結局そんなずるずるとした考えが纏まらず、お菓子もまともに食べられなかった。
全然お菓子を口にしないオレに友達が「腹でも壊したのか?腹いてーのか!?」なんて言ってきて。
ウザかったからヒネリつぶしておいた。

部活に向かい、いつものように練習に取り組んでも。
シュートは外すしパスは取り損ねるしキックボールまでするし。
って言うか今のパスのせいで今朝の指先が痛む。
突き指はしてないと思うけど、じんじんしてるし。

「アツシ」
「……なに、室ちん」
「ちょっといいか?」

く、と親指を立てて体育館の外を指さす。
指先を追って外を見た視線をもう一度室ちんに戻せば、「話しがしたい」と言ってオレの返事も聞かずに歩き出していて。
オレは抱えていたボールを一度籠に戻して、その背中を追い駆けることにした。

「今朝の答えは、纏まった?」
「……原因がどうとかってやつ?」
「そう」
「考えたけどよく分かんねーし。って言うか、敵は敵だし」
「敵……ああ、アツシはそう解釈したのか」

バスケのことを言ったつもりはなかったのに、と室ちんが苦笑する。
何だしそれ。それなら最初からもっと解りやすく言えばいいのに。
時々出る室ちんの遠回しな言い方、好きじゃない。そんなところに気を遣うなら、もっとはっきり言ってやれば済むことだし。
有耶無耶にされるよりよっぽど解りやすくて、相手が悩まずに済むのに。

「そうだね。アツシにははっきりと、解りやすく。ストレートに言った方が良かったかな」
「……ヒネリつぶさないから言えば?」
「原因、さんだろ?」

本当にストレートすぎて、一瞬意味を理解し損ねた。
オレがムッとしたせいか、「だからストレートに言うって、言っただろ?」なんて笑う。
室ちんの笑い方、小ばかにしてるみたいでむかつくし。
まるで自分は全てを分かっているかのような。そんな。

「何でだし」
「勘、と言いたいところだけど、今朝彼女の顔を見て確信したよ」
「……」
「彼女を泣かせたのか?アツシ」

ぐっと拳を握り込む。
彼女が泣いたのか、泣いてないかは知らない。
実際に目の前で涙を流した訳じゃないから。
でも、今朝部室で彼女を見た時、目が充血してるのは知っていた。
泣かせた。彼女を。また軋む音がする。

「知らないし」
「…目は真っ赤だったし、目蓋も少し腫れていた。確かめるついでに問いかけてみれば面白いくらいに分かりやすい反応を返してくれたよ」
「ふーん」
「原因はキミだろ、アツシ」
「だから知らないって」
「部室に彼女がいるから着替えは体育館でするよう言ったのはアツシだっただろう」
「だったら、」
「アツシ、」

声を荒げそうになったところで、それと押し潰すように室ちんが声を被せた。

「質問を変えよう。アツシは彼女のことをどう思っている?」
「はあ?」

質問の意味を理解しかねる。
そもそもに、その質問に何の意味があるんだし。
どう思ってる?そんなの。

「ただのクラスメイトでマネージャーじゃん」
「肩書の話じゃないよ。アツシの気持ちの問題だ」
「それに何の意味が、」
「オレは、彼女は可愛いと思っているよ」

室ちんの言葉に、眉を寄せて顰める。
一呼吸置いた後、室ちんは言葉を続けて。

「健気で、律儀で、真面目で。よく気が付くし、器量も悪くない」
「何それ」
「笑った顔は可愛いし、その度に癒される」
「…ッ」
「女性として、魅力的なものを、彼女は持っている」

室ちんがそうやって彼女を褒める言葉を重ねるたびに、オレの呼吸が重くなる。
唾を飲み込むのも億劫になって、苛立ちが募っていく。

「ねえアツシ、今どんな気分?」
「ムカつく」
「それは、オレが彼女を褒めたから?」
「分かんねーけど、ムカつくし」
「それはオレが、彼女のことを好きだと思ったからじゃないのか?」

室ちんが、さんのことを、好き?
一瞬頭が真っ白になった。
もう一度その言葉を反芻して、オレは室ちんを睨み付ける。
ヒネリつぶさないってさっき言ったけど、今凄くヒネリつぶしたい。

「そう怖い顔をしないで欲しい。でも、そういう顔をするってことは、オレにさんを取られてしまうのが嫌だから、だろう?」
「っ」
「彼女のことが好きなんだろ?」

オレが"さんのことを好き"ってどういう意味だし。
多分そういう顔をしていたのだろう。
室ちんが「言葉のままの意味だよ」なんて補足する。

「例えばオレがアツシの楽しみにしていたまいう棒を取ったとする。どんな気分?」
「ムカつく。室ちんでもヒネリつぶす」
「怖いな。ならその時は別のものを買い直すよ」
「それなら…」
「じゃあ、さんが誰か、例えばクラスメイトの男子とキスをしていたとする。彼女は男子に笑みを向けている。どんな気分?」
「…ムカ、つく」
「でも彼女はその男子と付き合っていると言う。他の別の誰かにしてくれと言われる。アツシはそれで許せる?満足出来る?」

地域限定のまいう棒。楽しみにしていた最後の一本を室ちんが取ったとする。
ムカつく。多分室ちんでもヒネリつぶすと思う。
でも、新しいものを買い直してくれるって言うなら話しは別。

さんがクラスの男とキスをする。そいつに笑いかける。
想像したら、凄くムカついた。
もし、彼女がそいつと付き合ってるから、別の誰かにしてくれと言ってきたら。
オレは。

「やだ」

それは、嫌だ。許せない。
他の誰かのものになる。そんなの嫌だし。
オレを自分の間合いに引き込んで。オレの中にまで勝手に入ってきて。
今更忘れて欲しいなんて無理だ。だってオレは。

「それが好きってことだよアツシ」
「…でも、ちん見てるとイライラするし」
「それはアツシが彼女をよく見るようになったからだろうな」
「……なん、」
「彼女の目が、彼女の笑顔が、彼女の優しさが。自分じゃない別の誰かに向けられる」
「……」
「それを独り占め出来ないから、アツシはイライラしてるんだ」

室ちんの言葉にオレの中で軋む音を立てていたものが崩れる。

気が付けば、彼女との時間が増えた。
だから気になった。
いつも何処か無理をしているような彼女が。
何だか似ていると、思った。
だから掴み掛けた手を離したくなかった。
無理やり誘うような形になったバスケ部のマネージャーも。
もっと彼女の違う表情を見たいと思って。
事実彼女がマネージャーになったことで部活の雰囲気は良くなったと、思う。
何よりサポートの手助けがあると楽だった。
でも彼女はバスケ部のマネージャーだから、当たり前のようにオレ以外との時間が増える。
皆が、オレと同じように時間を積み重ねていくのを見るたび、焦りが生まれた。
だからムカついたしイライラした。

彼女の中で、オレという、紫原敦という存在は、もっと大きいと思っていたから。

でもそれが違うのだと思った時。
途方もない黒いものが湧きあがった。
彼女を最初に傷つけた時、心の何処かでそうやってもっとオレで苦しめばいいのにと思ったのは事実だ。
でも怯える彼女がどんどんオレから遠ざかる。
何でだろう、どうしてだろう。上手く行かない。
胸がもう黒いもので満たされて苦しかった。

だからどうしようもなかった。
分からなかったんだ。

でも。

―― 彼女のことが好きなんだろ? ――

ああ、なんだ。
簡単なことだった。答えをオレは持ってたんだ。
ただ、握り締めてて分からなかった。

「(オレ…好きなんだ)」

崩れ落ちたところから、黒いものが抜けていく。
答えが出たら苦しかった閊(つか)えが取れた。
室ちんを見ればオレの顔を覗き込みながら笑っていて。
何その顔。ムカつくし。

「お節介ついでにもうひとつ」
「何だし…」
「彼女、さっき校舎に入って行ったよ、男子生徒と」
「っえ」
「ぼんやりしてると、誰かに取られちゃうかもね」
「ッッ!!」

オレは、室ちんの言葉を最後まで聞かずに走り出していた。


【あとがき】
なんていうか、氷室さんは敵に回したら駄目だと思います(笑)
自分で書いている作品なのに、むっくん頑張ってなんて心の中で応援しておりました。
とりあえずここが、むっくんに好きだと自覚させるここが一番苦労して難産しました。
お菓子の好きと、何が違うのか。他の女子と何が違うのか。何故こんなにも葛藤したのか。
それを分かってもらうために言葉を色々選んで考えましたがまあ難しかったです(苦笑)
本当は最初から全部持ってたのにね、って言うお話。

[2013/11/15]