それはまだ見ぬ本丸の、ひとりの「審神者」の物語――


「よーし。今日も遠征と出陣ご苦労様!っと」

ポチ、とスマホのボタンを押して画面を閉じる。
近年アプリゲームの市場は右肩上がりであると報じられる中、彼女もまた、その市場に片足を浸す者の一人だった。

たった今彼女がプレイしていたのは元はブラウザゲームから始まった≪刀剣乱舞≫という、主に日本刀などを擬人化した刀剣男士たちを集め育てるゲームだ。
元々歴史や武将が好きなことも手伝い、見る見るうちにハマってしまった。

今日も今日とて“とうらぶ”を勤しむためにログインを続け、鍛刀を行い、内番を決めて、隙間の時間で遠征に送っていた部隊を出迎えて、出陣に向かわせては負傷した刀剣たちを手入部屋で休ませる。
日に日に成長していく彼らを見守る様は「審神者」と言うよりは「母親」的な気持ち(主に短刀たち)の方が近いのかもしれない。
とは言え、彼女に子はいないが。

「あーやばい。寝ないと」

時刻は丑三つ時と言われる時分。
部屋の明かりを落として布団に潜りこむ。
彼女の脳内では、明日の内番は誰にしよう。 このレシピなら誰がやってくるだろう。という思考が巡っている。
わくわくが止まらないなんて、なんて単純なんだろうと思いながらも、そんな日常が楽しかった。

その時は。また明日も、明後日も。
いつもと変わらない日常が来ると思っていた。


―――――
―――


カタリ、と引き戸が横に開き、闇の広がる部屋に明かりが差し込んだ。
光の筋に照らされて小さな埃が舞っている事に気が付き、扉を開けた者はキリっとした眉を顰める。
あいつらめ。よもや掃除をさぼったのではあるまいな。
昨日の掃除当番だった者の顔を浮かべて「まったく」とごちた。
それでもここは彼― 否 彼ら にとって神聖な場所。
居住まいと正すと、部屋に入る手前の廊下で膝を折り静かに頭を下げる。

「おはようございます。主」

明るい茶色の髪が陽光に透けて輝いた。
彼は厳かに挨拶を済ませると、テキパキと戸を開けて部屋の中に光を取込み換気を行う。
薄暗かった部屋は瞬く間に頭角を露わにし、その部屋が広く祭壇のような造りであることを浮き彫りにする。
天井から幕を張ったかのような薄布を広く亘らせ、雛壇のように階段状になった祭壇を覆うようになっているそれを、彼はそっと持ち上げて再度頭を下げた。

―― 注連縄を張ったその先に、神鏡と呼ばれる鏡が祀られている。

あれこそが、彼らが“主”と崇めるものであり。
そして言葉通り、まさしく【彼らを統べる者】である。

美しく磨かれた鏡面がきらりと光を反射すると、まるで「おはよう」と返された気がして思わず頬が緩んだ。

ああ。主はどのような声音をしておられるのだろう。
ああ。主はどのような笑顔を見せてくれるのだろう。
ああ。主はいったい。

この身を得て1年半。
彼は未だに、自分を顕現させた審神者を見たことがなければ声すら聴いたことがなかった。
そう。彼らが仕える主とは、この神鏡であり人ではなかったのだ。

こんのすけ曰く、我らの主はこちらの”現世(うつしよ)”では姿を持たぬ人なのだと。そう聞いた。
だが主はまさしく自分たちと時を同じくし、生きておられるのだと。

傍らの“絡繰り”を見て思う。
これは主の指示や主と同じ時を刻む【機械式萬年時計】。
カタカタと音を立てながらそれぞれの面が複雑な動きをしている。
日の本を写した盤面の上を動く太陽と月を表した天象儀。これは夏至や冬至の軌道も見事正確に映し出してくれた。
他には二十四節に切り分けられた和時計や、十干十二支に月齢、よもや西洋式の時計の文字盤まで。
これだけ精巧に作られていながらも、時計を動かす動力は1年に1度専用の道具を用いて巻いてやるだけなのだというのだから驚きだ。

またこの絡繰りの胴体部分には時計とは違った役割を持った面がある。鉄で出来た小さな駒に一文字ずつ字が掘られ、その組み合わせは名前を作り出していた。
それは我ら刀剣男士の名を表し、それぞれ「内番」「近侍」や本日の「遠征地」「出陣先」「休暇」などに振り分けられている。

不思議なことに、これも一日に二度、萬年時計が鐘を鳴らし始めると同時に文字盤が動き出し、鳴らし終わると同時に並びを変えるのである。
それも出鱈目な組み合わせではない。
元の主が同じ者同士、刀派が同じ者同士、更には生きた時代が同じ者同士など。

まさしくそれは、何処かにいるという主が我々に導きを与えるかのような。
それ故我らはこの「いつ」「どこで」「だれが」与えているかもわからぬ指示を『主からの“啓示”』として全うしているのだ。

本日の与えられた任を見て、彼の口元は弧を描いた。
まさにあの人らしい。そう思える布陣と人選。
その内容を紙に写し取り、そっと薄布を元に戻す。

「それでは主。本日も行って参ります」

大事そうに胸に抱えられた写しを持って、その者は部屋を後にした。



【あとがき】
はじめてしまったー。しかもお前ハマるの遅くないかというこのタイミング。
いや、始まった当初から周りでは騒いでたし、元々艦隊コレクションはやってたのでやりたかったのですが、仕事が忙しくなってからは家でPCを触ることもなくなってブラウザゲームはずっと断念していまして。
ポケットが出てからは登録のみ済ませて、元々はアプリゲームをやることが稀なので放置していたんですが、ふと何でだったか、近侍曲が流れてきて(多分youtubeでメドレーを聞いているなかに紛れてたんだと思いますが)、「え、この曲めっちゃ綺麗」と思ったら案の定。
私は志方さん大好きでして、調べたらあれもこれも志方さんの曲だというじゃありませんか。
調べるうちに「んおおお」となって、あれよあれよと言ううちにドハマリしたカンジです。ハイ。

さて、前置き長くなりましたが。夢小説始めてしまいました。
どのキャラを出していくかはまだ検討中ですが、私の本丸では運が良いことに“レア”が続々と手に入りまして、イベントドロップ以外で入手不可能な刀剣を除くとあとちょっとで全キャラ揃うくらいまでになりました。(2017年7月現在)

出来るだけ、自分の目で見て感じたままを書きたいと思っているので本丸に居るキャラたちで書いていきたいのですが、如何せん偏りすぎてしまうので、アニメ「花丸」「活撃」の知見も入れつつやっていきたいなと思います。

今のところオールキャラで本丸の日常を描くものを「連載」とし、キャラと個別に絡めたりしたのを「番外編」(連載内に埋めるかも)とし、恋愛要素多めなものは「短編」で切り分けたいと思います。
設定はすべて、この連載のものをベースに書いていきたいなと思ってます。

(ちなみに偏りなくとは書いていますが、如何せん推しがいるので自然と寄るかも…先に謝っておきますね。。。)

[2017/7/18]