いまいち調子が出ない。
打ち込むシュートはどれもリングに弾かれて中に入らない。
ダンクをすれば叩きこめるかも、と片手でボールを鷲掴むと。

「紫原、ダンクは禁止アル。またゴール壊すアルよ」
「そうだぞお前。いくつうちのゴール壊す気だよそろそろ弁償しろー」

ああ、うるせェし。
返事を返さずに持っていたボールを床に叩き付ける。
ダン、と凄い音がして跳ねあがったボールはバウンドすると室ちんがそれをキャッチした。

「荒れてるようだけど、どうかしたのか?」
「別に」

今は誰とも話なんかしたくない。
言えば何かを言われるかもしれないし。
だってオレは間違ってないし何も悪くない。
何を言われる筋合いもない。

「手を休める暇があったら練習せんか!」

その声にそれぞれ練習に戻る。
オレは福ちんと組んでパスからのフェイダウェイを撃つ。

その時体育館の入口のところにさんが立ってるのが見えた。
それに気が付いた室ちんがすぐに走り寄って声を掛けている。
ふと、室ちんが彼女の頬に手を伸ばすのが見えた。
彼女が少し表情を変える。
何だし。室ちんだとそういう顔するんだ。オレの時は怖がったくせに。

直後、ヒュッと空をボールが切る音が聞こえた。
そうだ、ボール。
しかし反応が遅れたせいでボールはもう目の前に迫っていて。
咄嗟に出してしまった手に走る衝撃。

「お、おい紫原大丈夫か!?」
「どうしたんですか!?」
「パスを受け止め損ねて突き指したっぽい」

福ちんの声の後、さんが走ってきて指先を押さえるオレの手元を覗き込む。
余計なこと言わないで欲しいし。
別に手なんかどうともない。ただボールを弾いたらちょっと痛かっただけだし。

「いい。平気だし」
「良くないよちゃんと湿布貼らないと」
「大丈夫だし」
「でもっ」
「いいってば!!」

さっきあんなことをしたばかりなのに普通に接する彼女が嫌だった。
強引にでもオレの手を見ようと伸ばす彼女の手を振り払う。
別に力を込めた訳じゃないのに彼女の体は簡単に離れて、傾く。

「オイ紫原今のはないだろ!!」

よろけて倒れそうになった彼女を受け止めたのは福ちんだった。
ああもう、何もかもがムカつくんだし。
優しくしないで欲しいし。早く突き放せばいいのに。
彼女の心配を含んだ声が嫌だ。同情なんかして欲しくない。
彼女の肩を支える手も嫌だ。彼女の頬に触れた手も嫌だ。

「あーもう、うるさい!ヒネリつぶしたくなるッ!!!」

オレを怒鳴りつけていた声を振り切るように体育館を出て行く。
逃げるなんてこれ以上の屈辱なんてないのに。
耐えきれない。
何なんだし。オレ、どうしたらいいんだし。

---

「アツシ」
「………」

追い駆けてきたのは室ちんで。
オレは適当な木の下に座り込んで頭を抱える。
手はもう痛くない。それよりもっと別の場所の方が痛い気がする。

「アツシ、あれは良くないだろう」
「うるせーし。室ちんヒネリつぶされたいの?」

何で追い駆けてきたんだろう。
放っておけばいいのに。
オレだって子供じゃないんだから、いつまでもここに居る訳ないのに。

さん、傷ついたんじゃないかな。あんな扱いされて」

多分じゃない。絶対もう傷ついてる。
だってオレがそうしたんだし。

「……アツシ、戻ろう」
「いい」
「アツシ…」
「分かってっから、放っておいて」
「いい加減にしろ!」

室ちんの怒鳴り声、初めて聞いたかもしれない。
前髪の間から室ちんを見れば、険しい表情をしている。
怒ってるの?何で室ちんが怒ってるんだし。

「うるさ」
「………お前は何にイラついてるんだ」
「……」
「自分のフラストレーションを人にぶつけて楽しいのか?」
「…室ちんに何が分かるんだし」
「言葉にしないと伝わらないと言っているんだ」
「………」
「アツシ、どうせ今の血が昇っている状態で何を言われても響かないだろうから、オレは戻る」
「………」
「だけど、最後に言わせてもらう」

だんだん頭が冷えてきて、オレは何も言わず室ちんの説教まがいの言葉を聞いていた。
最後に、と言われて顔を上げれば室ちんが詰めていた息を吐き出して。

「ちゃんと原因と向き合うべきだ。他人を叱責する前に、まずは考えてから結論を出す」
「……」
「…だから、アツシは敵を作りやすいんだよ」

室ちんの言葉尻が柔らかくなって元に戻る。
その表情は先程と違っていつもの苦笑になっていた。

「けど、そんなアツシに分け隔てなく接してくれた人がいるだろう?」

よくよく考えてみて欲しいな、と残して室ちんは体育館へ戻って行った。
何を言っているのかいまいち理解が出来なくて、そのままぐったりと木に凭れ掛かる。

何でだろう。思い浮かぶのは、彼女の顔ばかりで。
それと同時にちくりと胸が痛んだ。


【あとがき】
何だかんだ言っても目で追ってるあたり、って言葉を付け加えておきましょうか(苦笑)
怒鳴る氷室さんが書きたかっただけって言う。
怒るときはお前とか言いそうっていう勝手なイメージ。

[2013/11/14]