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「ちょっと来い、」 そう言って部屋を訪れたローの顔が神妙で、はただコクリと頷いた。 Significatio「ディアリフィス島、次の目的地だ」 連れて来られたのは航海士の部屋。 航海士が広げていた海図の前に立つと、ローはトンとある島を指さした。 《diarefais》と書かれたその名前を見て、はむっつりと黙り込む。 「今更ログを変えるのは無理だが、降りたくなければ降りなくていい」 「………」 「おい、あと何日で着く」 「この調子なら3日もしないうちに着きまさぁ」 「…ゆっくり考えるんだな」 その言葉の後は、どうやって自分の部屋に戻って来たか覚えていなかった。 ただ何もしたくなくて、何も食べたくなくて。 部屋に様子を見に来てくれたベポを追い返す形で再びベッドへ横たわる。 「ディアリフィス…」 久しく聞いていなかった名前だ。 苦しくなった胸に、は蓋をするかのように枕に顔を ・ ・ ・ 「どうかしたんすか?」 「……次の島の事だろう」 食事の時間になっても食堂に現れないを、シャチは何気なく気に掛けていた。 の部屋に行ってきたベポは沈んで帰ってきただけで、そこにの姿はなかった。 船長なら、と声を掛けたシャチの言葉に、ローは酒を呷りながら呟く。 「次の島?何かありましったけ?」 「確か十数年前に一つの王国が滅んだってのがその島じゃなかったか?」 「おおそうだ。港を除いて、今じゃ廃れて人も寄りつかなくなったみたいだが…」 「その島はの故郷だ」 ざわざわとしていた食堂が、ローの一言により静まり返った。 水を打ったかのように静まった食堂内で、ローはちらりとクルー達に目を向ける。 驚き口を開ける者、スプーンを取り落とす者、シャチに至ってはサングラスがずれ落ちている。 「え…、の?」 「ああ」 「な、なら喜ぶんじゃねぇか?」 「そうだよな、きっと親御さんにだって会いたいだろうし、」 「無駄だろうな。の故郷ってのは、その滅んだと言われる国のほうだ」 カタリと音を立ててテーブルに肘をつくと、ローは頭の隅でがぽつりぽつりと過去を語った時の事を思い出す。 「お前らに、少し昔話をしてやろう」 それは小さな小さな、お姫様の話。 ……――― ディアリフィス島は、元々大きな王国が支配をしていた。 神の棲む島とも言われ、島のあちこちには遺跡が目立ち、国の中心部には神殿とも呼ばれる場所があった。 この国の王位後継者である女には、特殊な力が備わると言われている。 齢3歳にしてその力が芽生えると、その者は神に仕える者として神殿で一生を過ごす。 ある者は言う。それは女神だと。 ある者は言う。それは生贄だと。 そして人々に語り継がれる。月詠姫と。 月詠姫に備わる力はまるで神通力のようであり、その力を狙ってくる者は後を絶えなかった。 それはある晩の事。 島を訪れたのは月詠姫の噂を聞きつけてやってきた、ただの少女だった。 年端もいかぬその少女は、従えてきた者達と共に国を呑みこむような力を誇示し、とうとう国は月詠姫を差し出した。 国は、月詠姫を少女に明け渡す事で、再び安寧を得たかのように思われた。 ところが、月詠姫が少女に逆らった罪で丸ごと滅ぼされてしまった。 自然とその国の噂は衰え、今では廃れた国として名を残すだけになったのだと言う。 ―――…… 「月詠姫…って」 「お前達も海賊をやってるなら知ってるだろう。アイツの、の通り名を」 ラピス=ラズリ・。 懸賞額1億3400万ベリーの超新星に名を連ねる札付き。 通り名は、『月詠姫の』。 そして陰で囁かれる…―― 大罪人、と。 「お前達に問う」 誰しもがローを見やった。 その目は揺れているかのように見える。 「覚悟はあるか?」 「………」 「を、背負うだけの覚悟はあるか?」 立ち上がったローは黙り込むクルーを順番に目に留める。 下を向くもの、唇を噛み締めるもの、拳を震わせるもの、呆然とするもの。 それらを視界に納めてから、ゆっくりと目を閉じる。 思うのは、の事。 「おれは、あるぜ船長」 「おれもだよ、キャプテン」 「右に同じだ」 最初に声を上げたのはシャチ、ベポ、ペンギンの3人だった。 目を開けたローは3人の姿を捉えて、フフ、と笑う。 「おれもだ!」 「を絶対見捨てねぇ!」 「そうだ!はおれたちハートの海賊団の仲間だ!!」 波紋が水面を広がるように。 次々と声が上がり、いつしか食堂内はの話題で持ちきりになった。 ドッと騒がしくなった食堂内で、腰を下ろしたローは杯を片手に一人微笑む。 次に向かうは、の故郷、ディアリフィス。 これは序章というか予告のような感じなのですが。 とりあえず始めさせて頂きました「過去編」。 過去と言っても過去の回想を織り交ぜながらになるので、時間軸は進んでおりますのでね。 一応、過去を振り返りながらも今の2人のもどかしい関係を変えちゃおうって感じですけども(苦笑) 今回は涙ありのお話にしたいと思っています!! 是非ともお付き合い下さると嬉しいです!! 2010/06/16 |