「私を、船から、ハートの海賊団から降ろして下さい」

表情を変えずにそう言ったに、ローは女の腕を力ずくで剥がすとに向き合った。
その目は恐ろしいほどに冷ややかで、長年の経験から、それが怒っている時のものだと直ぐに分かった。


「理屈を説明しろ」
「………降りたくなったからです」
「そんな馬鹿げた理由でおれが許可するとでも思ったのか?もうちょっとマシな嘘の方が笑えたな」
「……理由は、言えません。けど、罪滅ぼしなんです」
「……」

罪滅ぼしという言葉に、ローは目を細める。


「もう行かなくちゃいけない。お願いします、キャプテン」

色もなくそう言ったを見て、言葉を詰まらせたのはローだった。
まるで何も感じてないかのようなの言葉。
例えるなら、無感情という表現がしっくりくる。
ローは頭を下げ続けるの前に立つと、持っていた刀をスラリと抜いた。
ROOMも発動せずにその刀を振り上げると、目掛けて落とす。


「………」
「………」

刀はを傷つける事無く、皮一枚分ほどスレスレの所を通過して地面に叩きつけられた。
キィィンと響く刃の振動だけが路地に響いている。
ローは刀を持ち上げると、静かに鞘へ納めた。
は未だ頭を下げたまま拳を強く握り締めていた。






 Dolor






「……………………行け」

ぽつりと零された言葉は、とても短かった。
そっと持ち上げた目線が捉えたのはローの背中。
自分はいつも、この背中だけを見てこの背中だけを追い駆けてきた。
それはキャプテンが他の誰でもない自分に預けてくれたから。
今日を持って、今を持ってこの背中を追い駆けられなくなるのかと思うと、とてつもない苦しみが襲った。
呼吸を奪うような苦しさ。
けれどもう、手を伸ばす事は許されないのだ。


「キャプテン、前に言ってくれた事、覚えてますか?」
「………」
「もし私が、この船を降りたいって言ったらどうしますか…って」

何気ない、日常会話の中での一コマ。
その時はもしもの話をしていた。


……―――


「ねぇキャプテン」
「何だ、」
「質問してもいい?」
「おれは忙しい。手短にしろ」
「もし私が、この船を降りるって言ったらどうしますか?」
「くだらねェな」
「せめて引き止めなくてもいいから、惜しんでくれたらいいなぁって思って」
、」
「は…ふがっ」

鼻先を摘まれては慌てた。
フフといつも以上に笑ったローはその手を離して、距離を取るを見る。


「おれは」

もし、ハートの海賊団の船を降りたいと言って来たら。
その時は。


―――……


「キャプテン、」
「フフ、おれの船に乗れて良かっただろ?
「っ、」
「二度と会う事もないだろうが、精々元気にやるんだな」
「きゃぷ」

「じゃあな、


おれは、笑ってお前を送り出すさ。





もし仲間を辞めたいと、船を降りたいと言うクルーがいたのなら。
ローは一体どうするのだろうと思った時、この人は「好きにしろ」と冷たくあしらうか、
笑うかのどちらかだと思いました。きっと理由は訊かないと思うんですよね。
けれどその胸中は複雑なんだろうなって、私は感じました(苦笑)

2010/06/16