|
屋上に出る階段の踊場まで走ってきて膝の力が抜けた。 ガクリと膝をついて、その瞬間に目の淵に溜まっていた涙が零れ落ちる。 そのまま膝を抱えるようにして壁に凭れ掛かって蹲った。 紫原くんに見られた。 何故かそれがとてつもなくショックだった。 飯田くんに告白されたことよりも、それが罰ゲームか何かだったということよりも。 彼の低い声がまだ耳に残っている。 すれ違いざまに見た彼の目が忘れられない。 「(わたし…)」 気が付けば紫原くんのことばかり考えていた。 溜まっていた涙が大粒になってぽろりと落ちていく。 どちらかと言えば飯田くんに告白された、ということの方が大事なのに。 それよりも後から教室に現れた紫原くんのことばかりを気にしていて。 ぎゅっと抱え込んでいた腕のワイシャツを握り締める。 私だから、私にはお菓子をくれると言ってくれた時。 私の胸はどきんとした。 試合に臨む間際、こちらを振り返って笑った彼に。 私の心臓は鷲掴まれたかのように高鳴って。 素っ気ない態度を取られた時。 今までにないくらい切なくて苦しくなった。 ムカつくと言われた時は涙が溢れた。 嫌われたと、縮まっていたはずの距離がまた離れてしまったのだと。 胸が裂けそうに痛かった。 朝練習の時、突き指したという彼を見ようと伸ばした手を弾かれた時。 振り払われた手より心が辛くて。 なんだ、わたし馬鹿みたい。 こんなにも近くにいたじゃないか。 私が嬉しくなるのも。 私が悲しくなるのも。 私が苦しくなるのも。 それが出来るのは―― 「や…っと、見つけたし」 「!」 聞こえた声に膝に埋めていた顔を上げた。 踊り場の階段のずっと下、そこに紫原くんがいた。 走ってきたかのように肩で息をしていて。 口が自然と動く。 「な、んで」 何で彼がここに。 いや、それとも探していた?私を? 彼が階段に足を掛ける。 びくっとして立ち上がりそうになる。 上はもう屋上だから逃げ場なんてないけれど。 今彼と顔を突き合わせたら。私はどんな顔をすればいいのか分からない。 紫原くんの足はまるでそれが一つ分だと言うように大股で階段を二段飛ばしで登る。 ああ、距離が縮まってしまう。 今私酷い顔してる。こんな顔、見られたくない。 慌てて足を伸ばして動こうとしたけれど。 「逃げんなし」 「ッ!」 気付けばもう彼は目の前にいて。 前に部室で壁に縫いとめられたように、私は階段で彼に退路を塞がれる。 私の体の横に置かれた手が、体を支える私の手と触れそうになって。 じり、と下がった時に触れてしまった指先は、彼の大きすぎる手で押さえつけられてしまった。 顔がすぐ目の前に来て、慌てて下を向く。 「むっく、」 「何もしねーから、逃げんなし」 彼の吐き出す息が前髪に掛かってぎゅっと目を瞑る。 顔は涙でぐちゃぐちゃだから見られたくないし、それより何より。 紫原くんが好きだと意識したのがついさっきなので心の整理が出来ていない。 それなのにこんなに近くに。 悲しいのか嬉しいのか分からなくなってしまう。 「アイツ、」 「……」 「ちんのこと、泣かせたから」 「……」 「ヒネリつぶそうかと思ったけど……やめておいたし」 ぎゅっと押さえつけられていた手が握られる。 ぴく、と反応したのが紫原くんにも分かったのか一瞬それが緩むけど、再びきゅっと握られた。 「ゴメン」 「……?」 ちら、と顔を上げて彼を見る。 本当にすぐ近くに紫原くんの顔があって、前髪越しに私が窺っているのが分かったのか彼が目線を落として私を視界に入れる。 彼の目はちょっと、優しく見えた。 「でもオレ、譲れなかったし、ちんのこと」 「……むっく、ん…?」 「こんな時に卑怯かもしんないけど、オレやっぱり負けられないから」 「……なに、を」 「好き」 その言葉に一瞬耳を疑う。 上目遣いをやめて改めて顔を彼に向ける。 彼の目に、目を見開いている私が映っていて。 「オレ、ちんが、好きだし」 だから誰のものにもならないで。 そう言った彼は、私の肩に頭を落とした。 |
|
【あとがき】 この体勢、Twitter民ならお分かりでしょうか。一時期壁ドンやら蝉ドンやらが流行った時がありまして。 その時に階段の段差でもう逃げられないドン…?だっけな。そんなんがあったんですけど。 あれをやらせたくて!!でも表現下手で凄く分かりにくい!悔しい!!← とりあえずやっと、告白までこぎつけました。やっぱり告白は男の子からの方が嬉しいなっていう私の悪あがき。 [2013/11/8] |