が口を開こうとしたその直後、外で何者かの気配を感じた。
揺らいだウィンディーネの姿は瞬時に消え失せると、扉が開き何者かの姿が現れる。
そこに見えた影に、は目を見開いた。






 Filia regis






「船長〜今日はここで酒飲みましょうよ!!」
「…あァ」

乗り気でないローの返事にもお構いなしに盛り上がるクルー。
傍らにいたペンギンだけがローの上の空に気がついて、隅の方に腰を下ろしたローに歩み寄る。


「船長」
「何だ」
「…そんなに心配なら、どうして行かせたんですか」
「何の話だ?」
「あなたなら、バラしてでも止める事が出来たでしょうに」

ソファの背凭れに両腕を広げたローは店内を視界の端に入れて騒ぐクルーを見つめた。
普段はあそこにの姿もあるのだが、はいない。


「お前ならどうする」
「え…」
「女が涙を浮かべて言う。居場所はここかと、帰ってきてもいいのかと」
「……」
「止められるはずがねェだろう」

目を閉じたローは、一体今その瞼の裏に誰を思い浮かべているのか。
それ以上言えなかったペンギンは、運ばれてきたジョッキを2つ手に取って1つをローの前に置いた。
瞼を持ち上げたローがいつものように笑う。
それが精一杯の強がりだと知っているペンギンは何も言わずローとジョッキを合わせた。








宴もたけなわになった頃、別の客と一緒に飲んでいた女が饒舌に語り出した言葉が気になった。
ローはお酒を飲むフリをしながらそちらに耳を傾ける。


「へぇ…それじゃあその皇女様ってのはよっぽど酷いヤツだったんだなぁ…」
「辺り一面血の海になったって噂よ。皇女様が大人しくしてれば良かったのに、逆らったがために国を滅ぼされたみたい」
「女の命令ってのは何だったんだ?」
「さぁ?でもその命令に逆らったから逆鱗に触れたんでしょう。馬鹿な皇女様よね」

「その話、おれにも聞かせちゃくれないか?」

男にしな垂れ掛かっていた女が顔を上げてそちらを見た。
そこには不適な笑みを浮かべたローが誘うように女を見ており、頬を赤くした女が席を立ちかける。
ところが、一緒に飲んでいた男が女の腕を掴んで引き止めた。


「テメェ、おれはこの女と飲んでんだよ!」
「お前に用はない。おれは女に聞いている」
「んだと…っ!?」
「野暮な男ね!離してよ!」

男に腕を掴まれていた女がその拘束を振り解き、そのままローに抱き着いてみせた。
その目はまるで汚らわしいものでも見ているかのようで、男はへなへなと椅子の上に大人しく座り込む。


「ここじゃあ野暮な男が多くて困っちゃうわ…ねぇ?海賊さん、上の部屋に行かない?」
「フフ、積極的な女は嫌いじゃない」

女の腰に腕を回したローは、連れ立って酒場を後にした。
別の戸口から外に出ると、女が早くと急かすように階段へと差し向ける。
その手を逆に取って引き寄せると、ローは女を壁に押し付けた。


「あン、気が早いわ、海賊さん」
「その皇女は、どうなったんだ…?」
「さぁ…?死んだとも、ノウノウと生きてるとも言われてるわ」

それよりも、と女がローの首に腕を回して引き寄せる。
豊満な胸が自分の胸板で潰れるのを見ると、女が更に顔を近づけた。


「ねぇ?私あなたの船に乗ってみたいわ?」
「…残念だったな、女は乗せない主義だ」
「あら、でも昼間あなたの船を見かけた時、女の子がいたわよ?」
「………」

ローの表情が変わり、女を冷たく見下ろした。
だが顔色一つ変えない辺りを見ると、流石酒場の女と言うべきか。
場数が違うらしい。


「同じ女。あなたの下に組み敷かれるのが1人から2人になるだけじゃない。仲間に入れてよ」



「アイツは、仲間じゃねェ」



ザリ、と石畳を踏む音がして、ローは肩越しにそちらを振り返った。
そこに居たのは闇に縁取られた
ローが眉を寄せるのと、女がローの体を引き寄せたのは同時だった。
チッと胸のうちで舌打ちをしたローだったが、意外にも先に声を発したのはだった。


「キャプテン」
「………」
「私に、下船許可を下さい」
「もう許可は出しただろうが」
「そっちじゃ、ないです…」

が一歩踏み出した事により、闇に沈んで見えなかったの表情が良く見えるようになった。
それを見て、ローが珍しく驚いた顔をする。
まるでそこにいるが、別人のようで。


「私を、船から、ハートの海賊団から降ろして下さい」

そこにいるのは、誰だ。





ペンギンのキャラが何故かクールな感じになってしまう(苦笑)
漫画見ているとどうにもシャチと同じようなキャラみたいなんですよねー…
何でだろう、ミステリアスなキャラとしてインプットされているのは(笑)

さてさて、少しヒロインの話から外れてキャプテンに視点が移り、2人が合流。
しかしてヒロインに一体何があったのか…。乞うご期待。という事で!

2010/06/16