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「姫さん、きみへの驚きの届けものだ」 そこでこんのすけから預かった。 と、こちらへそれを差し出す鶴丸。 見ればそれは文で、受け取ると「恋文か?」と何処か声を弾ませた。 丁寧な文字で件の審神者殿と添えられており、その書き方から政府勅命でないことを悟る。 首を傾げて中を開くと、そこには「拝啓 桜の姫君」と何とも言えない宛名から始まっていた。 「鶴丸の予感的中だね」 「…恋文、なのか?」 「みたい」 こりゃ驚いた。と、目を丸くして手元を覗かれた。 文中や文末に相手の名前はなく、桜の姫君と対を成すように「菖蒲の帝」と書かれている。 姫君と帝。何とも形容しがたい関係性にため息さえ漏れた。 私はこの時代の恋愛事情には疎いが、送ってきた相手に思い当たる人物がいる。 「こりゃまた、随分と熱烈な恋文だな」 「歌詠みにならなかっただけまだ有難いけど…『かくも萌ゆる青葉が如く』とか、」 「燃えるほどの瑞々しい猛き恋い焦がれ、か」 「はあ…」 平安時代よろしく、歌で想いを綴られたなら返歌を考えなければならないが、どうやらそれはただただ、思いの丈を告げるためだけに書かれた手紙だった。 見た目は麗しい言葉の羅列。 その内容は花々や季節の移ろいに例えられているものの、節々の裏側には鶴丸の言うように熱烈な恋心を秘めた文章となっている。 凝った演出ではあるものの、それを素直に喜べないのは、私の気持ちが彼に全く傾いていないからだ。 「桜の姫君とあるが、あそこに桜は咲いてたか?」 「出会ったのが桜の時期だっただけでしょ…」 「菖蒲の帝、と言うのもあの男らしいが」 「ただただ御前仕合の時に私に勝ったから『尚武』と『勝負』掛けてるんだろうけど。あとちゃんと会話したのが皐月だったりとか?」 送ってきた人は、先の演練にて政府の見守る御前仕合で戦った対戦相手の男性だった。 桜の姫君とされているが、確かに出会ったあの時は弥生の月で本丸では桜の盛りの時期ではあったが、桜の下の逢瀬なんか一度もない。 菖蒲の帝も言い得て妙だが、仕合の結果は私の負けで、この男は私との勝負に勝っている。 つまり、私を桜と例えた上に自分も花に例えて菖蒲と名乗り、勝負に勝った武道を心得た者、と表現したいらしい。 ついでに言うと仕合の時は簡単に名乗った程度で、その後政府に呼ばれて邸を訪れた時に再び顔を合せて会話をしたのが皐月の事だった。 私から手紙を奪うと、ふむふむなんて言いながら文面を眺める鶴丸。 その横顔を眺めつつ、私は何度目か数えるのが面倒になったため息を落とした。 鶴丸は楽しそうだが、私はちっとも楽しくない。 むしろその後も政府邸などで度々顔を合わせる度、やたらと関係を持ちたがるその態度にうんざりしていた。 「それで?きみの気持ちは?」 「…あるわけないでしょ」 鶴丸から手紙をひったくるように奪って封を戻した。 これはこのまましまってしまおう。返事をする必要はない。 「何故だ?きみも審神者としての従事があるとはいえ、うら若き乙女だろうに」 「その言い方凄く古臭いからね」 「恋愛にうつつを抜かしてもおかしくはないと思うがな」 その言葉に、手にしていた手紙がくしゃっと音を立てる。 鶴丸が発した言葉は何気ない疑問だったのだと思うが、私には鋭利な刃物のようだった。 たかが数度、顔を合せて話しただけの男に、心奪われるほどそこまで乙女ではない。 ――それに、胸に秘めるこの気持ちを簡単に口に出来るほど私は強くなかった。 「ま、前向きに検討しても良いんじゃないか。命短し、何とやら。と言うだろう」 そう言ってくしゃりと頭を撫でた鶴丸は、笑ってこの場を後にした。 撫でられた髪に触れ、締め付ける胸元を押さえる。 「鶴丸の、馬鹿」 この恋心は、まさに一人に向けられていると言うのに。 |
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【あとがき】 うちの鶴丸は主のことを「姫」呼びしています。姫、姫さん、おひいさん、などなど。 また、本編でまだその描写について書いていないのでパッとしないですが、当サイトでの演練の扱いは「仕合」です。 審神者も含め装束に身を包み、正装で挑むのが習わしで、6口の刀剣男士と政府邸へ赴き、御前で仕合う形式となります。 更に地域、地区などからランダムに選抜が決まり、ある一定の期間は審神者及び刀剣男士の組み合わせは変わらないなどのちょっとした裏設定的なものはありますが一旦置いておいて。今回仕合った中の一人の男性審神者が、ヒロインに接触を試みてきたパターンですな。 本編に出している歌と言うか古風な言い回しの部分ですが、超絶適当なのでごめんなさい笑 それっぽい言い回しを咄嗟に考えたんですがあえなく撃沈しましたね。 続きます。 [2017/7/29] |