「今日のターゲットは、あれ」

つい、と少女が指差したのは酒場にいた集団。
一般人ではないというのは、何となく経験と雰囲気で分かった。
私はただ頷く事しか出来なくて、指差された先にいる人を見る。

刺青だらけの腕。
細い体に目の下の隈。
あれなら殺れる。私の最初の印象だった。


夜更け、酒場でだらしなく眠ってしまった男達の中で、一人立ち上がったのは指示された人ターゲット
私は外に出てきたその人の後を付けて隙を窺っていた。


「ヘタクソだな」
「っ!?」

曲がり角で、男と顔を突き合わせてしまい、慌てて距離を取った。
男は帽子を片手で押さえると、フフと闇の中で笑う。


「気配が消せてねェ。バレバレだ」
「……」

壁に寄り掛かったまま笑っていた男が、スッと笑みを引っ込めて鋭く冷たい目を向けた。
お腹の底が疼くような、そんな感覚に襲われた。
これは恐怖だ。


「で?何処の一味だ?海軍ではなねェな」
「……」

男が攻撃態勢に入っている事は分かっていたので、手に持っていたナイフをしっかりと握り締めた。
薄明かりにギラつくそれが見えたのか、男の視線がちらりとナイフを窺った。


「掃除屋か?まァ、どちらにせよ攻撃しようって魂胆なら相手をしてやる」

来いよ、と笑った男が気に食わなかった。
駆け出した足を地面から浮かせて高くジャンプをして、男の首目掛けてナイフを振り下ろす。
軽くそれを交わした男の手が伸びてくるのを視界の端で捉えて、慌てて身を翻してから再び攻撃を仕掛ける。


「動きは悪くねェな、だが――"ROOM"」
「!?」

気付けば不思議なサークルの中に居た。
広範囲に及ぶサークルを見渡した後、男を見ればニヤリと微笑むのが見えて。


「気を楽にしろ。すぐに終わる」

手を前で交錯させて不思議な構えを取った男を見て、慌ててそのサークル内から飛び出した。
ザザ、と石畳の上に転がり込めば、男が「ほォ」と関心したような声を上げたのが聞こえる。
その声が思ったよりも近くて、慌てて顔を上げるのと男の手が首を絞めるのは同時だった。


「っぐ、」
「よく出てこれたな。それは褒めてやる」

足が宙に浮いて首がギシギシと音を上げているのが嫌によく聞こえた。
掴む腕を引っかいてやるが、男は動じた様子もなくニタリと笑う。
よく笑う人だと、何故だかそんな事を思った。


「躾のなってない猫だな。
――お前、死ぬか?」
「かはっ」

男の目が再び愉悦から変わり、凍てついた冷たい色になった。
直後、お腹に受ける凄まじい衝撃。
殴り飛ばされたのだと気付いたのは壁に背中がぶつかってからだ。


「どうした?終わりか?」

男が手を構えたまま指先を揺らした。
口の中で滲んだ血を唾ごと吐き出して何とか立ち上がるのがやっとで。


「grimoire:sexセクス
「?」
moonstoneベ シ ヌ

足元に急速に広がった魔法陣を確認して、飛び上がる。
こちらを追っていた男に一つ笑ってみせると、一瞬瞠目した。
何に驚いたのかは分からない。
次の瞬間には、男の周りに霧が立ち込めている。
濃霧に飲まれた男の姿は見えないが、逃げ切る事は可能だろう。

それは、初めて失敗した夜の事。






 Pirata






それからしばらく。私は外に出して貰えなくなった。
憤慨した少女に散々甚振られ、腕を折れた事も関係している。
高い高い古城の一番上。
テラスと呼ばれるそこから見る景色は、雄大で好きだ。


「海…か、」

世界には、あの広大な海を股に掛ける海賊がいると聞く。
海賊にも種類があって、無法に略奪をするモーガニアもいれば、そのモーガニアを狩るピースメインというのがあるのだそうだ。
大きな海王類と呼ばれる海獣もいれば、人魚もいるという噂だ。
風に乗ってくる潮風に、何度その憧れを抱いたか分からない。
きっと何処の世界も一緒だとは思うが、故郷で一生神殿に仕えるよりも、少女の下で暮らすよりも、よっぽど自由なような気がした。


「自由になりたい…っ」

もし翼があったら、ここから飛んでいってしまえるのに。
流した涙はきっと誰にも知られる事はないだろう。





神々が遠のき力はなくなっておりますが、基本力を貸し与えるのをやめたのは主要な神。
そのためただの目晦ましなどに使われる下級神の力はまだあるという事で。
とりまキャプテンとのファーストコンタクト!!
最初はただの残虐的なシーンのみという事で。

2010/06/16