試合帰り、私は荷物を持ちながら皆の最後尾を歩いていた。
前方では荒木監督が先輩たちに今後の課題などを確認している。
そんな中、列の一番後ろ、私の前には紫原くんがいて。
その背中を見つめながら今日の彼を思い出していた。

途中までは普通だったと思う。
彼がああいう視線を向けてきたのは初めてのことで…。
いや、初めてじゃない。
そうだ。教室で、マネージャーに誘われた時に、怒鳴った時の目に似てる。
あの視線はどういう意味だったんだろう。

思わず口からため息が漏れた。

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学校に戻ってきた頃にはすっかり陽は暮れていた。
荒木監督は体育館に一度部員を集めると、今後の予定だけをざっくり述べてそれぞれ帰宅するよう告げる。
私はドリンクボトルを洗ってしまおうと一度部室へ行くことにした。

「洗ったあとテーブルに置いておけばいいかな」

乾いたタオルをテーブルに広げて濡れたボトルを置いておけるようにする。
後は外の水道でドリンクボトルを洗うだけだ、と、カゴを持ち上げたところで部室の扉が開いた。
入ってきたのは紫原くんだった。

「あ…っと、お疲れ、さま」
「………うん」

気まずい。
紫原くんも入ってきて最初に驚いた時にこちらを見たっきりで、その後どう繋げようか迷っているようだった。
私も何か言わないと、と思うのだが、頭に浮かんでくるのは先程の視線のことばかりで他に思いつくことがない。
とりあえず私はボトルを洗うんだ。そうだ。

「えと、私これ洗うから…じゃあ、」
「…………」
「………むっくん…?」

扉の前にいる彼に暗にそこを譲ってくれという意味で扉に向かったのだが、紫原くんは動くどころか扉の前に立って。
頭上に影が出来る。
顔を上げればこちらを見下ろしている彼。
怒っているでも笑っているでもない、無表情に近いそれでじっと見られて。

「あ、の…」
「何でだろ」
「え、」

ふっと顔に落ちる影が濃くなる。
気付けば紫原くんは手を壁について身体を屈めていた。
いつもは遠い彼の顔が近くに迫る。
ひゅっと呼吸を飲み込んで瞬き。
驚きも相俟って後ずさると、背中に壁が当たった。

「別に何ともなかったのに」
「む、っくん…?」
「すげームカつく」
「!?」

更に距離を縮めて、紫原くんの顔が目と鼻の先に来る。
蛍光灯の光を完全に遮断してしまうほど紫原くんは大きくて、影になる彼の顔は疑問を持っていると言うよりは冷えた、 まるで他人に向けられるような鋭い目をしていて。
ムカつく、と細められた目から光が消える。
私、嫌われた…の?

「むっ」

私が何かを言う前に、紫原くんがスッと体勢を元に戻して一歩下がった。
心臓が違う意味でばくばくしている。
それには少し恐怖も混ざっていて。
狼狽えて口をぱくぱくしていると、その間に紫原くんは鞄を肩に掛けて出て行った。
その瞬間、膝から力が抜けてがくりと座り込む。

「な、んで」

嫌われた、と思った瞬間、ぽろりと涙が零れた。
膝の上に落ちた滴が跳ねて飛び散る。
ぽつり、ぽつり、とそれは落ちて、私は顔を覆った。

胸がとても痛かった。


【あとがき】
ついに言わせてしまった(笑)
むっくんの抱えている感情と、彼女が抱えているものは同じはずだけども、二人とも解釈が違うので答えに辿り着けない。
まあようは二人とも不器用なんですけど。
直接的に嫌いだとは言わせたくありませんでした。でもそれに似た言葉。
遠ざける言葉は意外と普段口にしているもののほうが効果はてき面なような気がします。口にする時のタイミング、表情によっては、ね。
さりげなく壁ドン入れてみた。(←ここ重要)

[2013/11/7]