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下船許可を貰えたは船から見ているローの視線を背中に受けながら、港町とは違う方へ足を踏み入れた。 姿形は変わっても、地形が変わった訳ではない。 幼い頃、それも殆ど記憶さえ残っていない時だったにも関わらず、体は道を覚えていた。 草木が生い茂る道を抜けると、石造りの壁が見えてきた。 風化して脆くなっているようだが、そこは至る所に昔の姿を残していたの故郷、カテドラル王国だった。 「……」 廃れた国というのは本当らしい。 は自分の記憶に残る国の風景を思い出しながら壁に触れる。 「ここは雨の日に私がはぐれた場所」 ざらりとした壁をなぞると、砂が崩れて地面に落ちた。 「ここはアイラの家」 昔一緒に遊んでくれた少女の名前。 「ここは立ち入り禁止区域」 治安が悪いからと注意された場所。 「手を滑らせて落ちた噴水」 中を覗き込もうとして落ち、ずぶ濡れになった噴水。 水は枯れ、顔を映し出す水は入っていないが、その形はまだ辛うじて残されていた。 「ここ、は」 Memoria足元に広がる石畳。 両サイドに立ち並ぶ彫刻と柱。 そこは幾年と年を重ねているにも関わらず、まるで当時のままの姿でそこにあった。 一歩、足を踏み入れると澄み渡る空気。 この空気が息苦しくて、昔は嫌いだった。 「まだあったんだ…神殿・パシフィオン」 崇高な名前。穢れなき聖域。 月詠姫としての名前が、今更重く圧し掛かるようだった。 昔はここを、母が前を歩き、両隣に女官。 後ろには武装をした女兵士が付き従い、歩いていた。 真っ直ぐに伸びる道を一人歩いていくと、目の前に立ちはだかった重厚な門。 汚れてはいるが、どうやら門としての役割は失っていないようだ。 試しに押してみるものの、ビクともしない。 「absolute」 の纏う空気が変わり、片目が瑠璃色になる。 「我、ラピスラズリを襲名する者哉。ラピスラズリが命じる、開門せよ」 押しても開くことのなかった扉が、ズズ、と重い音を立てて開いた。 人一人分ほどの隙間が開くと、そこに身を滑らせて中に入る。 明かりのない部屋は暗かったが、がある魔法陣の中に足を踏み入れると突如として松明に火が燈った。 広い神殿内を炎の光が満たし、魔法陣の中心には立つ。 『これはこれは、ラピスラズリ』 魔法陣の一角に、フッと青白い光が揺れた。 炎のように揺らいだそれは大きく広がると姿を人のものへと変える。 それを皮切りにから向かって正面に3つの光が出現すると、同じように人型を成した。 は静かに頭を下げたままじっとりと汗を握っていた。 張り詰めた空気が息苦しくさせる 「大蓮帥…」 『久しいなラピスラズリ』 の目の前に立ち並ぶ4 人の女神。 見目麗しく、気高き五行を司る神々だ。 炎を纏った大火蓮。 水を纏った大水蓮。 この二大神がを除く11人いる神々の中で最も力を持つ女神であり、所謂権力を持つ神だ。 そして風を纏う大風蓮と、大地の気を帯びる大土蓮が二大神に続き、この4人の女神は自然を司る神と称して四精霊・大蓮帥と呼ぶ。 が襲名しているラピスラズリはこの4人の上に立つ地位ではあるが、実質力を握っているのは二大神だと言っても過言ではない。 「あ、の、」 『今更何をしに顔を見せたのじゃ?穢れた神よ』 「っ、」 下げていた顔を上げると、大火蓮が鬱陶しそうに言う。 蔑んだ目は強く、は思わず身震いした。 『我らの力を冒涜した罪、忘れた訳ではあるまい?』 「…勿論、その事については今でも深く反省しております」 『反省?そなたの罪、反省するだけで取り消されるとはよもや思ってはおらぬだろうな?』 「それは、」 『見下げた女じゃ。だから人間なんぞに女神を襲名させるのは嫌だったのじゃ』 大火蓮の言う事は最もだった。 は過去に過ちを犯した。 神に仕えるべき力を使って、神を 神の名前を穢し、自らの名前を穢し、両手を血に濡らした。 「その事で、お話があります」 カテドラルは神聖な聖堂という意味。 ディアリフィスとパシフィオンはそれっぽいものを自分で考えました。 どれも聖なる、とか崇高なとか、そういう意味を持たせて作っています。 神が棲む島とはつまり、12の女神が棲まう島という事です。 ここで12の神々を少し紹介。 ラピスラズリは、設定にも書きましたが「天空の破片」という意味があって、所謂天にいる存在。 つまり12人いる女神の中で一番権力のある地位にいるものですね。 ウィスパード(囁く者)という能力が使えるのは、ヒロインが人間であり神ではないから。 (言霊を操り囁く=唱える事によってその能力を借りる) ラピスラズリに続く地位は四精霊が最も高く、突出しているのは二大神の大火蓮と大水蓮。 構図的には、 ラピスラズリ 大火蓮、大水蓮 大風蓮、大土蓮 ちなみに大蓮帥は皆漢字表記になっておりますが、それぞれ宝石の名前もちゃんと持ってます。 それはまたいずれ。 2010/06/16 |