男がいる。 「やはりここに居たか」 「…あなた、」 「島中探し回ったが、ここに籠もってたんじゃァ見つかる訳もないな」 男が言い終わる頃、部屋の向こうからやっと到着した護衛が走ってきた。 数は圧倒的に多い。勝ったと、思った。 「"ROOM"」 護衛の唸る様な声の中、その男の口元がそう動いたのを覚えている。 刀を手に取った直後、瞬きをしている間に男が刀を鞘に戻した。 何が、と男を見れば、何故かこちらを見てにやりと笑う。 「"シャンブルズ"」 思わず我が目を疑った。 護衛の体が見る見るうちに切り離されたかと思いきや、別の体にくっ付けられていく。 まるでマジックの切断ショーを見ているような、そんなおかしな感覚に襲われる。 痛みは感じないのか断末魔は上がることはなかったが、悲鳴が部屋に響く。 「フフ、大人しくしてたら後で直してやらなくもない」 「キャプテンいつもそう言って直さないじゃない」 「そうだったか?」 隣の白熊がしゅん、と耳を垂れ下げて男に言う。 キャプテン? はキャプテンと呼ばれた男を見る。 「さて、」 男の目がこちらに向けられて、思わず体に力が入る。 腰に携えた剣を抜こうとしたところで、今まで後ろに下がっていた少女が前に歩み出た。 「私のエサを勝手に殺さないで」 「殺す?おれはバラしただけだ。殺しちゃいない」 「それでも手を出したことに変わりはないっ!」 少女が、纏う空気を変えて悪魔と呼ばれるものを召還する。 少女の召還の原理は、私のものとよく似ている。 まるで私と双子のようで、鏡で写した姿のようだった。 どれほど戦っていたのか分からない。 少女が膝を着いたのが見えた。 男の刀が少女の首に宛がわれる。 少女が、私を縛っていたものが、消えてなくなる。 なんでだろう。 この瞬間を願っていたはずなのに。 「…何の真似だ?」 「………」 男の刀を手で掴んで、止めてしまった。 刃を握ったために滲んだ血が、滴り落ちて炎に揺れる。 「火を放ったのは…あなた?」 「……おれだと言ったら?」 その先に何の答えを望んでいたのか分からない。 でも火を放ったのがこの人なら、どうして火を放ったのか気になった。 ところが、隣で見ていた白熊がそろりとこちらへ顔を覗かせて、「アイ〜…」と口籠もりながらこちらを見た。 「おれ達がここに来たときには、もう城は燃えてたよ」 「え…?」 「おれ達はある人から頼まれてここに来たんだ」 「ベポ、」 「女の子が囚われてるから、助け出して欲しいって」 余計な事は言うなと言葉を遮ったようだったが、ベポと呼ばれた白熊が続けて教えてくれる。 囚われているから、助け出して欲しい…? 「とある島にいた、アイラっていう女の子からだったよ」 「あ…」 アイラという名前に思わず涙腺が緩みそうになった。 アイラは、私の一番大事な友達。 最後までずっと一緒に居てくれた親友だ。 「火は、大方そこの女に不満を持ってる者達だろうな」 そこの、と目を向けたのは私の後ろで黙っていた少女。 少女は男を睨んでいた視線をこちらへ向けると、アハハ!と笑い出した。 「アハハハ!馬鹿な部下を持ったもんだわ!!」 「………」 「ねぇ、」 「?」 ぐい、と鎖を引っ張られて顔をそちらに向けさせられた。 少女が今まで見た事のないような笑みを浮かべる。 それは少女と称するよりも大人びた笑みで。 「これが"呑まれる"という事よ、」 「え…?」 言うや否や、目の前が一瞬にして真っ赤に染まった。 少女の胸から飛び出しているのは、度々目にした事のある太い鉤爪。 猛禽類に似たそれが、ずぶりと少女の胸を貫いている。 「アハハ…血が足りなくなっちゃった…」 どぷりと噴出す血が床を赤く染め、少女の目から生気が失われていく。 胸を見ていた目を少女の顔に戻せば、彼女は痛みも感じていない様子で笑う。 「、あなたって、馬鹿ね、」 「……っ、」 「あなたが約束を守ろうとも、違えても、」 「……」 「あの国は、滅びてた、わ」 「…なに、を…?」 息も絶え絶えになりながらも少女が伝えようとしていた。 カハっ、と吐き出した血が広がる血に混じっていく。 いつの間にか辺りが血の海になっている。 「殺し、ちゃった…」 「…っ!?」 「アハハ…だって、憎かったの、」 血まみれの手が伸びてきて、頬に触れた。 べちゃ、と血が張り付くが、何故か振り払う気にはなれなかった。 「あなたは、私と一緒だった」 ずるりと落ちた手が血溜りに落ちる。 「女神と呼ばれる、存在に奉られ崇められる、けど、結局、生贄でしかない」 少女の目が虚ろに揺れ始めた。 「私は、気付いた。国は、崇めているんじゃない、畏(おそ)れ故に、ただ、閉じ込めているだけと、いう事に」 「…あ、」 言われてみれば、少女の言う事は的を得ていた。 崇め奉っているようにも取れるが、一生を神殿で神の為に過ごすというのは、自由も何もなく閉じ込められる事。 それは神殿という檻のようだとも思った。 「、っ、」 何でだろう。この少女を憎んでいたはずなのに。 国を追われ、国民を殺され、そして私の自由を奪い、殺しを強要した人物なのに。 「アハ、わたし、あなたのこと…っ、すき、だった、わ」 最後に伸ばそうと持ち上げた指先が、僅かに浮いて血溜りに沈んだ。 目を閉じた少女は、もうぴくりとも動かない。 こうなる事を望んでいたはずなのに。 彼女さえいなくなればと思ったことさえあったというのに。 どうして涙が止まらないのだろう。 「オイ、」 「っ、う」 「城が焼け落ちるぞ」 「…ぅ、っは」 「…ったく、オイここを出、」 「放っておいて!!」 バシっと弾き飛ばした手にも血が移ってしまったようだが、それに気遣う余裕はなかった。 男は文句を言うこともなく、怒鳴るでもなく弾かれた手を自分に引き戻している。 「私は、帰る国を失ったの!」 「……」 「ここも、たった今居場所がなくなった」 暖かさを失った血を撫でる。 帰る国もない、居場所もない。 ただあるのは、罪に汚れたこの身ひとつだけだ。 「…だから死ぬのか」 「……」 「船長っ!もう城が崩れ…っ、うわ、」 部屋に駆け込んできたのは白熊が着ているツナギと同じ服装の男の人。 キャスケット帽のサングラスの人は、焦っている様子だったが部屋の惨状を見て口を噤む。 「どうして、私を助けるの?アイラが頼んだのかもしれないけど、そのアイラももういない」 「……」 「だったら、もう放って、」 「おれ達に見殺しにしろと言いたいのか」 「…あなた達、海賊でしょう?人だって、殺すんでしょう?」 なのにどうして目の前で死にたいと言っている人間を放っておいてくれないのか。 その手で殺すのと、見殺しにするのはどう違うというのか。 男を見上げていると、再び手を伸ばされた。 ただ手を差し出すだけで、腕を取ろうとはしない。 「おれと来るか、」 何故名前を、と思ったが驚いたのは男の言葉だった。 「お前に生きる理由を与えてやる。おれのために生きろ」 「なに、を」 言っているのだろうと思った。 一度は刃を向けた相手なのに。 手を取る様子すら見せないのに、男はただ黙って待っている。 きっと、この手を取るまでこの人は動かないのだろうと思う。 「おれと来い、」 その手を取れば、私に居場所をくれるのだろうか。 その手を取れば、私は生きてもいいのだろうか。 恐る恐る伸ばした血に汚れた手を男の手に乗せると、ニヤリと笑った男が掴んで引っ張り上げる。 それは立たせるだけに留まらず、私の体を肩に担ぎ上げた。 「いくぞ!崩れる前に城を出る!」 「りょーかい」 「アイアイ!!」 後に、彼らがハートの海賊団という海賊で、私を助けた男はキャプテンでトラファルガー・ローであると知る。 私は誓った。 あなたの側で生きようと。それが私の罪滅ぼしになるのなら。 死んで償うより、生きて苦しもうと思った。 だけどあなたは言う。生きて苦しむ必要はないと。 私の使命は、償う事ではなく。 ただあなたのために"生きること"だと。 ラピス=ラズリ・にとって、トラファルガー・ローは。 生きる希望になっていた。 ヒロインがキャプテンに拾われたというか、ようやく仲間になった場面です! 短編のほうでパラパラこの辺りの事ほのめかしておりましたが、まぁこんな感じで仲間になりました。 多分この人は仲間になって欲しいという感情はなかったと思います。 どちらかと言えば、ただ人の命に対して敏感なだけであって、仲間という意識ではなく、この命を生かそうとただそれしか考えてなかったんじゃないかなって。 過去はここで終わらせて、再び現代に戻します! 2010/06/16 |