の目の前に現れた人間はミトと国民のうちの男性が数名。
牢屋の鍵を開けて中に入ってくると、ミトはを冷たい目で見下ろした。


「その腕の拘束具には特別な咒符があしらわれておりまする。その力により、お嬢様の能力は無効化されております」
「………何、で?」
「"何で?"」

スッ、とミトの目が細められると、持っていた杖での顔を弾いた。
バシっという強い音と衝撃が牢獄内に響き、口の中が切れて血が伝う。
未だ理解の追いつかないは、血が流れているにも関わらず、混乱した様子でミトを見上げる。


「あなたが、この国にした仕打ち、お忘れになった訳では御座いませぬでしょう」
「………何を、」
「トボケるおつもりですか?あなたは国を裏切り、我らカテドラル国民を根絶やしにしようとした!」
「それは…っ」
「余程ご自分の命が惜しいと思えたのでしょうなぁ」
「それは違う!」
「違う!?では何故カテドラルは滅びねばならなかった!!」

獄内に響くミトの声は凄まじい怒りを帯びていて、それは空気を揺るがしびりびりと音になっての耳に届いた。
周りの男性を見ても、同じように冷めた目を向けていて、先程出迎えた時の様な喜びの色など感じられるものではなかった。
きっとこの者達は。


「我々は待っておりました。あなたを。あなたを…この手で殺し、力を封じる機会を!」
「……」
「あなたさえいなければ!月詠姫さえ生まれなければ、この国は平和に今でも繁栄していたものを!」
「ぐっ、」

杖がのお腹に食い込み、胃の中の物が逆流した。
胃酸が口から吐き出されると、ミトは汚らわしいものをみるように一歩後ろへ下がって顔を顰める。


「この化け物を処刑します。神殿へ」
「「はい」」

男性が頷き、鎖が解かれるとは引きずられる形で両脇を固定された。
最後に見たミトの表情は、どう表現したらいいのか分からないほど、愉悦に歪んでいた。






 Familiaris






「船長!!!!!!」

ダダダ、と甲板に転がるように戻って来たクルーは、甲板で針路の話でもしていたのであろうローと航海士の前に滑り込むように入って頭を下げた。
航海士は唖然と男達を見、船長と呼ばれたローは何だ、と至って冷めていた。


「だ、大事なお知らせがありますっ」
「おれは忙しい。後にしろ」

海図を片手に再び航海士に顔を向けたローに、クルーはもう一歩にじり寄ってローの腕を掴んだ。
流石のローもその行動には驚き顔を上げると、そこには必死になっている表情があった。



が!!が殺されちまうかもしれないんですっ!!!!」



まるで船にいるクルー全員に聞こえるかのように。
男の声はとても大きかった。
焦っていたのだろう。声のボリュームを気に留める余裕すらないほどに。

それを聞いた航海士は目を丸め、何事かと様子を窺っていた他クルーも同様の反応を示した。
ところがローだけは違った。
険しい、眉を寄せた表情に、ローの腕を掴んでいたクルーが気圧される。


「せんちょ、」
「………は、もうおれ達のクルーじゃない。他人の始末を、どうしておれが面倒見なくちゃならねェ」
「………」

冷たい言葉に、思わずローの腕を掴んでいた力が緩んだ。
ぶらりと撓む腕に、ローは大きく息を吐き出す。


「欲しいなら、どうするのが海賊だ」
「…え?」

一瞬、強張っていた船の空気が変わる。
項垂れた男の目が再びローに向かうと、その顔は何処か自信に溢れていて。
思わず顔が綻び、そしてニッと口角を持ち上げる。


「おれ達は海賊、欲しいものは?」
「「「奪うまでだ!!!!」」」

この場にいたクルー達の声が一斉に重なり、それは唸るような怒涛になった。
その答えに満足したのか、ローがフフ、と笑い持っていた海図を航海士に預ける。


「出向は変わらず明日の昼だ。準備をしておけ」
「それまでにしっかりを連れ帰って下さいよ」
「フフ、誰にものを言ってると思っていやがる」

「そうでした、」と笑った航海士の肩を叩いたローは、傍らで一部始終を見ていたベポに向かって手を差し出した。
ベポは嬉しそうに持っていたローの愛刀を乗せると、その隣に並ぶ。


「キャプテン、」
「あ?」
が戻ってきたら、宴しようね」
「フ、好きにしな」

その横顔が何処か満足そうなのは。
ベポしか知らない。





素直に助けに行こうなんて言わないで、きっとこの人の言葉はいつだって導きながらも既に決まりきっていると思う。
だからこそクルーの答えは迷わず揺らがないし、船長について行こうってなるんだろうなぁ。
ああ本当そういうところ大好き!

2010/06/17